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樹海

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「私達は姉妹で冒険者をしています。この魔の大樹海周辺でレベルを上げている冒険者が増えていると噂で聞いて私達もレベルアップする為に来ました」

 姉妹冒険者の妹のケイトがようやく事情を喋れる様になった。
 
「私達は弱いって自覚していますので奥には行かない様にしていましたが、私がつい1匹のゴブリンを深追いしてしまって。それが罠とも知らずに…」

 そうだったのね。ゴブリンって意外と頭を使うからね。道具も使うし。

「1匹を追い掛けて行った先には、集団で待ち伏せされていました。直ぐに逃げようとしたのですが、木の根に足を取られて転んでしまって。お姉ちゃん、私を庇ってウッウ」

 ここまで話してまた泣き出した。

「庇った時に切られたのね。それで切られた腕は? その場所に有るのなら早く取って来ないと手遅れになるわ」

「腕は、腕は、ウッウゥゥ…」

「ねぇ、腕はどうしたの?」

「ゴブリンに持ち去られました」

 思わず息を呑む。ハッキリ言えば絶望的な状況ね。最悪の場合、シンシアの腕は既にゴブリンに食べられているかも知れない。

「あの、私の腕を切ってお姉ちゃんに付けて下さい!」

「そんなの絶対にダメよ!」

 ここで二人揃って泣き崩れてしまったわ。このままでは収集が付かないわね。私はナンシーに眼で合図をする。
 
「!」

 するとナンシーは瞬く間に姉妹の背後に回り込むと後頭部を二人同時に叩き、意識を奪った。彼女達に見られてはいけない聖女の能力をこれから使うのだから仕方がないわね。

「ナンシー、シンシアのマントを」

「畏まりました」

 答える前にナンシーはシンシアのマントをめくっている。私が何をするのか判っているのは流石だ。
 それでは私は聖女の仕事をしましょうか。正確には、元聖女だけど。

「この者らに安らぎを」

 シンシアとケイト、それぞれに聖女の能力を行使する。この時の私の身体はうっすらと光っている筈。なのでやっぱり見られる訳にはいかない。

「若女将、これは?」

「シンシアの痛みと傷の進行を止めたの。腕が戻れば付けられる様に。それと2人に精神的な落ち着きを与えたのよ」

 まだこの姉妹は若いのだから、早い段階で可能性を潰すべきではないと思うの。

「それではシンシアさんの腕を取り戻すのですか?」

「ナンシー、厨房からお玉とフライパンを持って来て!」

「畏まりました!」

 ナンシーが嬉しそうに厨房へと飛んで行った。



○▲△

 
 ナンシーからお玉とフライパンを受け取った。こうなったらする事は一つしかないわ!
 今から私がする事は宿屋の若女将としては間違った行動なんだと思うし、私がお客様の立場なら迷惑以外の何物でもないかも知れない。
 でも、こうするしかない!

 カン! カン! カン!

「若女将はやはり私の仕えるべきお方です!」

 金属音で内容は判らないけど、何か言って瞳を輝かせているナンシーを他所に私はお玉でフライパンを叩く。
 夜の冒険に備えて寝ているお客様もいらっしゃるだろう。何かに集中している、或いはリラックスしているお客様もいらっしゃるだろう。
 それを宿屋の人間がぶち壊すなんてあってはならない。
 その禁を敢えて破る。

「どうした?」
「何が有った?」
「何なんだよ!」

 何事かとお客様が部屋から出て来られるけど、これか狙いなの。

「皆様、緊急クエストです!」

「なにそれ?」

「魔の大樹海でゴブリンの群れを探索する依頼を当館よりお出し致します」

「そんな事で起こしたのか!」
「勘弁してくれよ。大樹海なら明日行ってやるよ」

 案の定ブーイングだ。当然よね。でもここで怯んだらダメなの。

「いいえ、大至急でお願いします!」

「若女将がそんなに言うなら」
「しょうがねえな」
「何時までだ?」

「夜半までには」

「ゴブリンの群れだろ。見つけてぶっ潰せば良いんだろ。報酬は?」
「緊急なら弾んでもらうぜ!」

「ゴブリンの群れはそっとしておいて下さい。見つけたら私達に知らせて下さい。それだけで結構です」

 討伐しようとして派手な魔法とか使われたらシンシアの腕が危ないからね。まだ無事ならの話だけど。
 ゴブリンの群れの位置が判れば私とナンシーでどうとでもなる。
 後は報酬か。あの姉妹には出せないだろうな。


「報酬は当、『一角竜』30日間無料宿泊券で如何でしょう? 見つけられなくても参加料として本日のお代は頂きません!」

 元が安いから豪華さを感じないけど、若い勤め人の一月の給金以上に相当する。更に参加料まで出した。
 これ以上はウチも出せない。上目遣いで冒険者のお客様を伺う。

「なんだよ、探すだけってFランクの依頼じゃね」
「それで本当に30日無料なのか?」
「それじゃ軽く行って来るか!」

 結果として、全てのお客様に魔の大樹海に向かって頂く事になった。その中にはさっきご案内したばかりの4人組もいる。
 冒険者は基本的に乗りが良いから、こういう時に助かるのよね。
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