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覚醒は突然に
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「私の前世が国王様を好きだったのはわかってるけど、
国王様もだったの…?」
「あれ、上手くいってない感じ?」
休憩室に着いて、フィニアンの足がようやく止まった。
狭い物置のようなスペースに小さなデスクがあり、奥に給湯スペースがある。
フィニアンはマグカップを2つ手に取りながら言った。
「むしろ国王様の方からでしたよ。
最初の頃の神官様は教会の連中の厳しい教えのせいで
気の毒になるほど怯えていましたし、恋愛どころじゃなかった。
あ、コレどっちも私のマグカップなんで!
髭もじゃオッサン店長のじゃないから安心して!」
ここの店長は髭もじゃなのか…とか思いながら差し出されたカップを受け取る。
どうやら前世の私はかなり酷い境遇だったようだ。
「あれも食べるな、これも聴くな、って制約ばっかり。
お城にいる間だけは監視の目もなく過ごせたんです。」
砂糖要ります?と手渡しながらフィニアンも向かいの椅子に腰かけた。
「だから姫さんと私と国王様で音楽を聞かせたり、一緒に踊って見せたり。
国王様が神官様の手をとって踊りを教えている姿はすごく絵になっていて…
その時に姫さんと一緒に『応援しよう!』って言いあったんです。」
教育係とかお世話係というより、親友みたいな立ち位置にあったんだろうな、と湯気を立てるコーヒーに口を付けながら思った。
懐かしそうに語る彼女からは敵意なんて微塵も感じられない。
そこからは奥様がいかにお転婆でキュートな方かの説明に入ってしまい、その熱量に勝てず、それ以上の国王との様子は聞き出せないまま、レジの会計を呼ぶベルが鳴ってガールズトークは終了した。
「連絡先交換しときましょう!」
元に戻った時が心配だけど、私はフィニアンの求めに応じた。
「いきなり関係者に会えたのは僥倖だった。」
ベルを鳴らしたのは国王ではなかったようで、会計を済ませている他のお客さんの後ろに並びながら言った。
その表情は店に入るまでとは比べ物にならないほど柔らかくなっている。
「本当に、良かったです。」
私にとっても重要な情報が手に入ったし。と内心微笑む。
「あー、なるほどなー。
国王様享年47歳だったから感情がだいぶ隠せちゃうわけねー。」
国王の番になり、フィニアンがレジを打ちながらぼやいた。
「安達!?お客様に向かってなんだその言葉遣いは!?」
店の入り口から驚いた声がして振り返ると、確かに髭もじゃで小柄な、ふくよかな男性が段ボール片手に立っていた。
間違いなく店長さんだ。
フィニアンが小さく「やっべ」と声を漏らしていたので間違いない。
「知り合いだったんです、お気になさらないでください。」
フォローだけして、私達はそそくさとお店を立ち去った。
あまり怒られないといいけど。
横に並んで歩きながら、自分より頭一つ分くらい上にある国王の目線を追う。
「…感情隠すの、上手いんですか?」
「昔に比べれば、だろう。
フィニアンは20代の頃からの知り合いだからな。
今でもそう上手くはない。」
さっきどんな話をしたのか国王から問いかけてくることもなく、なんとなく胸が苦しいような、話しづらいような、でも嫌な気持ちってわけでもない、行き道とはまた違った微妙な空気で帰路に着いた。
国王様もだったの…?」
「あれ、上手くいってない感じ?」
休憩室に着いて、フィニアンの足がようやく止まった。
狭い物置のようなスペースに小さなデスクがあり、奥に給湯スペースがある。
フィニアンはマグカップを2つ手に取りながら言った。
「むしろ国王様の方からでしたよ。
最初の頃の神官様は教会の連中の厳しい教えのせいで
気の毒になるほど怯えていましたし、恋愛どころじゃなかった。
あ、コレどっちも私のマグカップなんで!
髭もじゃオッサン店長のじゃないから安心して!」
ここの店長は髭もじゃなのか…とか思いながら差し出されたカップを受け取る。
どうやら前世の私はかなり酷い境遇だったようだ。
「あれも食べるな、これも聴くな、って制約ばっかり。
お城にいる間だけは監視の目もなく過ごせたんです。」
砂糖要ります?と手渡しながらフィニアンも向かいの椅子に腰かけた。
「だから姫さんと私と国王様で音楽を聞かせたり、一緒に踊って見せたり。
国王様が神官様の手をとって踊りを教えている姿はすごく絵になっていて…
その時に姫さんと一緒に『応援しよう!』って言いあったんです。」
教育係とかお世話係というより、親友みたいな立ち位置にあったんだろうな、と湯気を立てるコーヒーに口を付けながら思った。
懐かしそうに語る彼女からは敵意なんて微塵も感じられない。
そこからは奥様がいかにお転婆でキュートな方かの説明に入ってしまい、その熱量に勝てず、それ以上の国王との様子は聞き出せないまま、レジの会計を呼ぶベルが鳴ってガールズトークは終了した。
「連絡先交換しときましょう!」
元に戻った時が心配だけど、私はフィニアンの求めに応じた。
「いきなり関係者に会えたのは僥倖だった。」
ベルを鳴らしたのは国王ではなかったようで、会計を済ませている他のお客さんの後ろに並びながら言った。
その表情は店に入るまでとは比べ物にならないほど柔らかくなっている。
「本当に、良かったです。」
私にとっても重要な情報が手に入ったし。と内心微笑む。
「あー、なるほどなー。
国王様享年47歳だったから感情がだいぶ隠せちゃうわけねー。」
国王の番になり、フィニアンがレジを打ちながらぼやいた。
「安達!?お客様に向かってなんだその言葉遣いは!?」
店の入り口から驚いた声がして振り返ると、確かに髭もじゃで小柄な、ふくよかな男性が段ボール片手に立っていた。
間違いなく店長さんだ。
フィニアンが小さく「やっべ」と声を漏らしていたので間違いない。
「知り合いだったんです、お気になさらないでください。」
フォローだけして、私達はそそくさとお店を立ち去った。
あまり怒られないといいけど。
横に並んで歩きながら、自分より頭一つ分くらい上にある国王の目線を追う。
「…感情隠すの、上手いんですか?」
「昔に比べれば、だろう。
フィニアンは20代の頃からの知り合いだからな。
今でもそう上手くはない。」
さっきどんな話をしたのか国王から問いかけてくることもなく、なんとなく胸が苦しいような、話しづらいような、でも嫌な気持ちってわけでもない、行き道とはまた違った微妙な空気で帰路に着いた。
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