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第一部 <リデンプション・ビギニング>
魔王の刺客のストエダさん
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「な、なんだァ、貴様! どこからともなく急に現れおって!」
スコルツェニーが凄んでみせ、部下も銃を向ける。
普通の人間なら恐怖し、降伏するのだろうが、当の女は全く意に介さない様子でこっちを見据えていた。
それが、俺の警戒心をさらに高める要因となる。
しかし、いつの間に現れたのだろうか。
スコルツェニーとのやり取りに夢中になっていたとはいえ、真正面の玄関に誰か来れば気づけたはずだ。
「んゥー、ホントに予想外ですねえ。流れる血がこんなにも増えてしまうなんて……。嘆かわしいことです」
不気味な笑みを浮かべたまま、女は言った。
物腰は柔らかく、甘い声色をしていた。
「我らが王も、このようなことは望まぬでしょうにい……。だって、平和主義者ですものお」
「何を言っておるのだ、貴様。流れる血が増えるだと? ボケ老人でもあるまいし、おかしなことを言うのはよしたまえ」
スコルツェニーは単に頭のおかしい女としか見ていないようだ。
俺も最初はそう思ったが、トゥピラやマーティンの態度を見て考えを改める。
彼女らは、あからさまに怯えていた。
「ちょっと、ちょっとちょっと……! あの顔ってもしかして……! 見間違えてないんだとしたら、私達、本気で死ぬんじゃ……」
「うん、そうかもね……いや、絶対にそうだ。あれは間違いなく手配書で見た顔だよ」
「手配書? 賞金首か何かか?」
俺がマーティンに訊くと、青い顔での頷きが返ってきた。
「その通りだよ。懸賞金がかけられてる。なんてったって、魔王の部下だからね」
「魔王か……。これまた古のロールプレイングゲームみたいな……」
俺の言葉は無視して、マーティンは続ける。
「確か、名前はストエダ。政府高官の暗殺や無抵抗の市民を虐殺した容疑で追われてる危険人物だよ」
「あら、坊や。よく知ってますわねえ。お姉さん、嬉しい……」
漆黒のシスター改めストエダは、ポッと顔を赤らめて頬に手を当てた。
美人がこんな仕草をすれば普通は見惚れたりするものだが、マーティンの話が本当なら、あの女はとんでもない犯罪者だ。
そんなことできない。
やっていられるほど状況は安全ではないのだ。
「チクショー、カワイイ! こんな時じゃなかったらお付き合い申し込んでたぜ!」
……残念、ゾーリンゲンだけは違うみたいだ。
「まあまあまあ……。ありがたいですけれどお、平時だろうと有事だろうと、あなたとお付き合いするつもりはありませんのでえ」
「あひゅん……」
「面白い子達ですけどお、ここでお亡くなりになっていただくのに代わりはありません。運命ってば残酷う」
マーティンが「ヒッ……」と小さく悲鳴をあげる。
小屋の中の空気はピリピリと張り詰め、俺の両目もストエダを捉えて離さなかった。
「……何故俺達を殺す?」
「そうよ! 目的はなんなの!」
「うーん、そればっかりは言えませんねえ。ワケアリですよ、ワケアリ。例え端的な情報でも、お話しできませんともお」
スコルツェニーが低く唸る。
かと思えば、部下に再び目配せして、自身も腰のホルスターから拳銃を取り出した。
モーゼルC96だ。
計5つの銃口が、ストエダを狙う。
「知っておるか? 獲物を横取りされた肉食獣は、激しく怒り狂い見境がなくなるのだ。目的が同じなのだとしたら、命乞いは受け付けんぞ」
スコルツェニーの言葉が終わった直後、部下の親衛隊員が発砲した。
ショットガンの重い銃声が一帯に響き渡る。
冒険者達が耳を塞ぐ中、マーティンが興奮気味に叫んだ。
「すごい! 本物の銃声だ!」
