桃色のアルトリスト

なぎさ

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鮮血の剣聖─キル・レイブリック─

3.ミデア・フォン・───

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 ストライト王国。
 建国から三百七十一年、カゲ発生黎明期を乗り越えて世界有数の超大国となった君主制国家。国土は同ランクの他国と比べると目を見張るものではないが、有り余る人口が今のストライトの、大国としての地位を支えている。
 その城の大きさは、まさに莫大な国力を示すかのように雄大なもので、政治や軍事に於いての中枢施設がこれでもかと詰め込まれている。ここで寝泊まりをする重鎮も多数いるため、誇張なしにこの城が国家の重要拠点というわけだ。
 一通りの手続きを済まして目的地である城の上部に向かう。もし階級があれば顔パスで入れるようになるため楽なのだが、生憎ただの平隊員の私にとってはないものねだりに他ならない。渋々自分を納得させて、赤いカーペットの敷かれた豪勢な装飾の廊下の余韻を踏みしめる。
「……それで、どうしてあなたもここに?」
「僕も、あの人に呼ばれててね」
 そう言って隣を歩いているのはフレーラ統括。この人こそ正真正銘、顔パスで城に出入りすることができる人物の一人。城内だからか昨日と違い戦闘用の服ではなく、シャツにネクタイを締めて公務を想定した格好をしている。もっとも、そういう私も一応正装はしているが。
「まぁ十中八九、についてのことだろうね。最近の彼女の動向は少し危険なものを感じるから」
「キル・レイブリックのことですか。確かにそれなら私が呼ばれる理由にもなりますけど、……直接呼び出すほどですか?」
 私の問いに対して少し周りを確認する様子を見せてからフレーラさんは答える。
「それだけじゃない、ってことだよ。サクヤがこの軍に入ってからちょうど十ヶ月。十分強くなったサクヤなら新設部隊への配属の可能性だってある。事実今、軍事費にはわざとらしい空きがあるからね」
「全部聞いてきたかのような言い方ですね。……フレーラさん、あなたどこまでわかっているんですか?」
 含みのある言い方、知っている風貌。勘の良いこの人のことだ、多分相当先まで見えている。もしかしたら、……あの人の目的まで。
「あの人は直接言わないだけで、色々話してくれてるよ。まぁ全部読めてる、ってわけじゃないとは言っておくよ」
 そうこぼして廊下を見渡すフレーラさん。赤の床に白い大理石でできた豪華な壁と、優美に造られたその回廊は私とは少し不釣り合いで、歪なもののように思える。
「それにしてももう十ヶ月か、随分短く感じるよ」
「……魔力しか取り柄のない新人と言われてたのが懐かしいです」
 そうこう話している間に城内の中心部分へと進んでいた。段々と窓の数が少なくなり、廊下を照らすのは魔力で灯されたライトだけ。付近に他の人がいないせいか少し物寂しさを感じる。
 やや奥に質素だが、堅牢な佇まいの黒樫のドアが見えてくる。ただドアが取り付けられているだけの簡単な造りなのに、重々しい雰囲気を醸し出している。おそらくはがあるせいなのだが、それ以外の……例えば部屋にいる人物の覇気のせいなのかとも勘繰ってしまう。
「僕は後から来るように言われてるから。そこら辺で時間つぶしてるよ」
 フレーラさんはそう言い残してそそくさとどこかへ行ってしまった。一人にしないでくれ!と心の内で叫びながら口ではうぐ、と呟く。
 意を決して重いドアを開く。外開きのそれの先にはだだっ広い部屋、ではなくまた新しいドアが現れる。異質な空気を身に感じながら入ってきた方のドアを閉める。今度は内開きのそれのノブを掴むとノックもせずに押し開ける。今度こそ空間が広がり小綺麗な部屋が私を迎える。しかし、その広さは四畳半しかない小さな部屋。しかも窓はなく、昼間なのに陽光が取り込めてい状態。とても城の内部にあるとは思えない小暗く侘しいものだった。
 そんな気の狂いそうな部屋で私を待ち構えていた人物は、私が入ってきたことを確認すると読んでいた本を机において、私の方へ向き直す。
「やぁ、久しぶりだね。直接会うのは何ヶ月ぶりかな。それにしても、こちらから出向けなくて済まないね。わざわざ来てもらうのも心苦しいんだよ?」
 そう一気に言葉を畳み掛かけてくるのはストライト王国実質的統治者、ミデア・フォン・ストライト。
 水色の髪に炎の瞳を持った──八歳児である。
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