32 / 54
留守中の報告
しおりを挟む
私とナンシーが『一角竜』に戻るとシンシアが興奮しながら留守中の出来事を報告しようとして来るけど、何か特別な事でも有ったのかしら?
「若女将、さっきとても格好良い方がいらしたのですよ!」
「あらそうなの。何名様?」
魔の大樹海から魔物が消えてしまってからは客足が落ち込んできたから新規のお客様は大歓迎よ。もちろん常連のお客様もだけど。
「えっ、気にならないのですか? まぁいいです。それにその方、お泊りにはなりませんでした」
それを聞いて私はズッコケそうになったわ。シンシアったら、そんなお客様でもない来訪者の事をにこやかに言わないでよ。
「何それ。道でも聞きに来たの?」
「いえ、人探しでした。何でも妹さんを探しているそうですよ」
「妹?」
シンシアが大騒ぎする様な容姿端麗な美丈夫が妹を探してこんな辺境まで足を延ばしている。一瞬だけお義兄様の事が頭を過ったけれど、そんな訳無いわよね。
お義兄様は私が逃げ延びる事を望んでくれている筈だから探して回っているなんて有り得ないわ。
「その方は1人でいらしたの?」
「いえ、お連れが3人。見た感じですけど主と従者って感じでした」
うーん、何とも言えないわね。お義兄様だとしたらこんな辺境までどうかしたのかしら?
お義兄様の事だから私を連れ戻して魔物除けの結界を張らせようって訳じゃないわよね。
それに第一お義兄様でない可能性も有るからどうした物かしら。
「シンシア、そんな殿方の話をされてもその方を見てもいない若女将と私にはどうする事も出来ないわ。無駄話をしていないで厨房に行って下ごしらえの手伝いをして」
ここで話題をナンシーが変えてくれた。正直言うと助かったわぁ。お義兄様だったらと思うと動揺してボロが出そうだったからね。
「あっ、はい。分かりましたナンシーさん」
「お願いね」
厳しめの口調の後に優しく言うナンシーの思惑に気が付く素振りも見せずにシンシアは厨房へと向かって行った。
それを確認してナンシーが私に向き直った。
「若女将、何もまだ若様だと決まった訳ではございません」
「それはそうだけど」
「それに若様だとしても若様は若女将の不利益になる様な事など一切致しません!」
ナンシー、言い切ったわね。それに流石はお義兄様ね。しっかりと皆に信用されているわ。
「そんな事は判っているわ。お義父様やお義母様、それにお義兄様は私に厳しくも優しくしてくれたわ。包容力って言うのかな? 私が至らなくて叱られている時でも私の事を思ってくれているって理解出来たわ。私は元は孤児だけど、その後の家族には恵まれていると思っているわよ」
ビュイック侯爵家は皆がそんな感じだったわ。
「お義兄様かも知れない殿方の話題はこれで終わりよ。それにしてもそんな美丈夫なら会ってみたかったわね」
「若女将、殿方にご興味が?」
「冗談よ。最悪な元婚約者のお陰で男に興味なんて無いわ」
「お察し致します」
「ねぇナンシー、前から疑問だったけど私もバツイチってなるのかしら?」
「婚約者はしていましたけれど婚姻は成立しておりません。ですのでバツイチではないかと思われます」
何故かナンシーが申し訳無さそうに言う。軽い冗談のつもりだったのに、その姿を見るとこっちが申し訳無く思う。
「それは残念ね。バツイチ三十路女が若女将を務める辺境の温泉宿って、売りになるかと思ったのに」
なのでこの話題は自虐的に締める事にした。
「若女将、さっきとても格好良い方がいらしたのですよ!」
「あらそうなの。何名様?」
魔の大樹海から魔物が消えてしまってからは客足が落ち込んできたから新規のお客様は大歓迎よ。もちろん常連のお客様もだけど。
「えっ、気にならないのですか? まぁいいです。それにその方、お泊りにはなりませんでした」
それを聞いて私はズッコケそうになったわ。シンシアったら、そんなお客様でもない来訪者の事をにこやかに言わないでよ。
「何それ。道でも聞きに来たの?」
「いえ、人探しでした。何でも妹さんを探しているそうですよ」
「妹?」
シンシアが大騒ぎする様な容姿端麗な美丈夫が妹を探してこんな辺境まで足を延ばしている。一瞬だけお義兄様の事が頭を過ったけれど、そんな訳無いわよね。
お義兄様は私が逃げ延びる事を望んでくれている筈だから探して回っているなんて有り得ないわ。
「その方は1人でいらしたの?」
「いえ、お連れが3人。見た感じですけど主と従者って感じでした」
うーん、何とも言えないわね。お義兄様だとしたらこんな辺境までどうかしたのかしら?
