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第一部 <リデンプション・ビギニング>
"金塊"のリッテンハイム
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★★★★★★
話し合っているうちに、俺達はアレクセイの家に到着した。
アレクセイの家は街の外れの林にあり、人通りはほとんどない。
なんでも、彼は木を切って生計を立てているのだとか。
ブルックリンがドアをノックすると、少しの間の後に立派な髭を生やした小太りの男が出てくる。
彼がアレクセイだろう。
「おお、ブルックリンさん。どうなされた?」
「ここにリッテンハイムさんは来ていないかね? ここにいる彼が会いたいそうだ」
ブルックリンが俺を指し示したので、軽く頭を下げる。
が、俺はその時不思議な光景を目にした。
俺を目にした途端に、アレクセイがおろおろし始めたのである。
あまりにも唐突で、わかりやすい動揺ぶりだった。
「そっ、そそそうでしたか。あああすみません、リッテンハイムさんは既に出ていかれました……」
「?」
「ほ、本当です! あの人は自由気ままな方でして!」
何だろうか。
この男は何故ここまで動揺している。
俺を恐れているのか?
だとしたら何故……?
「そうだったかぁ……」
ブルックリンががくりと肩を落とす。
そして、俺に頭を下げてきた。
「悪い。無駄足になっちまった」
「気にするな。リッテンハイム氏がここにいないという情報を手に入れることはできたんだ」
「そうか。本当に申し訳ねえな。それと、おいらはこれ以上捜索に加われねえんだ……」
「それまた何故に?」
「このアレクセイに呼び出されていてな。悪いが、ここでお別れだ。1人でも探せるか?」
「ああ、任せな」
ブルックリンはニッと口角を上げて、右手を差し出してくる。
俺は迷わずその手を取り、硬い握手を交わした。
「それじゃあ、達者でな」
「いつかお返しはするよ、ブルックリン君」
手を離し、今度こそ別れの時が訪れ──。
「待ったぁぁ!」
聞き覚えのある叫び声に、俺は反射的に振り返る。
ミッチャーと須郷がこっちに走ってくるのが見えた。
須郷は拳銃、ミッチャーは刃の太い剣を持っている。
「どうした2人とも」
「そいつだ!」
今度は須郷が叫ぶ。
「その男がジュネーヴ・リッテンハイムだ! 奴は整形しているんだ!」
俺はブルックリンに素早く顔を向ける。
先程までの友人を見つめる目ではなく、獲物を見つけた鷹の目だ。
「……どういうことだ」
自分でも驚くくらい、声のトーンは低くなる。
アレクセイ氏と同じ、いやそれ以上に彼は動揺し始めた。
それが、俺に奴の正体を確信させた。
「は、はあ? どういうことだ? おいらはブルックリン。みんなのブルックリンだ。それ以上でもそれ以下でもねえ。ブルックリンなんだよ」
「誤魔化せねえぞ! 全部割れてんだよ! どこで整形したかとかもわかってるぜ!」
ミッチャーは勝ち誇った表情で紙を突き出す。
描かれているのはブルックリンの似顔絵と、恐らく整形を行った店舗。
それを見たブルックリンは、醜く顔を歪めた。
間違いない。
こいつがターゲットだ。
「みんなのブルックリン? 素敵な偽名使うより、有益な本名を名乗るんだな、ジュネーヴ・リッテンハイム」
周囲を目で確認する。
通行人はいない。
この林道にいるのは俺と須郷、ミッチャー、ブルックリン、アレクセイだけだ。
「お、おい……、なんだよそれは?」
俺が箱を開けて取り出したもの。
それを目にしたブルックリンは、震える声で尋ねてくる。
「銃だ」
答えは、それだけ。
奴が何か言う前に、俺は頭部めがけて引き金を引いた。
正面から銃弾を受けた巨漢は、大きくのけ反る。
だが、倒れるまでには至らず。
むくりと元の体勢に戻ったブルックリンの顔は、銃弾を受けた箇所からひび割れていき、あの似顔絵通りの顔が現れる。
金髪の美男。
褐色の肌。
筋骨隆々の兄貴肌。
鍵の関係者、ジュネーヴ・リッテンハイム。
「おいらはな、本当はな、戦いなんてしたくねえんだよ。でも、襲われたんだったら身を守らなくちゃならねえよな」
ブルックリン、いや、リッテンハイムの拳が金色に染まっていく。
金属特有の光沢を放ちながら、グーの形に握られた手は金塊と化していった。
「でも、なんで……。助けてやったのに。殺すつもりもなかったのに。おいらは……」
「こっちは殺す対象だったというだけだ。諦めろ、ジュネーヴ・リッテンハイム」
リッテンハイムの歯がギリギリと音を鳴らす。
状況を察したのか、木こりのアレクセイは悲鳴をあげて家の中に逃げ込んだ。
それが開始の合図となった。
先に飛び出したのはリッテンハイム。
金の剛腕を唸らせながら俺に突撃してきた。
俺は右から頬を狙って繰り出される拳をしゃがんで回避し、前転する。
それから、素早く銃口を向け、がら空きの背中へ弾丸を数発撃ち込む。
銃弾が命中する直前、彼の背中は金色に染まり、乾いた金属音と共に跳ね返す。
「この野郎、銃弾が効かねえのか!」
ミッチャーに言われずとも、それくらいは俺にもわかる。
銃弾が跳ね返るほどの硬さの金塊。
あんなのに殴られればひとたまりもないだろう。
「おいらはただ、優しく生きたいだけなのに!」
「こっちも問題を抱えてるんだ。解決のための足掛かりになってくれ」
リッテンハイムが吠えた。
反転し、訳のわからないことを喚き散らしながら向かってくる。
「助けに行かねえと!」
ミッチャーが加勢しようと走り出すが、目の前に何者かが立ち塞がり、行手を阻んだ。
アレクセイだ。
「り、リッテンハイムさんに手を出すんじゃねえええええ! 優しい気持ちを踏み躙る外道の中のド外道がよおおお!」
手にしているのは、斧だ。
「おおおっ!」
振り下ろされた斧をなんとか剣で受け止めるミッチャー。
アレクセイが余計なことをしたせいで、ミッチャーの加勢は望めなくなった。
1人でやるしかない。
突撃してくる金の塊を、1人の手で加工してやらなくてはならない。
トロフィーでも作ってやろうか。
話し合っているうちに、俺達はアレクセイの家に到着した。
アレクセイの家は街の外れの林にあり、人通りはほとんどない。
なんでも、彼は木を切って生計を立てているのだとか。
ブルックリンがドアをノックすると、少しの間の後に立派な髭を生やした小太りの男が出てくる。
彼がアレクセイだろう。
「おお、ブルックリンさん。どうなされた?」
「ここにリッテンハイムさんは来ていないかね? ここにいる彼が会いたいそうだ」
ブルックリンが俺を指し示したので、軽く頭を下げる。
が、俺はその時不思議な光景を目にした。
俺を目にした途端に、アレクセイがおろおろし始めたのである。
あまりにも唐突で、わかりやすい動揺ぶりだった。
「そっ、そそそうでしたか。あああすみません、リッテンハイムさんは既に出ていかれました……」
「?」
「ほ、本当です! あの人は自由気ままな方でして!」
何だろうか。
この男は何故ここまで動揺している。
俺を恐れているのか?
だとしたら何故……?
「そうだったかぁ……」
ブルックリンががくりと肩を落とす。
そして、俺に頭を下げてきた。
「悪い。無駄足になっちまった」
「気にするな。リッテンハイム氏がここにいないという情報を手に入れることはできたんだ」
「そうか。本当に申し訳ねえな。それと、おいらはこれ以上捜索に加われねえんだ……」
「それまた何故に?」
「このアレクセイに呼び出されていてな。悪いが、ここでお別れだ。1人でも探せるか?」
「ああ、任せな」
ブルックリンはニッと口角を上げて、右手を差し出してくる。
俺は迷わずその手を取り、硬い握手を交わした。
「それじゃあ、達者でな」
「いつかお返しはするよ、ブルックリン君」
手を離し、今度こそ別れの時が訪れ──。
「待ったぁぁ!」
聞き覚えのある叫び声に、俺は反射的に振り返る。
ミッチャーと須郷がこっちに走ってくるのが見えた。
須郷は拳銃、ミッチャーは刃の太い剣を持っている。
「どうした2人とも」
「そいつだ!」
今度は須郷が叫ぶ。
「その男がジュネーヴ・リッテンハイムだ! 奴は整形しているんだ!」
俺はブルックリンに素早く顔を向ける。
先程までの友人を見つめる目ではなく、獲物を見つけた鷹の目だ。
「……どういうことだ」
自分でも驚くくらい、声のトーンは低くなる。
アレクセイ氏と同じ、いやそれ以上に彼は動揺し始めた。
それが、俺に奴の正体を確信させた。
「は、はあ? どういうことだ? おいらはブルックリン。みんなのブルックリンだ。それ以上でもそれ以下でもねえ。ブルックリンなんだよ」
「誤魔化せねえぞ! 全部割れてんだよ! どこで整形したかとかもわかってるぜ!」
ミッチャーは勝ち誇った表情で紙を突き出す。
描かれているのはブルックリンの似顔絵と、恐らく整形を行った店舗。
それを見たブルックリンは、醜く顔を歪めた。
間違いない。
こいつがターゲットだ。
「みんなのブルックリン? 素敵な偽名使うより、有益な本名を名乗るんだな、ジュネーヴ・リッテンハイム」
周囲を目で確認する。
通行人はいない。
この林道にいるのは俺と須郷、ミッチャー、ブルックリン、アレクセイだけだ。
「お、おい……、なんだよそれは?」
俺が箱を開けて取り出したもの。
それを目にしたブルックリンは、震える声で尋ねてくる。
「銃だ」
答えは、それだけ。
奴が何か言う前に、俺は頭部めがけて引き金を引いた。
正面から銃弾を受けた巨漢は、大きくのけ反る。
だが、倒れるまでには至らず。
むくりと元の体勢に戻ったブルックリンの顔は、銃弾を受けた箇所からひび割れていき、あの似顔絵通りの顔が現れる。
金髪の美男。
褐色の肌。
筋骨隆々の兄貴肌。
鍵の関係者、ジュネーヴ・リッテンハイム。
「おいらはな、本当はな、戦いなんてしたくねえんだよ。でも、襲われたんだったら身を守らなくちゃならねえよな」
ブルックリン、いや、リッテンハイムの拳が金色に染まっていく。
金属特有の光沢を放ちながら、グーの形に握られた手は金塊と化していった。
「でも、なんで……。助けてやったのに。殺すつもりもなかったのに。おいらは……」
「こっちは殺す対象だったというだけだ。諦めろ、ジュネーヴ・リッテンハイム」
リッテンハイムの歯がギリギリと音を鳴らす。
状況を察したのか、木こりのアレクセイは悲鳴をあげて家の中に逃げ込んだ。
それが開始の合図となった。
先に飛び出したのはリッテンハイム。
金の剛腕を唸らせながら俺に突撃してきた。
俺は右から頬を狙って繰り出される拳をしゃがんで回避し、前転する。
それから、素早く銃口を向け、がら空きの背中へ弾丸を数発撃ち込む。
銃弾が命中する直前、彼の背中は金色に染まり、乾いた金属音と共に跳ね返す。
「この野郎、銃弾が効かねえのか!」
ミッチャーに言われずとも、それくらいは俺にもわかる。
銃弾が跳ね返るほどの硬さの金塊。
あんなのに殴られればひとたまりもないだろう。
「おいらはただ、優しく生きたいだけなのに!」
「こっちも問題を抱えてるんだ。解決のための足掛かりになってくれ」
リッテンハイムが吠えた。
反転し、訳のわからないことを喚き散らしながら向かってくる。
「助けに行かねえと!」
ミッチャーが加勢しようと走り出すが、目の前に何者かが立ち塞がり、行手を阻んだ。
アレクセイだ。
「り、リッテンハイムさんに手を出すんじゃねえええええ! 優しい気持ちを踏み躙る外道の中のド外道がよおおお!」
手にしているのは、斧だ。
「おおおっ!」
振り下ろされた斧をなんとか剣で受け止めるミッチャー。
アレクセイが余計なことをしたせいで、ミッチャーの加勢は望めなくなった。
1人でやるしかない。
突撃してくる金の塊を、1人の手で加工してやらなくてはならない。
トロフィーでも作ってやろうか。
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