貧乏教会の懺悔室

Tsumitake

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婦人の家に行くと、ご主人が申し訳無さそうな表情で迎え入れてくれた。

「うちのエレンが面倒をおかけしてしまって、すみません。」

なんだ、優しそうじゃないか。
丸い黒縁眼鏡に人の良さそうなふっくらした顔つきの旦那さんは、第一印象がとても良かった。
うちの教会に懺悔に行けなんて言う奴はまともじゃない。と日頃から思い込んでいる為に、またロクでもないのが出てくるだろうと決めてかかっていたから拍子抜けだ。

家の外も中もご婦人の好みそうな家具や調度品がならんでいて、尽くされている感じがする。
しかも弥生が地獄耳で聞いてきた近所の人の話では、ご主人が掃除やら家事を行っているそうだし。
婦人と犬は毛の一本も落ちていない片付いた部屋のソファに、並んで腰掛けていた。
婦人に僕と気づかれては台無しなので、声を低めにして言う。

「では、悪魔祓いを始めさせていただきます。ご主人と、その…」

犬の名前を知っているとバレてはいけないし、犬と呼んでいいのかもわからないので言葉に詰まっていると、ご主人が助け舟を出してくれた。

「ジョンです。」

「ジョン、お二人は離れて。」

「はい。」

ジョンはかなり賢い犬らしく、ご主人が命令する必要もなくソファーを降りてご主人の隣に並んだ。

「では奥さん、こちらを飲んでください。
 これで体内に潜む悪魔を吐き出させます。」

「はい。」

恐る恐る、といった仕草で婦人が瓶を受け取り、一気に飲み干す。

「うっ!」

途端に婦人が喉を抑え、苦しみ始めた。

「まずい!医者を呼んでください!」

「ええ!?」

「悪魔が抵抗して奥さんの体内で毒素を出しているようです!
 医者の助けが要る!」

僕がでたらめな事を叫ぶと、突然のことで判断力を失ったご主人は素直に医者を呼びに飛び出して行った。
電話が玄関の側にあるのに。
でもこれは、それだけ旦那さんが婦人を愛しているという証拠でもある。
犬もその後に出て行き、婦人と二人きりになると、僕はフードを脱いだ。

「申し訳ありません、婦人。あなたに毒を飲ませました。」

婦人が驚愕する。
無理もない、教会の神父が民間人に毒を盛るなんて前代未聞だ。

「っ!神父…さま…!?」

「大丈夫です、一定時間痛みがあるだけで、それ以上の害はありません。」

婦人の息が比較的穏やかになってきた。
「即効性があり、持続性は無い。臓器などへの負担も無く、ただ痛みを数分間感じるだけの毒薬を。」と注文した内容の通りだ。
弥生の薬品調合は神懸っている。
お代が自分の血でさえなければ、あらゆる薬を作らせて売り捌いていただろう。
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