お義兄様の事だから私を連れ戻して魔物除けの結界を張らせようって訳じゃないわよね。
それに第一お義兄様でない可能性も有るからどうした物かしら。
「シンシア、そんな殿方の話をされてもその方を見てもいない若女将と私にはどうする事も出来ないわ。無駄話をしていないで厨房に行って下ごしらえの手伝いをして」
ここで話題をナンシーが変えてくれた。正直言うと助かったわぁ。お義兄様だったらと思うと動揺してボロが出そうだったからね。
「あっ、はい。分かりましたナンシーさん」
「お願いね」
厳しめの口調の後に優しく言うナンシーの思惑に気が付く素振りも見せずにシンシアは厨房へと向かって行った。
それを確認してナンシーが私に向き直った。
「若女将、何もまだ若様だと決まった訳ではございません」
「それはそうだけど」
「それに若様だとしても若様は若女将の不利益になる様な事など一切致しません!」
ナンシー、言い切ったわね。それに流石はお義兄様ね。しっかりと皆に信用されているわ。
「そんな事は判っているわ。お義父様やお義母様、それにお義兄様は私に厳しくも優しくしてくれたわ。包容力って言うのかな? 私が至らなくて叱られている時でも私の事を思ってくれているって理解出来たわ。私は元は孤児だけど、その後の家族には恵まれていると思っているわよ」
ビュイック侯爵家は皆がそんな感じだったわ。
「お義兄様かも知れない殿方の話題はこれで終わりよ。それにしてもそんな美丈夫なら会ってみたかったわね」
「若女将、殿方にご興味が?」
「冗談よ。最悪な元婚約者のお陰で男に興味なんて無いわ」
「お察し致します」
「ねぇナンシー、前から疑問だったけど私もバツイチってなるのかしら?」
「婚約者はしていましたけれど婚姻は成立しておりません。ですのでバツイチではないかと思われます」
何故かナンシーが申し訳無さそうに言う。軽い冗談のつもりだったのに、その姿を見るとこっちが申し訳無く思う。
「それは残念ね。バツイチ三十路女が若女将を務める辺境の温泉宿って、売りになるかと思ったのに」
なのでこの話題は自虐的に締める事にした。
1
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
とある中年男性の転生冒険記
うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
生贄の救世主
咲乃いろは
ファンタジー
穂柚葉はごくごく平凡な女子高生だったはずだ。誕生日の学校からの帰り道、祝ってもらうはずの御馳走とケーキを残して、何故か蓋が空いていたマンホールの中へ落ちてしまった。
下水の臭いを漂わせて目を開けると、そこは日本でも地球でもなくて。
出逢ったイケメンが言うには、柚葉は間違えて生贄としてこの世界に喚ばれたのだという。
少しネジが緩んだ女の子とそんな女の子の扱いに苦労するイケメンの話。
※小説家になろうにも掲載中。
俺だけレベルアップが止まらない
ファンタスティック小説家
ファンタジー
高校生・加納豊(かのうゆたか)は、天才マッサージ師を輩出する殿堂『加納整体院』の御曹司だ。
「お前は150年に1人の逸材だ! 整体院を継げ!」
天才マッサージ師の祖父にそう言われるも、加納は息をしているだけで相手を気持ちよくしてしまう自分の才能が嫌だった。
整体院を継ぎたくない加納が家を飛び出すと──そこは神に呼ばれた神秘の異次元『チュートリアル会場』だった。
「人類最強の100名を集めさせていただきました。大悪魔を倒してください」
マッサージをすることでモンスターから多くの経験値を獲得することができると知った加納は、ほかのメンバーをとはまるで違う早さでチュートリアルを攻略しレベルをあげまくることに。
外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~
うみ
ファンタジー
港で荷物の上げ下ろしをしたり冒険者稼業をして暮らしていたウィレムは、女冒険者の前でいい顔をできなかった仲間の男に嫉妬され突き飛ばされる。
落とし穴に落ちたかと思ったら、彼は見たことのない小屋に転移していた。
そこはとんでもない場所で、強力なモンスターがひしめく魔窟の真っただ中だったのだ。
幸い修行をする時間があったウィレムはそこで出会った火の玉と共に厳しい修行をする。
その結果たった一つの動作をコピーするだけだった外れスキル「トレース」が、とんでもないスキルに変貌したのだった。
どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまう。
彼はあれもこれもコピーし、迫りくるモンスターを全て打ち倒していく。
自分をここに送った首謀者を殴り飛ばすと心の中に秘めながら。
脱出して街に戻り、待っている妹と郊外に一軒家を買う。
ささやかな夢を目標にウィレムは進む。
※以前書いた作品のスキル設定を使った作品となります。内容は全くの別物となっております。
あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!
リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。
聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。
「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」
裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。
「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」
あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった!
、、、ただし責任は取っていただきますわよ?
◆◇◆◇◆◇
誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。
100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。
更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。
また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。
更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる