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屋台にて
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「なるほど、これは確かに旨い!」
初めて食べるそのジャガイモ料理はシンプルな味だった。だがシンプルイズベスト!
揚げたジャガイモに塩を振っただけの単純な料理に伸びる手を止める事が出来ない!
「すまん。こんな事なら2人前を注文すべきだったな」
俺だけでほぼ空にしてしまった皿を前にしてオリバーに申し訳なく思いながら言ってみた。もう一つのじゃがバターとやらも気になるが、流石にそれまでオリバーから奪う訳にはいくまい。オリバーにはそっちを食べてもらおう。
「気に入りましたか? 私は偶に食べていますのでお気になさらずに」
「何、偶に食べているだと?」
この料理はヒュンダルンでは見た事が無い。食べられるのか?
「実はこれはフライドポテトと言いまして、我が国でも庶民達の間で親しまれております。その、ジョージ様はお忙しいので下町には中々…」
そうだったのか。忙しさにかまけて平民達が好んで食べる物までは見ていなかった。これは反省しなければならないな。
魔物を討伐して落ち着いたら改めなければ。
「ところで、そう言うお前は下町にはよく行くのか?」
「実戦の感を鈍らせない為に町のゴロツキを成敗に参ります。町も綺麗になって一石二鳥かと」
「褒めるべきか悩む動機だな。そもそもだが、ゴロツキなどが居ない町にする事が我等の責務だ。ゴロツキを成敗する事は良いのだが、お前から町の治安についての報告は無かったろう?」
「おい兄さん、じゃがバターが冷めちまうよ。ほら、ホクホクのジャガイモの上で溶けたバターが輝いているだろう。早いとこ食べてくれ!」
気が付けばオリバーに説教を始めようとしていた俺の注意力は、屋台からの声により再び皿に向けさせていた。
ふと見ると屋台の老人と目を合わせたオリバーが軽く笑っている。
上手く躱されたが、このホクホクのじゃがバターに免じてその策に乗ってやるとするか。
◯▲△
ナンシー視点です。
「2人共、気になる屋台が有れば遠慮なく言いなさい。若女将から2人が楽しむ為のお金を預かって来ています」
「「はい!」」
「そして当然ですけれど、若女将に感謝しながら楽しみなさい」
「「はい、ナンシーさん!」」
「よろしい」
私達は若女将と料理長のご厚意に甘えて祭りを楽しんだ。
串に刺して焼いた肉や、普段は口にしない様なお菓子を3人で食べたりして祭りを楽しませて頂きました。
「当たーりっ!」
景気の良い声と共にカランカランと鐘を鳴らしている屋台が在る。
「あれは射的?」
この屋台は何やら玩具の弓矢で景品に当てる様です。そして当てたら貰える様ですね。
「ナンシーさんはこんな遊びはしますか?」
「やったー事が無いわ」
一通りに武芸は嗜んでいますので弓はそれなりですが、そもそも弓を遊びに使った事が無いのでこんな玩具は触った事も有りません。
どうやら早速シンシアとケイトが交代で挑戦する様です。
「あーっ、届かなかった」
思う様に矢が飛ばず景品が取れなかったケイトが嘆いています。あんな弦ではさもありなんですね。
先程の方はよくぞ当てました。
「ナンシーさんもどうですか?」
矢はまだ1本残っています。若女将から頂いた貴重なお金を無駄には出来ませんからね。
「判ったわ貸しなさい。私がやるわ」
こうして最後の矢は私が放つ事になりました。
「それで、何を狙うの?」
「特に欲しい物は無いんです。面白そうだからやってみただけで。でもあのクマのぬいぐるみなんて可愛いかなって」
「そう。ならあれを狙います」
あんなクマのぬいぐるみが欲しいなんてやっぱりまだ子供ですね。
若女将なんて12歳で王宮に入って以来、遊びと言えば慰問の為に訪れた福祉施設の子供と遊ぶ位でしたよ。
あっ、だからその時には真剣に遊んであんなに楽しそうでしたのね。今更気が付きました。反省しなければ。
「矢はこの1本ですね」
玩具の弓に対して矢は、鏃こそ有りませんけどしっかりとした矢ですね。弓とのバランスが悪過ぎます。これでは飛ぶ筈が有りません。
「姉さん別嬪さんだからもう1本おまけするよ!」
「結構です。1本有れば充分ですから」
私の眼は標的をしっかりと捉えると呼吸を整え、両手でゆっくりと構えます。
屋台の主人の小細工など私には通用致しません。
「綺麗」
シンシアがそんな声を漏らしていますが、いちいちそれに構ってはいられません。寧ろ集中の邪魔なのでお静かにお願いします。
「すげぇ、あの弓ってあんなにしなるのか?」
店主も何か言っていますが最早聞こえません。
更に集中力を増した私は標的に定めたクマのぬいぐるみに向けて矢を放ちました。
「「「!」」」
私の放った矢は確かに一直線でクマの喉元に当たりました。が、勢い余ってクマのぬいぐるみを貫通してしまい、景品が置いて有る階段状の台に当たると今度はその台が大きく振動して、程無く崩壊して景品が全て落ちてしまいました。
「あっ、あたありぃ…」
目立つ事は避けねばなりません。
呆然とそれだけを口にする店主を尻目に喉元に穴の空いたクマのぬいぐるみを奪う様に取り、それを微妙な面持ちのケイトに渡して逃げる様にその場を去りました。
初めて食べるそのジャガイモ料理はシンプルな味だった。だがシンプルイズベスト!
