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覚醒は突然に
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「そなた…」
「里紗です。」
「ああ、すまない。…里紗。」
「あ、待って、林さんにしてください。」
心臓がもたない。
「そういえば、娘とかそなたとか…私の前世の名前って何だったんですか?」
「神官に名は無い。
神に捧げられた子がなるものだから、名は神や精霊のみが知る。」
「…あー、そうなんだ。」
異世界の常識みたいだ。…私は名無しだったらしい。
しかも下手したら孤児とかそんな感じ…?
現世では親がいて良かった、と思う。
現世は…まぁ、身近な所には戦争も無いし平和な世界だ。
「前世の世界って…」
「林さんが書いていた小説、あれが前世の世界だ。」
「え?」
やっぱり中身読まれていた!っていう事よりも…
「意識せずに書いていたのだろう。
だが、名称などの違いはあれど、あれは私の前世の内容だ。」
あれは私の創作のはずで…けど、前世の記憶が影響していないとも言い切れない。
細かい世界観や設定とかは考えた事もなかったけど、
「具体的な世界観とかあんまり考えたことも無いし、
今考えてみても思いつかないんですけど…。」
「神官は許可されない限り神殿を出る事を許されない。
外の世界はほとんど知らなかったはずだ。」
けど、それを聞いて一瞬だけ、赤やオレンジの布が舞う華やかな世界のイメージが頭に浮かんだ。
そこにはいたずらっぽい、満面の笑みを浮かべて手をひく隼人の10年後のような見た目の人物。
「私は、国王様と一緒に街に出た事がある…?」
「ああ。若い頃に一度だけ城を抜け出してそなたと祭りに行ったことがある。」
途端に思い出す。
雲一つない晴れた空。
砂で出来た壁に赤い瓦屋根の建物が連なる街で、長く連なった色とりどりの薄布の垂れ幕が上空にひらめき、方々から花吹雪が舞い、屋根から屋根へと花綱が渡されている。
どこかで演奏される音楽と、道行く人たちの話す声や笑い声。
甘い香りや香ばしい香りが次々に漂ってくる人込みの中を国王に手を引かれながら走り抜けた。
一生で一番楽しかった記憶だ。
現世での記憶を辿っても、これほど強く満ち足りた気持ちになる思い出は無いというくらい。
気が付くと、私は涙を流していた。
「ちょっとだけ、思い出しました。多分。」
「そうか、辛い事もあるだろう。あまり思い出さなくていい。」
思い出して欲しい、と言わないのか。
きっとこの王様は優しい王様だったことだろう。
「林さんには大変申し訳ないのだが、しばらくの間
出来る限り私と共にいて、人探しを手伝ってほしい。」
真摯な声色に、私はふたつ返事で返す。
「はい、私のせいでもありますし。
精一杯サポートさせて頂きます!」
「いや、それが理由ではない。」
手で制しながら、国王は苦々しい表情で言った。
「そなたは『望む人』を同じ世界へ送ると言った。
その際に私は、一瞬だけ、ヘリクセンへの復讐を考えたのだ。」
「まさか…」
「わからない。
その効力が私の頭に浮かんだ人物なのか、そなたが決めた者なのか。
思い出せるならばそれが一番かとは思うが、
死の間際の記憶など思い出して欲しくもない。」
国王の俯きがちになった目から、深い後悔が見てとれる。
死を目前にして、咄嗟の判断で、全く頭を過ぎらないわけがないのに。
「私も死ぬ間際だったんですか?」
「命をかけて行う魔術だと言っていた。」
ああ、やっぱり。私は前世でもこの人が好きだったんだ。
だから入学式からずっと彼を目で追い続けていたんだろうか。
今となっては前世の影響か、特殊な髪色のせいか、判断できる術もない。
「里紗です。」
「ああ、すまない。…里紗。」
「あ、待って、林さんにしてください。」
心臓がもたない。
「そういえば、娘とかそなたとか…私の前世の名前って何だったんですか?」
「神官に名は無い。
神に捧げられた子がなるものだから、名は神や精霊のみが知る。」
「…あー、そうなんだ。」
異世界の常識みたいだ。…私は名無しだったらしい。
しかも下手したら孤児とかそんな感じ…?
現世では親がいて良かった、と思う。
現世は…まぁ、身近な所には戦争も無いし平和な世界だ。
「前世の世界って…」
「林さんが書いていた小説、あれが前世の世界だ。」
「え?」
やっぱり中身読まれていた!っていう事よりも…
「意識せずに書いていたのだろう。
だが、名称などの違いはあれど、あれは私の前世の内容だ。」
あれは私の創作のはずで…けど、前世の記憶が影響していないとも言い切れない。
細かい世界観や設定とかは考えた事もなかったけど、
「具体的な世界観とかあんまり考えたことも無いし、
今考えてみても思いつかないんですけど…。」
「神官は許可されない限り神殿を出る事を許されない。
外の世界はほとんど知らなかったはずだ。」
けど、それを聞いて一瞬だけ、赤やオレンジの布が舞う華やかな世界のイメージが頭に浮かんだ。
そこにはいたずらっぽい、満面の笑みを浮かべて手をひく隼人の10年後のような見た目の人物。
「私は、国王様と一緒に街に出た事がある…?」
「ああ。若い頃に一度だけ城を抜け出してそなたと祭りに行ったことがある。」
途端に思い出す。
雲一つない晴れた空。
砂で出来た壁に赤い瓦屋根の建物が連なる街で、長く連なった色とりどりの薄布の垂れ幕が上空にひらめき、方々から花吹雪が舞い、屋根から屋根へと花綱が渡されている。
どこかで演奏される音楽と、道行く人たちの話す声や笑い声。
甘い香りや香ばしい香りが次々に漂ってくる人込みの中を国王に手を引かれながら走り抜けた。
一生で一番楽しかった記憶だ。
現世での記憶を辿っても、これほど強く満ち足りた気持ちになる思い出は無いというくらい。
気が付くと、私は涙を流していた。
「ちょっとだけ、思い出しました。多分。」
「そうか、辛い事もあるだろう。あまり思い出さなくていい。」
思い出して欲しい、と言わないのか。
きっとこの王様は優しい王様だったことだろう。
「林さんには大変申し訳ないのだが、しばらくの間
出来る限り私と共にいて、人探しを手伝ってほしい。」
真摯な声色に、私はふたつ返事で返す。
「はい、私のせいでもありますし。
精一杯サポートさせて頂きます!」
「いや、それが理由ではない。」
手で制しながら、国王は苦々しい表情で言った。
「そなたは『望む人』を同じ世界へ送ると言った。
その際に私は、一瞬だけ、ヘリクセンへの復讐を考えたのだ。」
「まさか…」
「わからない。
その効力が私の頭に浮かんだ人物なのか、そなたが決めた者なのか。
思い出せるならばそれが一番かとは思うが、
死の間際の記憶など思い出して欲しくもない。」
国王の俯きがちになった目から、深い後悔が見てとれる。
死を目前にして、咄嗟の判断で、全く頭を過ぎらないわけがないのに。
「私も死ぬ間際だったんですか?」
「命をかけて行う魔術だと言っていた。」
ああ、やっぱり。私は前世でもこの人が好きだったんだ。
だから入学式からずっと彼を目で追い続けていたんだろうか。
今となっては前世の影響か、特殊な髪色のせいか、判断できる術もない。
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