貧乏教会の懺悔室

Tsumitake

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「荒療治ですが、こうすれば分かるでしょう?
 犬かご主人か、どちらがあなたにとって救いとなる存在か。」

「ほんとうに、荒療治ですわ。」

と、もう痛みもなくなったのだろう婦人が弱々しく微笑んだ。
時計を見ながら、エレナさんが淹れてくれたお茶をすする。
病院はすぐそばのはずなのにもう30分は経過している。
二人で「遅いな…」と訝しげに思っていた時だった。

「ウォン!」

雄々しい鳴き声と共にジョンが駆け込んでくる。
その後ろから見覚えのある白髪の町医者が息を切らせて現れた。

「まぁ!ジョン!お医者様を呼んできてくれたのね!」

えええええ。何やってんだご主人!

地図で確認しただけで知らなかったのだが、今日、病院は休診だった。
趣味のハンティングに出かけるところを邪魔して呼び出し、結構な距離を走らせるというご老体に酷な事をしておいて本当に申し訳ないが、事情を話してお帰りいただく。

二人と一匹で医者の見送りをして玄関口に戻ろうとしていたところでご主人が

「エレン!?大丈夫なのか!?」

と叫んで駆け寄ってきた。

「医者が、街中探したんだがどこにも見当たらなくて!」

息を切らせたご主人が、ぜえぜえいう合間に弁解をする。
だが、何か吹っ切れた様子の婦人は、その弁解にカケラほどの興味も持ち合わせてはいなかった。

「あなた。やっぱり私、あなたでは無理だわ。」

「エレン!そんな、待ってくれ!話し合おう!」

「話すことはありません。」

縋るご主人の手をぴしゃっと音が出るほどしたたかにはねつけて、婦人は僕を振り返った。

「やっぱり、私にはジョンしかいないと分かりました。
 ありがとうございます神父様。」

こんな展開は予想してなかったんだけどなぁ。
僕の視界の左斜め下で絶望しているご主人を哀れに思う。
でも確かに、ジョンは賢い犬だ。
婦人とジョンが両想いという可能性も丸っこ否定出来るものでも無いな、と感じたのも事実だ。

だから僕は婦人を引き留める事が出来なかった。
そのまま婦人はジョンを連れて家を出て行ってしまい、結果的にはご主人と僕だけが取り残された。

かける言葉に困るが、何かしら挨拶とか慰めとか言っておかないと、と頭を悩ませる。
仕事で来てる以上、無言で帰るわけにもいかない。
教会も所詮接客業の一種だ。

そんな俗な事を考えていると、
痛々しい程背中を丸めて泣き咽んでいたご主人が生気のない声で言った。

「どうしたらいいんだ。あんなに従順な犬は他にいないのに。
 何年かかって躾けたと思うんだ。」

「え、犬ですか?」

犬の方を惜しんでいるのか、とんだ犬バカ夫婦だな。
と一瞬で同情心が吹き飛ぶ。
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