ダブルヒーロー

異世界転生！？

案内人

「私はコレットと申します。
　双子の兄ソケットとは別人です。」

なるほど、と雛乃は納得し、殴りかかろうとしていた譲も握り拳を下ろした。

「私は主人公にこの世界の事を教え、案内するために
　この世界に存在しています。」
「その前に、ひなが男になってるんだけど。」

譲が睨みつけながら言うと、コレットは事も無げに「はい。」と返す。

「男性に比べて女性主人公は防御力や耐久性に劣り、
　攻撃力も低い傾向にあります。」

それを聞いて雛乃はこの世界に来たら男女逆転するとかいう設定ではない。という事を理解する。
それもそうだ、譲の性別は変わっていない。

「ノルマ達成確率を上げる為、青木　雛乃には
　男性主人公になっていただきました。」
「本人の承諾も無しに？」

譲は、雛乃がこれまでに見た事も無い程殺気に満ちた目をしていた。
見た目が冷たい印象の人物であることも大きい。

「死ぬよりはマシでしょう。」

極端な例えを出すなぁ、と思っていたら、コレットは更に極端な現実を述べた。

「失敗は許されません。
　この世界を救うには、あと三ヶ月しかないのですから。」
「「三ヶ月！？」」

2人の声が完璧にシンクロして、「流石」とコレットが小さく拍手したが、多分これは赤の他人でもシンクロする。

「お二人には早速学校へ向かっていただきます。」

質問を受け付ける気は無かったのだろう、言い切るなり、菱形の石の様な物を掌に載せ、空に翳した。
白い光と共に芝生や青空が消失し、煉瓦造りの建物が崩れて折り重なった景色に早変わりした。

「右に曲がれば学校です。
　今日がお二人にとって良い日になりますように。」

祈るポーズをすると、すぅっと体が透け始め、こちらが何か言う前にコレットは姿を消した。

「何なのよ…この世界。」

雛乃が女性の物ではない声で呟くと、完全にオネエ口調にしか聞こえなかった。

「学校とか通ってる場合じゃなくない？三ヶ月だよ？」

雛乃の問いに、譲が学校を指差し言った。

「学校しかないんだ、多分…安全な場所が。」

指差す先には色味の無い必要最低限であろう洗濯物が、窓と窓を渡して無秩序に干されていた。
その数は数十人程度の量ではない。

「本当にヤバいやつじゃん…。」

絶望感に打ちのめされた雛乃が口に出せたのは、たったそれだけだった。
そんな2人の頭上には、ずっと毒でもありそうな灰紫の暗雲が立ち込めていた。