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鮮血の剣聖─キル・レイブリック─
1.通称カゲ対策部隊
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騒々しく眩しい太陽が照り輝き、どこまでも広がる蒼天の下、壮健そうな緑地の草原が風になびいている。透き通った空気の中、陽の光をよく吸収して晴れ晴れしい景色をあたり一面に乱反射させていた。
確かにそこには優麗な世界が存在している。しかしながら、そんな極楽を体現した場所で人っ子一人として散歩にもピクニックにも来ていない。代わりに行われているはそんな雰囲気とは全く逆。人と人外が互いに傷つけ合い、殺し合う──
生命の取り合いである。
黒々しい細長の鉤爪が明確な殺意を持って頭部へと迫る。右手に片手剣を構えつつ前傾姿勢をとって最小限の動きでそれを躱す。なびいた桃髪を視界の端に映しながら、続く動作で眼前にとらえた人型のカゲの胴体めがけて薙ぎ払いを撃ち込む。桃髪の女子と黒い外套を羽織ったカゲとの体格差は優に数十センチを超える。懐に潜り込まれたカゲにはもはや回避も防御も不可能であった。
しかし、そんな程度でやられるほどやわではなかったのか、もしくは意地を張ったのか。半身を切り離したまま、先の鉤爪で追撃を試みる。対して、それに余裕を持って臨む少女は今度は回避ではなく迎撃を選択し、向かってくる爪を剣で弾くと勢いのまま喉元を狙って斬り上げる。
流石に今回こそ致命的な一撃だったのだろう、三つの塊になって地面へと倒れた。地に触れた瞬間、塊は漆黒の粒子となって崩れ、そして空気に溶け出して消えてなくなる。
消えていく様も含めてまさしく、お伽話や怪談にでてくるゴーストのそれと酷似していた。
「生命の取り合いって言っても、命賭けてるのは私だけか」
ストライト国軍、南部戦域の第六区防衛部隊。
ストライト国、その国境外側の防衛線十二区を囲む国防専門の部隊、もとい対カゲ用の防衛部隊。その最南端の第六区が私──サクヤ・ウェンブランの防衛する区域である。
さて、部隊の説明のためにはまずカゲについての解説が必要だろう。
今から三百年以上前。各国の国境付近で実体を持った黒い影が多数出現するようになった。知性はなく、本能のままに殺戮を行う人型の影。黒や灰色を基調とした本体に同色のコートを羽織っている形態が主流のもの。ほとんどの個体が二から三メートルの体躯で単純な身体能力は人間以上。怪物と呼ぶにふさわしいものだった。
突然のことだったため、どの国も対応が遅れたが、カゲの集団行動能力の低さや数が多く無かったこともあり、事態は鎮静化に向かっていった。
しかし、カゲの発生が恒常的に続くものであったために、その対策は困難を極めた。影響は決して小さくなく、カゲ発生前は活発だった他国との貿易や交流は、長い期間縮小を余儀なくされていた。常時カゲとの戦争状態のため、文明の発達は数百年分遅れたと言われている。
カゲ発生の原因は全くもって不明。現在に至るまで解明はされておらず、発生も続いている。
もっとも、ここ百年でどの国も文明の安定化が飛躍的に進み、カゲの対策に余裕が生まれ始めている。おかげで縮小傾向だった他国との交流も現在では少しずつ回復の兆しが見えている。
と、ここまでがカゲの説明。部隊の話に戻ろう。
国同士の交流をするために、うちの国では東西南北それぞれ四つの交易路を作成。その交易路の護衛が必要となったため、国境周辺を防衛、及び使節の護衛をする国軍防衛部隊を編成したというわけだ。
私の担当している第六区はその交易路が建設されているため、重要度が他地区より少し高い。その分やはり仕事もハードとなっている。
その防衛線に若年十七歳で着任した私は一応そこそこのエリートということになる。もっとも、私より年下なのにもう階級を持っている人間もいるので、あまり胡座をかく気にはなれない。
確かにそこには優麗な世界が存在している。しかしながら、そんな極楽を体現した場所で人っ子一人として散歩にもピクニックにも来ていない。代わりに行われているはそんな雰囲気とは全く逆。人と人外が互いに傷つけ合い、殺し合う──
生命の取り合いである。
黒々しい細長の鉤爪が明確な殺意を持って頭部へと迫る。右手に片手剣を構えつつ前傾姿勢をとって最小限の動きでそれを躱す。なびいた桃髪を視界の端に映しながら、続く動作で眼前にとらえた人型のカゲの胴体めがけて薙ぎ払いを撃ち込む。桃髪の女子と黒い外套を羽織ったカゲとの体格差は優に数十センチを超える。懐に潜り込まれたカゲにはもはや回避も防御も不可能であった。
しかし、そんな程度でやられるほどやわではなかったのか、もしくは意地を張ったのか。半身を切り離したまま、先の鉤爪で追撃を試みる。対して、それに余裕を持って臨む少女は今度は回避ではなく迎撃を選択し、向かってくる爪を剣で弾くと勢いのまま喉元を狙って斬り上げる。
流石に今回こそ致命的な一撃だったのだろう、三つの塊になって地面へと倒れた。地に触れた瞬間、塊は漆黒の粒子となって崩れ、そして空気に溶け出して消えてなくなる。
消えていく様も含めてまさしく、お伽話や怪談にでてくるゴーストのそれと酷似していた。
「生命の取り合いって言っても、命賭けてるのは私だけか」
ストライト国軍、南部戦域の第六区防衛部隊。
ストライト国、その国境外側の防衛線十二区を囲む国防専門の部隊、もとい対カゲ用の防衛部隊。その最南端の第六区が私──サクヤ・ウェンブランの防衛する区域である。
さて、部隊の説明のためにはまずカゲについての解説が必要だろう。
今から三百年以上前。各国の国境付近で実体を持った黒い影が多数出現するようになった。知性はなく、本能のままに殺戮を行う人型の影。黒や灰色を基調とした本体に同色のコートを羽織っている形態が主流のもの。ほとんどの個体が二から三メートルの体躯で単純な身体能力は人間以上。怪物と呼ぶにふさわしいものだった。
突然のことだったため、どの国も対応が遅れたが、カゲの集団行動能力の低さや数が多く無かったこともあり、事態は鎮静化に向かっていった。
しかし、カゲの発生が恒常的に続くものであったために、その対策は困難を極めた。影響は決して小さくなく、カゲ発生前は活発だった他国との貿易や交流は、長い期間縮小を余儀なくされていた。常時カゲとの戦争状態のため、文明の発達は数百年分遅れたと言われている。
カゲ発生の原因は全くもって不明。現在に至るまで解明はされておらず、発生も続いている。
もっとも、ここ百年でどの国も文明の安定化が飛躍的に進み、カゲの対策に余裕が生まれ始めている。おかげで縮小傾向だった他国との交流も現在では少しずつ回復の兆しが見えている。
と、ここまでがカゲの説明。部隊の話に戻ろう。
国同士の交流をするために、うちの国では東西南北それぞれ四つの交易路を作成。その交易路の護衛が必要となったため、国境周辺を防衛、及び使節の護衛をする国軍防衛部隊を編成したというわけだ。
私の担当している第六区はその交易路が建設されているため、重要度が他地区より少し高い。その分やはり仕事もハードとなっている。
その防衛線に若年十七歳で着任した私は一応そこそこのエリートということになる。もっとも、私より年下なのにもう階級を持っている人間もいるので、あまり胡座をかく気にはなれない。
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