揚げたジャガイモに塩を振っただけの単純な料理に伸びる手を止める事が出来ない!
「すまん。こんな事なら2人前を注文すべきだったな」
俺だけでほぼ空にしてしまった皿を前にしてオリバーに申し訳なく思いながら言ってみた。もう一つのじゃがバターとやらも気になるが、流石にそれまでオリバーから奪う訳にはいくまい。オリバーにはそっちを食べてもらおう。
「気に入りましたか? 私は偶に食べていますのでお気になさらずに」
「何、偶に食べているだと?」
この料理はヒュンダルンでは見た事が無い。食べられるのか?
「実はこれはフライドポテトと言いまして、我が国でも庶民達の間で親しまれております。その、ジョージ様はお忙しいので下町には中々…」
そうだったのか。忙しさにかまけて平民達が好んで食べる物までは見ていなかった。これは反省しなければならないな。
魔物を討伐して落ち着いたら改めなければ。
「ところで、そう言うお前は下町にはよく行くのか?」
「実戦の感を鈍らせない為に町のゴロツキを成敗に参ります。町も綺麗になって一石二鳥かと」
「褒めるべきか悩む動機だな。そもそもだが、ゴロツキなどが居ない町にする事が我等の責務だ。ゴロツキを成敗する事は良いのだが、お前から町の治安についての報告は無かったろう?」
「おい兄さん、じゃがバターが冷めちまうよ。ほら、ホクホクのジャガイモの上で溶けたバターが輝いているだろう。早いとこ食べてくれ!」
気が付けばオリバーに説教を始めようとしていた俺の注意力は、屋台からの声により再び皿に向けさせていた。
ふと見ると屋台の老人と目を合わせたオリバーが軽く笑っている。
上手く躱されたが、このホクホクのじゃがバターに免じてその策に乗ってやるとするか。
◯▲△
ナンシー視点です。
「2人共、気になる屋台が有れば遠慮なく言いなさい。若女将から2人が楽しむ為のお金を預かって来ています」
「「はい!」」
「そして当然ですけれど、若女将に感謝しながら楽しみなさい」
「「はい、ナンシーさん!」」
「よろしい」
私達は若女将と料理長のご厚意に甘えて祭りを楽しんだ。
串に刺して焼いた肉や、普段は口にしない様なお菓子を3人で食べたりして祭りを楽しませて頂きました。
「当たーりっ!」
景気の良い声と共にカランカランと鐘を鳴らしている屋台が在る。
「あれは射的?」
この屋台は何やら玩具の弓矢で景品に当てる様です。そして当てたら貰える様ですね。
「ナンシーさんはこんな遊びはしますか?」
「やったー事が無いわ」
一通りに武芸は嗜んでいますので弓はそれなりですが、そもそも弓を遊びに使った事が無いのでこんな玩具は触った事も有りません。
どうやら早速シンシアとケイトが交代で挑戦する様です。
「あーっ、届かなかった」
思う様に矢が飛ばず景品が取れなかったケイトが嘆いています。あんな弦ではさもありなんですね。
先程の方はよくぞ当てました。
「ナンシーさんもどうですか?」
矢はまだ1本残っています。若女将から頂いた貴重なお金を無駄には出来ませんからね。
「判ったわ貸しなさい。私がやるわ」
こうして最後の矢は私が放つ事になりました。
「それで、何を狙うの?」
「特に欲しい物は無いんです。面白そうだからやってみただけで。でもあのクマのぬいぐるみなんて可愛いかなって」
「そう。ならあれを狙います」
あんなクマのぬいぐるみが欲しいなんてやっぱりまだ子供ですね。
若女将なんて12歳で王宮に入って以来、遊びと言えば慰問の為に訪れた福祉施設の子供と遊ぶ位でしたよ。
あっ、だからその時には真剣に遊んであんなに楽しそうでしたのね。今更気が付きました。反省しなければ。
「矢はこの1本ですね」
玩具の弓に対して矢は、鏃こそ有りませんけどしっかりとした矢ですね。弓とのバランスが悪過ぎます。これでは飛ぶ筈が有りません。
「姉さん別嬪さんだからもう1本おまけするよ!」
「結構です。1本有れば充分ですから」
私の眼は標的をしっかりと捉えると呼吸を整え、両手でゆっくりと構えます。
屋台の主人の小細工など私には通用致しません。
「綺麗」
シンシアがそんな声を漏らしていますが、いちいちそれに構ってはいられません。寧ろ集中の邪魔なのでお静かにお願いします。
「すげぇ、あの弓ってあんなにしなるのか?」
店主も何か言っていますが最早聞こえません。
更に集中力を増した私は標的に定めたクマのぬいぐるみに向けて矢を放ちました。
「「「!」」」
私の放った矢は確かに一直線でクマの喉元に当たりました。が、勢い余ってクマのぬいぐるみを貫通してしまい、景品が置いて有る階段状の台に当たると今度はその台が大きく振動して、程無く崩壊して景品が全て落ちてしまいました。
「あっ、あたありぃ…」
目立つ事は避けねばなりません。
呆然とそれだけを口にする店主を尻目に喉元に穴の空いたクマのぬいぐるみを奪う様に取り、それを微妙な面持ちのケイトに渡して逃げる様にその場を去りました。
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