上 下
6 / 17
覚醒は突然に

6

しおりを挟む
「私の問題に巻き込んでしまってすまない。」
「いえ、元はと言えば私が自転車で突っ込んだからで…、」
「そういえば、何故ブレーキが効かなかった…?」

言われて私もハッとする。
今朝まで異音がすることも、効きが悪かったという事もなかった。

「そういえば、何で急に…。」

2人で部屋を出て、自転車の様子を見に行く。

「ワイヤーが切れてるな…。」
「ワイヤー?」
「現世でバイクの修理をやった事があるから、ワイヤーを買ってくれば直せる。」

100均でも売ってるけど自転車屋の方が…と現代的な内容を話す様子を見ていると普通の高校生だよな、と改めて思った。

「国王様、喋り方には気を付けて下さいね、明日から。」

私のせいだけど、と思いつつ忠告する。

「わかっておる。普通の高校生として生活するさ。」

まぁ、話し方や態度以外に問題点は無いし大丈夫か。

「明日の登校もあるから、早速買いに行こう。」
「あ、はい!」

後をついていきながら思い出したことがあって、隼人の腕をひく。

「そういえば、先月駅前に新しい自転車屋さんが出来たんですよ!」
「ん、そうか。では案内してくれ。」
「白峰君のお家はこの辺りじゃないんですね。」

反応で何となく察すると、隼人が頷いた。

「各駅停車で3駅分離れておるな。」
「結構遠いんだ…。」

並んで歩いていると、後方から自転車が向かってくる音がして、何気ない様子で隼人が肩を抱き寄せる。
当たり前に、私の心臓は鼓動を速めた。
が、案の定、隼人の顔は前を向いたままで何ともなさげ。

「こういうの、普通によくやっちゃうんですか…国王様。」
「ああ…高校生らしくなかったか、以後気を付けるようにしよう。」

指摘しても特別動じる様子もなく答える隼人の様子に、前世では実は国王と神官は両片思いで…なんていう期待を持つのはやめておこうと思った。

新しい自転車屋さんは自宅から結構離れていたのか、体感時間がいやに長かった。
隼人の見た目をした国王の所作や発言に一喜一憂したくなくて、なるべく視線を逸らしていたせいかもしれない。

「いらっしゃいませー!」

店内に入ると威勢のいい挨拶が耳に飛び込んできた。

「って、あーーーーっ!」
「フィニアンか!?」

隼人を指差して叫ぶ女性店員と、隼人の前世の名前呼びで、まさかのいきなり妻発見展開か!?と困惑しながら予想する。
女性店員は茶髪ではあるが純和風な顔立ちで、フィニアンなんて名前ではなさそうだ。

「国王様じゃないですか!お久しぶりですー!」
「前世って久しぶりとかいうレベルじゃないんだけど!?」
「フィニアン、そなた前世を覚えておるのか…?」

それぞれにワッと話し出して耳が拾う音に迷うほどだが、フィニアンと呼ばれている胸に「安達」のネームプレートを付けた女性はちゃんと聞き分けて豪快に笑いながら言った。

「もうバッチバチに覚えてますよ!
 つって、今日の15時過ぎまでは完全に忘れてたんですけどね!」
「15時…」

事故のあった時間だ。

「急に思い出したのか?」
「はい!いきなり一気に思い出しました!」

国王の問いにフィニアンが即答する。
妻というわけではなさそうな感じの流れに、私はおずおずと質問してみる。

「えっと、国王様…この方は…?」
「あれ?神官様は思い出してない感じ?」

そうだ。と答えながら安達さんにその手を向けて国王が紹介する。

「妻の幼少期からのお付きの者だ。」
「赤ん坊の時からお世話させて頂いておりました!」

なんとなく田舎者感が出ているのは現世のキャラか前世に引っ張られているのか…
けど、一つ分かった事がある。
多分前世の関係者は国王様が思い出した瞬間に一斉に前世の記憶を思い出している。
何故か私を除いて…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...