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覚醒は突然に
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「これでワイヤーは通った。大丈夫だ。
案外簡単だろう。」
と声をかける国王に、私は黙って首を縦に振る。
だが…と、国王が言葉を続ける。
「このワイヤーは明らかに切られていた。」
「…やっぱり、そうですよね。」
いくら入学時に買ってもらったもので1年半以上経過しているとはいえ、
第九坂の上り下りがキツイとはいえ…あれ、自然に切れてもおかしくないかも?
いやいや…今まで違和感なんてなかったし。
なんて何度も脳内で問答しながら修理している様子を眺めていたが、
外したブレーキワイヤーが摩耗によるものではなく、刃物で切った切り口なのは傍目にも明らかだった。
「でも、誰が何のために…?」
私なんて全く日陰の存在感ゼロ生徒なのに。
「ただのいたずらかもしれないが…用心しておいたほうがいい。」
国王様にも思い当たる節は無い様子。
「とりあえず、今日のところはこれで解散だ。
明日の朝迎えに来る。」
「え?迎え??電車通学なのに?私自転車ですよ?」
その為に今直してもらったんだし。
「私も自転車で来るつもりだ。3駅分くらいなんてことはない。」
全然なんてことなくないです。
いくら少し肌寒い日もある10月であっても大汗かきます。
汗だくで登校なんて絶対ギャル達にツッコまれます。
と勢いよく猛反対したいのをぐっとこらえる。
「ヘリクセンの心配なら大丈夫ですよ、無茶しないでください。
ご家族も急な変化に困ってしまいますから…」
「今日1日で既に1人遭遇しておるのだ、通学路で出くわさない保証はない。」
事実、事故から1時間少々でフィニアンに出会っている。
説得力のある回答に、言葉に詰まる。
「でも…」
「あの時も…そなたが大丈夫と言おうが私はついて行くべきだった。」
どの時、とは訊けなかった。
多分前世の私は国王と離れた隙にヘリクセンに攫われるか何かしたんだろう。
表情からそれが察することが出来てしまうほど、国王の表情は暗く曇っていた。
せっかく和らいでいたのに…。
「過ぎた事は仕方ないし、そこから学ぶのは良い事です。
けど、3駅自転車で通学はこの時代の常識的に考えて、
あまりにもおかしいです。」
「近くに住むか。」
「発想が突飛すぎますよ!?」
思わず強めに否定してしまった。
けど、何考えてんだ!と続けそうになるのを止めただけでも褒めて欲しいくらいだ。
金銭感覚が少し狂ってしまっているのでは?
そういえば、さっきのワイヤー代払ってなかった。
「あ、ちょっと待っててくださいね!
ワイヤー代払ってなかった!」
「そんなのはどうでもいい。」
良くない!と言い返しながら、財布を取りに行こうと国王に背中を向けたのと同時に、後ろから強く抱きすくめられた。
「え…」
「もう2度と失いたくないのだ。
…あんな思いは絶対にさせない。」
呻くような、苦しそうな声で呟くのが耳元で聞こえる。
耳にかかる息が熱い。
その上ミントみたいな爽やかな匂いがする。
咄嗟に目をつぶったけど逆効果だった。
「これは私の勝手だ。
迷惑かもしれないが、私を気遣っての拒絶であるなら
そんな心配は無用だ。
何も知らぬうちにそなたが傷付く方が、比べるものも無い程に辛い。」
抱く腕に一層力がこもる。
けど、それ以上にこういった場面に慣れていない私の心臓と情緒の方が限界だった。
「わっ、わかりましたから離れて下さいッ!」
言いながら国王の腕を振りほどいて距離をとる。
「…ああ、すまない。」
「そういうの!学校でもやったら絶対ダメですからね!?」
「わかった。」
私の剣幕に呆気にとられた様子で国王は返事を返す。
相変わらず赤面しているのが私だけなのが腑に落ちないけど、確かに国王は私を特別には思っているようだ。
案外簡単だろう。」
と声をかける国王に、私は黙って首を縦に振る。
だが…と、国王が言葉を続ける。
「このワイヤーは明らかに切られていた。」
「…やっぱり、そうですよね。」
いくら入学時に買ってもらったもので1年半以上経過しているとはいえ、
第九坂の上り下りがキツイとはいえ…あれ、自然に切れてもおかしくないかも?
