国王様、ここは異世界ではありません!

Tsumitake

文字の大きさ
上 下
16 / 17
激変する日常

6

しおりを挟む
ヘリクセンはやはり同じ世界に転生していたし、同じタイミングで国王様と王妃様は再会してしまった。

国王の心残りである謝罪が無事に済んだら、ヘリクセンだけが残ってしまうのでは…?
国王と同じタイミングで一斉に思い出したように、記憶が消えるのも一斉であれば…と期待するけど、消えるという考え自体が根拠のない予測の1つでしかない。

どうしよう…と内心焦りを覚えながら授業を受けて、1限の休憩を待った。

「さぁ!授業終わったならこっちに来なさい!」

教室の隅で見学させられていた王妃様は、終了のチャイムに負けず劣らずな声を張り上げて国王の手を取り、教室を飛び出して行った。

私はと言えば、突然の出来事に反応出来ず、固まってしまった。
そんな!ヘリクセンと2人なんて…!
咄嗟にヘリクセンの方を見ると、意外にも田辺さんと一緒に教室を出て行くところだった。

「あれ…?」

私が意識し過ぎてただけ…?
一気に肩の力が抜ける。
確かに、未練があるかもって言うのも国王の推測だし、現世を楽しんでいたなら尚の事、私の事なんてどうでもいいのではないか。

「なぁんだ…。」

安心したら眠気がきた。
初恋騒ぎの詳細を聞きたいけど、今まであんまり話した事無いし…と遠慮がちにこちらを見る人達を視界からシャットアウトして10分少々の睡眠をとった。

起きた時、田辺さんが何故か急に早退したと教壇に立った担任が説明しながら、受け持ち教科である古典の教科書を開いていた。

ーーーーー

「ユーリア、すまなかった。」

廊下を引っ張られながら、国王は謝罪の言葉を述べた。
が、王妃の返事は無い。
そのまま突き当たりを右に曲がって、あまり人の来ない理科準備室の前で立ち止まった。

「何がすまなかったよ!」

振り返りざまに叫ばれて、予想はしていても
怯む国王。
こんな剣幕で凄まれるのは初めての事ではないのだが、前世では見下ろしていた構図が現世では王妃が歳上、かつ8㎝あるヒールも影響して同じ目線なので以前までとは迫力が違う。

「ユーリア、君を守ると約束したのに…」
「んなもんクッソ程どーでもいいわ!」

言葉遣いが相変わらず…。と思うけども、謝罪している立場上口には出せない。

「現世ではリサと上手くいってるの!?
 私の心配はそれだけよ!」
「リサは前世の記憶が断片的にしか戻っていないし、私はあくまで前世であって、
 心残りを絶って現世の白峰 隼人に戻してやらねば上手くはいかん。」

王妃は黙って国王の説明を聞きながら腕を組み仁王立ちになる。

「で?心残りってのは何よ。」
「そなたへの謝罪だ。」

至極真面目な表情で伝える国王だったが、王妃は眉間に深くシワを寄せるばかり。

「んなわけあるか!
 あんたの心残りとか、絶対リサの事じゃん!」

本当に王妃への謝罪が未練だと思っていた国王は虚をつかれた様子で固まっている。

「絶対リサと両思いなのにひねくれた事ばっかりして想いを伝えなかった事が心残りだと思うけど!」

と、人差し指を突きつけながら睨みを効かせる王妃にバッサリ切り捨てられる。

「ちゃんとしてよね、アンタは私の初恋の人なんだからさ。」

急に優しい声色に変わって諭すように言う王妃だが、国王は驚きすぎて声が出にくかった。

「そんな様子は全く見られなかったように記憶しているんだが…?」
「アンタが居なくなってから気付いたのよ。」

国王が言葉を探していると、ユーリアがニヤリとしながら言う。

「言っておくけど、アンタ達の死後に私は国を立て直してから婿をとって、
 女王として立派に国を統治して82歳で逝去してるんだからね!」

「おぉ…」と自然に声が漏れた。
確かにそれは立派だ。
そして、王妃の言う通り、謝罪しても尚記憶が薄れそうな感覚は全く無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

処理中です...