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覚醒は突然に

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学校から出てすぐの急斜面は朝は上り坂で地獄だが、帰りは下り坂だから天国って事で『第九坂』とか呼ばれてる。
ここをノーブレーキで一気に下るのが個人的に好き。
一日のストレスが結構吹っ飛ぶ気がする。
主に朝にこの坂を上ったストレスだからプラマイゼロだけど。

通常の自転車こぐ速度ではありえない風を浴びながら、
車輪が吹き飛びそうな勢いで滑走する自転車の前方に見慣れた銀髪の人物が現れ、私は咄嗟にブレーキを握った。
今朝の事もあったし、今ばったり会うのは気まずい。
左の道に逸れよう。と思った。
けど、速度が全く落ちない。

「…あれ?ちょっと…ま…ヤバくない!?」

付いているだけで全く効かないブレーキは何度握ってもカタカタ音を出すだけ。
メチャクチャ怖いけど足をついて速度を落とすのを試みる。

「止まって…ッ!いや、まず、逃げてー!」

叫び声に、前方にいた人物が振り返り、深緑の目と視線が合った。
心臓と共にカバンと自転車も跳ねた。
人もはねた。
視界が一回転する。

「いっつ…ぅ…いやぁぁあっ!ごめんなさいぃーっ!!」

痛いよりも何よりもまず土下座!
足首痛いとか、手のひらも膝もめっちゃ擦りむいてる!とかよりまず土下座!

「私ならば問題ないぞ娘。」
「…ん?」

思わず頭を上げて彼を見る。

「そなたが危険を顧みず足で止めてくれたおかげで私はほとんど無傷だ。」

いや、頭から血が出てます。
額のあたりから右の頬まで血が伝ってます。
っていうか、何より言動が変です。

「白峰くん…?」
「うむ。」
「いや、うむ。じゃなくて…え?何?どうしましたか?」

なんか態度が尊大というか、とにかく変。
見下ろしてきてる目も優しいけど、朝と全然違ってる。
一人称も私になってるし。

「ひとまず移動しよう。ここで土下座しているとまた轢かれる。」
「うっ…、すみません。」

近くの街路樹のあたりに移動して、改めて土下座しようとすると止められた。

「足を怪我しているのだ、むやみに地面につけてはならない。」

言ってる事は至極真っ当だがヤンキーの見た目と、いや、普通の高校生でも合ってない。
まるで演劇でも見ているような…

「そうだ、王様っぽいんだ。」
「いかにも、私は以前国王であった。」
「???」

即座に返ってきた妙な発言に思考が停止する。
頭打ったせい?だとしたら私のせい?

「そなたがぶつかってくれたおかげで、私は前世の記憶を思い出すことが出来た。
 感謝しておるぞ娘。」
「白峰くんとしての意識は!?」
「あるとも言えるし、多少無くなったとも言えるかもしれん。」

実は私の小説読んでて、馬鹿にして演技してる?と思いたいけど
目がマジだ。
即興の演技でこんな親戚の伯父さんみたいな目を同級生に向けたり出来ない。

「今まで学んできた内容も、この世界の常識もおおよそ覚えておる。」
「よかっ…」
「そなたを好きであった事も。」

また思考が停止した。

「…ふぁッ!?」

こっちは一気に顔が熱くなってきているけど、彼の表情に変化はない。
照れてもいない…?

「だが、私と君では年齢が離れすぎている。」
「え…」

同い年ですけど。けどこれ、多分前世の年齢で言ってる事なんだろう。

「今すぐお祓いに行きましょう!」
「私は悪霊ではないぞ娘。」

折角両想いだったのに、このままでは彼の人生を潰してしまう上に、自分も失恋してしまう事になる!

「まずは手当てが必要だな。」
「あっ、私の家近いので!」
「そうか、ならば世話になろう。」

従者感出てきてるけど今はそれどころではなかった。
両想いだった!いつから!?どうやって治そう!?まずどこまで記憶が?
と大混乱のまま、私と彼は家へ向かった。
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