いやいや…今まで違和感なんてなかったし。
なんて何度も脳内で問答しながら修理している様子を眺めていたが、
外したブレーキワイヤーが摩耗によるものではなく、刃物で切った切り口なのは傍目にも明らかだった。
「でも、誰が何のために…?」
私なんて全く日陰の存在感ゼロ生徒なのに。
「ただのいたずらかもしれないが…用心しておいたほうがいい。」
国王様にも思い当たる節は無い様子。
「とりあえず、今日のところはこれで解散だ。
明日の朝迎えに来る。」
「え?迎え??電車通学なのに?私自転車ですよ?」
その為に今直してもらったんだし。
「私も自転車で来るつもりだ。3駅分くらいなんてことはない。」
全然なんてことなくないです。
いくら少し肌寒い日もある10月であっても大汗かきます。
汗だくで登校なんて絶対ギャル達にツッコまれます。
と勢いよく猛反対したいのをぐっとこらえる。
「ヘリクセンの心配なら大丈夫ですよ、無茶しないでください。
ご家族も急な変化に困ってしまいますから…」
「今日1日で既に1人遭遇しておるのだ、通学路で出くわさない保証はない。」
事実、事故から1時間少々でフィニアンに出会っている。
説得力のある回答に、言葉に詰まる。
「でも…」
「あの時も…そなたが大丈夫と言おうが私はついて行くべきだった。」
どの時、とは訊けなかった。
多分前世の私は国王と離れた隙にヘリクセンに攫われるか何かしたんだろう。
表情からそれが察することが出来てしまうほど、国王の表情は暗く曇っていた。
せっかく和らいでいたのに…。
「過ぎた事は仕方ないし、そこから学ぶのは良い事です。
けど、3駅自転車で通学はこの時代の常識的に考えて、
あまりにもおかしいです。」
「近くに住むか。」
「発想が突飛すぎますよ!?」
思わず強めに否定してしまった。
けど、何考えてんだ!と続けそうになるのを止めただけでも褒めて欲しいくらいだ。
金銭感覚が少し狂ってしまっているのでは?
そういえば、さっきのワイヤー代払ってなかった。
「あ、ちょっと待っててくださいね!
ワイヤー代払ってなかった!」
「そんなのはどうでもいい。」
良くない!と言い返しながら、財布を取りに行こうと国王に背中を向けたのと同時に、後ろから強く抱きすくめられた。
「え…」
「もう2度と失いたくないのだ。
…あんな思いは絶対にさせない。」
呻くような、苦しそうな声で呟くのが耳元で聞こえる。
耳にかかる息が熱い。
その上ミントみたいな爽やかな匂いがする。
咄嗟に目をつぶったけど逆効果だった。
「これは私の勝手だ。
迷惑かもしれないが、私を気遣っての拒絶であるなら
そんな心配は無用だ。
何も知らぬうちにそなたが傷付く方が、比べるものも無い程に辛い。」
抱く腕に一層力がこもる。
けど、それ以上にこういった場面に慣れていない私の心臓と情緒の方が限界だった。
「わっ、わかりましたから離れて下さいッ!」
言いながら国王の腕を振りほどいて距離をとる。
「…ああ、すまない。」
「そういうの!学校でもやったら絶対ダメですからね!?」
「わかった。」
私の剣幕に呆気にとられた様子で国王は返事を返す。
相変わらず赤面しているのが私だけなのが腑に落ちないけど、確かに国王は私を特別には思っているようだ。
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