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激変する日常

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終業を告げるベルが鳴り響くと、王妃様は今度は私の方へ来た。
が、ヘリクセンもこっちに向かってきたので一気に血の気が下がる。
思わず国王を見ると、やはりヘリクセンに不審の目を向けている。言わずもがな、王妃様もだ。

「隠す気はないよ、王妃様、国王様。」

2人を振り返ってヘリクセンが酷薄な笑みを浮かべながら告げる。
にわかに2人の表情が険しいものになったが、ヘリクセンに気にする様子はない。
一般的な呼称ではないセリフに、クラスメイト達は何事かとざわついている。

「国王…?王妃?」
「まぁ、白花さんが王妃は違和感ないな…。」
「それ言ったら白峰だってなんか納得だぜ?」

ざわめきの中から賛同の声が聞こえてくるが、当事者たちはそれどころではない。

「そういえば、もうすぐ文化祭だよね!」
「今年ちょっと遅くなったけど。」

教育実習生が生徒たちとより触れ合えるようにと、この高校では毎年教育実習と文化祭の時期を合わせているため、
だいぶ準備が遅れていた。

「今日出し物決めるんだったっけ。」
「劇やったらいいじゃんね!」
「白峰と白花先生で国王様と王妃様!?」

いや、教育実習中に開催まではいかないはず。
例年準備だけして実習が終わり、来たい人は当日に来校して楽しんでもらうシステム…
とか頭の中ではツッコミ入れつつ、その間にも迫ってきているヘリクセンと王妃様と国王に後ずさりする。

私に手を伸ばそうとしてきたヘリクセンの手を国王が掴み、王妃様が国王の手を掴む、という構図で手を掴みあう3人。

「…人目に付かないところで話がしたい。昼休みに声をかける。」

らしからぬ声色で、極めて大人的に冷静に王妃様が言う。
ヘリクセンは王妃様に対して敵意があったわけでは無いので「いいよ。」と素直に応じた。
国王は今すぐにでも喧嘩しそうな表情ながら、「わかった。」と短く答えた。

「僕は現世でリサを傷つけたりしない。それを伝えたかったんだ。
 …すごく怯えているみたいだったからね。」

私を見ながらそう告げるヘリクセン。けど、瞳がずっと暗い。
…流石前世ヤンデレ。ふざけているわけじゃなく、そうとしか感想が出てこなかった。
信用できない。という2人の視線に全面的に同意する。
国王の手を振りほどくと、ヘリクセンと国王はそれぞれの席に戻った。
王妃様だけは残ったが、2人は特に止めはしなかった。

「ちょっと来れる?」
「もちろんです。」

私と王妃様は教室を出て、人目を避ける為少し肌寒いが非常階段へ向かった。

「さっきは理科準備室の前使ってたし、昼もそこで話し合おうと思ってるんだけど。」

言いながら目線で王妃様が示す先には、さっきの騒ぎで気になったのか、後をつける数人の野次馬。

「ちょっと寒くて申し訳ないけど、それで諦めてもらいましょ。
 それほどまでして聞くほどの強い関心はないはずだから。」

言葉通り、非常階段に出て3分もすれば人影は消えた。

「ヘリクセン、あなたはすぐわかってたんでしょ?
 怖い思いしていたわよね。すぐ気付かなくてごめん。」
「え!全然!大丈夫!田辺さんと教室出て行ってたし。」

実際さっきの休憩は寝ていたほどだ。

「そうね、早退した女子生徒も何かされたのかもしれないから
 後で話を聞いた先生にどんな様子だったか確認しておくわ。」

こうして話す王妃様を見ると、なんだか大人って感じがして、違和感がフル稼働してくる。
前世の私達が知っていた王妃様は20歳を過ぎてもずっと天真爛漫だった。

「国王と同じ顔するんだから。」

ふふっ、と先程迄の真剣な表情とうってかわって、王妃は花が咲くように口元を綻ばせた。

「あなた達が居なくなってから、フィニアンと一緒に国をまとめて
 82歳まで生きたのよ?現世はもとより、前世の人生経験的にも私はかなり先輩だわ。」

確かにその確固たる自信は瞳の力強さからも伝わってきている。

「すごい…!フィニアンも自慢してたんです。」
「フィニアンに会ったの!?」

凄い食いつき。それもそうだろう、彼女にとっては戦友だ。

「駅前に新しく出来た自転車屋さんで、安達って名前で働いてます。」

一緒に行きたいが、この後どうなるかがわからないので言い出せずにいると、

「大丈夫よ、リサには絶対手を出させないから。」

放課後、一緒に行きましょう。と王妃様から申し出て安心させてくれる。
私下の名前教えたっけ?なんてちょびっと引っかかりながら2限目の休憩が終わった。
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