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鑑定と経理

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「シンシアァァァ、ケイトォォォ」

 涙腺崩壊させた私は、思わず2人に抱き着いた。

「つらかったね」

 私は孤児だ。生まれて直ぐに孤児院の前に置かれていたお陰で実の親の顔を知らない。
 居酒屋の奉公人の身であった私を養女にしてくれたオサリバン夫妻、聖女としての養父母であるビュイック侯爵夫妻は皆様ご健在。
 なので私は親を失う子供の気持ちは想像でしか判らない。
 でも幸せな日常を過ごしていただけなのに、犯罪者によって全てを奪われるなんて。酷過ぎて想像もしたくない。

「だから一角竜ウチの噂を聞いてレベルアップに来たの?」

 姉妹揃ってコクンと頷く。

「多くの冒険者がレベルアップしてるって聞いたので」

 若女将としては評判は結構だけど、それで初心者まで身の丈に合わない魔物と戦いに来るんなら評判も考え物ね。

「それでは冒険者としての能力スキルはどこで身に付けましたか?」

 今度はナンシーが聞く。

「はい。私は前から護身用の魔法を習っていました。あとは懇意にしていたギルドの皆さんにケイトが剣術を1年間習って出発しました。待ち切れなくて」

「それは得策とは言えませんね。ケイトさんに剣術を教えていたギルドの方は何か言っていましたか?」

「仇討ちなんかやめておけって」

 ケイトの言葉を聞いたナンシーは「ハァ」とため息をつくと、右手で眉間を押さえて考え込んでしまった。


「若女将、少し良いですか?」

 私とナンシーは2人して壁に向かって話す事にした。

「こう言っては何ですが、きっとギルドの方は匙を投げたのだと思います!」

「やっぱし?」

 両親の仇討ちという目的が有ろうと、質屋の娘が急に剣を振ってどうにか成る程剣術は甘くない事は知っている。
 聖女だった頃に騎士とは多少の交流が有ったから判るわ。

「どうされます?」

「はぁ、乗りかかった船ね」

「そう仰ると思いました」

 予想通りと言いたげにナンシーが微笑んでいる。うーん、何か悔しい。
 

「あなた達にはウチで働いてもらうわ。いいわね?」

「「はい!」」

 声を揃えて良い返事ね。

「でも鑑定なんていつも有る仕事じゃないの。他には何をしてもらおうかしら?」

「若女将、事務仕事はいかがでしょう?」

 ここで提案してきたのはボブソン。
 こんなうら若き乙女を狼の如き冒険者には晒したくない。特に強い魔物を倒した後とかの、気持ちが昂ぶっている時には尚更。
 だから事務仕事なんて良い事を思い付いたわね、ボブソン。

「そうね、質屋さんなら帳簿付けが出来るかしら?」

 質屋さんならお金は勿論、預かった品物の管理も完璧な筈よね。それを生業にしているのだから。
 現在のウチの従業員は頭よりも身体を使う仕事が得意なのよね。ナンシーを含めて。
 現状では帳簿付けは私がやっているけど、私だって経理のプロじゃないし。居酒屋の娘だった頃に少しだけ手伝っただけなのよね。

「はい。質屋の娘で手伝える事は手伝っていましたから」

 頼もしい言葉ね!

「ウチには大勢の冒険者のお客様がいらっしゃるわ。もしかしたらご両親の仇の情報も手に入るかも知れない」

 またしても姉妹が同じタイミングで、コクンと頷く。
 強盗を働く様な輩とウチのお客様に接点が有るのかは実際には判らないけど、この姉妹のモチベーションの為に言ってみた。

「でも仇討ちに固執してはダメよ。仇討ちの為にあなた達が傷付く事をご両親は望んでいない筈だから。それで良ければウチで働いて」

「はい! よろしくお願いします!」

 2人揃った良い返事ね。
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