銃口から細かい銃弾が飛び散り、強大な破壊力を伴ってストエダの頬を叩いた。
通常なら、散弾は頭の肉を削り取って骨を粉砕し、死に至らしめる。
しかし、ストエダはそうはならなかった。
流血こそしたが、頬には小さな穴が空いただけで、ストエダの頭は原型を保っていた。
「な、何ィィィィ⁉︎」
スコルツェニーの驚愕の叫び。
俺も思わず絶句し、テーブルを盾にした状態で銃を構え、臨戦態勢を取る。
「馬鹿な! 散弾だぞ! それを食らってなお、立っているなど! あり得ん! こいつは異常事態ィィィ!」
「あらあ、痛い……。か弱い乙女に無礼ですねえ。そんなプレイは好みませんよお」
頬から流れ出る血を、ストエダはペロリと舐める。
舌があり得ないほど長かった。
「こんなプレゼントを貰っておいてえ、お返ししないのも失礼ですよねえ」
そう言いながら、発砲した親衛隊員の方を振り返る。
親衛隊員の体全体に恐怖の感情が広がり、一歩後退りした。
「私の授かった権能は"接触爆破"。私の肉や血に触れられた時点で、詰みなんです」
頬から滴る血を指につけ、ストエダは親衛隊員に向けてそれを弾き飛ばす。
血の散弾だ。
ストエダの血は親衛隊員の顔に命中する。
彼女はニヤリと笑って、ひと言。
「安眠をお……」
その刹那、親衛隊員の頭が弾け飛んだ。
血、肉、骨が混ざり合って吹っ飛び、床や壁にべっとり塗ったくられる。
「おおぉぉぉぉ! 吾輩の部下がァァァァ!」
スコルツェニーの絶叫。
俺は迷わず引き金を引いた。
狙いはストエダの胸だ。
だだだだっと連続して続く発砲音。
弾丸は一切の狂いなくシスターの厚い胸を叩く。
自分が標的にされたとでも思ったのか、親衛隊員が撃ち返してくる。
テーブルを散弾がかすめ、木片を散らす。
「くそったりゃあ! ぺったんこ! 魔法で支援しやがれ!」
「我が家を守るでごわす!」
「え⁉︎ ちょっとゾーリ!」
ゾーリンゲンとゴアンスがテーブルの陰から飛び出していく。
ウィルも弓を引き絞り、矢を放った。
戦闘だ。
混沌だ。
長い夜が始まった。
スコルツェニーが凄んでみせ、部下も銃を向ける。
普通の人間なら恐怖し、降伏するのだろうが、当の女は全く意に介さない様子でこっちを見据えていた。
それが、俺の警戒心をさらに高める要因となる。
しかし、いつの間に現れたのだろうか。
スコルツェニーとのやり取りに夢中になっていたとはいえ、真正面の玄関に誰か来れば気づけたはずだ。
「んゥー、ホントに予想外ですねえ。流れる血がこんなにも増えてしまうなんて……。嘆かわしいことです」
不気味な笑みを浮かべたまま、女は言った。
物腰は柔らかく、甘い声色をしていた。
「我らが王も、このようなことは望まぬでしょうにい……。だって、平和主義者ですものお」
「何を言っておるのだ、貴様。流れる血が増えるだと? ボケ老人でもあるまいし、おかしなことを言うのはよしたまえ」
スコルツェニーは単に頭のおかしい女としか見ていないようだ。
俺も最初はそう思ったが、トゥピラやマーティンの態度を見て考えを改める。
彼女らは、あからさまに怯えていた。
「ちょっと、ちょっとちょっと……! あの顔ってもしかして……! 見間違えてないんだとしたら、私達、本気で死ぬんじゃ……」
「うん、そうかもね……いや、絶対にそうだ。あれは間違いなく手配書で見た顔だよ」
「手配書? 賞金首か何かか?」
俺がマーティンに訊くと、青い顔での頷きが返ってきた。
「その通りだよ。懸賞金がかけられてる。なんてったって、魔王の部下だからね」
「魔王か……。これまた古のロールプレイングゲームみたいな……」
俺の言葉は無視して、マーティンは続ける。
「確か、名前はストエダ。政府高官の暗殺や無抵抗の市民を虐殺した容疑で追われてる危険人物だよ」
「あら、坊や。よく知ってますわねえ。お姉さん、嬉しい……」
漆黒のシスター改めストエダは、ポッと顔を赤らめて頬に手を当てた。
美人がこんな仕草をすれば普通は見惚れたりするものだが、マーティンの話が本当なら、あの女はとんでもない犯罪者だ。
そんなことできない。
やっていられるほど状況は安全ではないのだ。
「チクショー、カワイイ! こんな時じゃなかったらお付き合い申し込んでたぜ!」
……残念、ゾーリンゲンだけは違うみたいだ。
「まあまあまあ……。ありがたいですけれどお、平時だろうと有事だろうと、あなたとお付き合いするつもりはありませんのでえ」
「あひゅん……」
「面白い子達ですけどお、ここでお亡くなりになっていただくのに代わりはありません。運命ってば残酷う」
マーティンが「ヒッ……」と小さく悲鳴をあげる。
小屋の中の空気はピリピリと張り詰め、俺の両目もストエダを捉えて離さなかった。
「……何故俺達を殺す?」
「そうよ! 目的はなんなの!」
「うーん、そればっかりは言えませんねえ。ワケアリですよ、ワケアリ。例え端的な情報でも、お話しできませんともお」
スコルツェニーが低く唸る。
かと思えば、部下に再び目配せして、自身も腰のホルスターから拳銃を取り出した。
モーゼルC96だ。
計5つの銃口が、ストエダを狙う。
「知っておるか? 獲物を横取りされた肉食獣は、激しく怒り狂い見境がなくなるのだ。目的が同じなのだとしたら、命乞いは受け付けんぞ」
スコルツェニーの言葉が終わった直後、部下の親衛隊員が発砲した。
ショットガンの重い銃声が一帯に響き渡る。
冒険者達が耳を塞ぐ中、マーティンが興奮気味に叫んだ。
「すごい! 本物の銃声だ!」
銃口から細かい銃弾が飛び散り、強大な破壊力を伴ってストエダの頬を叩いた。
通常なら、散弾は頭の肉を削り取って骨を粉砕し、死に至らしめる。
しかし、ストエダはそうはならなかった。
流血こそしたが、頬には小さな穴が空いただけで、ストエダの頭は原型を保っていた。
「な、何ィィィィ⁉︎」
スコルツェニーの驚愕の叫び。
俺も思わず絶句し、テーブルを盾にした状態で銃を構え、臨戦態勢を取る。
「馬鹿な! 散弾だぞ! それを食らってなお、立っているなど! あり得ん! こいつは異常事態ィィィ!」
「あらあ、痛い……。か弱い乙女に無礼ですねえ。そんなプレイは好みませんよお」
頬から流れ出る血を、ストエダはペロリと舐める。
舌があり得ないほど長かった。
「こんなプレゼントを貰っておいてえ、お返ししないのも失礼ですよねえ」
そう言いながら、発砲した親衛隊員の方を振り返る。
親衛隊員の体全体に恐怖の感情が広がり、一歩後退りした。
「私の授かった権能は"接触爆破"。私の肉や血に触れられた時点で、詰みなんです」
頬から滴る血を指につけ、ストエダは親衛隊員に向けてそれを弾き飛ばす。
血の散弾だ。
ストエダの血は親衛隊員の顔に命中する。
彼女はニヤリと笑って、ひと言。
「安眠をお……」
その刹那、親衛隊員の頭が弾け飛んだ。
血、肉、骨が混ざり合って吹っ飛び、床や壁にべっとり塗ったくられる。
「おおぉぉぉぉ! 吾輩の部下がァァァァ!」
スコルツェニーの絶叫。
俺は迷わず引き金を引いた。
狙いはストエダの胸だ。
だだだだっと連続して続く発砲音。
弾丸は一切の狂いなくシスターの厚い胸を叩く。
自分が標的にされたとでも思ったのか、親衛隊員が撃ち返してくる。
テーブルを散弾がかすめ、木片を散らす。
「くそったりゃあ! ぺったんこ! 魔法で支援しやがれ!」
「我が家を守るでごわす!」
「え⁉︎ ちょっとゾーリ!」
ゾーリンゲンとゴアンスがテーブルの陰から飛び出していく。
ウィルも弓を引き絞り、矢を放った。
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長い夜が始まった。
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