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死刑判決
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あの日から2年も経つのね。
初めて入った法廷の重々しい空気は吸うだけで息苦しかった事を今でも覚えている。
そして法廷に響いた裁判長の声も。
「判決を言い渡す。被告人スカーレット=ビュイックをギロチン刑に処す!」
王太子の婚約者で、人々を癒しつつ魔物から国を守る結界を張っていたとされる聖女、スカーレット=ビュイックは裁判長から死刑判決を言い渡された。
このスカーレット=ビュイックとは私、エマ=ブライトの事なんだけどね。
尤もスカーレットは偽聖女であり、結界も私の張った物ではない事になっているし、この時は既に王太子からも婚約を破棄されていたわね。
裁判の直後、上告も許されず処刑の恐怖に身を震わせる時間も無いまま馬車に乗せられ、公開処刑の場である王都の中央広場まで護送される事になった旨も告げられたらしいけども、何も耳に入って来なかった。
ようやく裁判長が何かを言っているのが理解出来た。
「何か言う事は有るか?」
「…………」
人間は悔し過ぎると何も言えないのかも知れない。
疾しい事など身に覚えが無いから。自らに恥じる事など何も無いから。
ただ悔しかった。
私の事を一刻も早くこの世から消し去りたい、という連中の思惑に抗えない自分の非力さが口惜しかった。
「さっさと歩け!」
「………」
怒鳴りつけた役人を無言で睨み返す。これがその時の私に出来た、聖女スカーレットとしての精一杯の抵抗だった。
私は公開処刑される広場に向かう馬車の中で、これまでの人生を振り返っていた。
○▲△
私は地方都市の孤児院の前に捨てられていた捨て子だったと聞いている。
元の名前はサラ。
サラという名前は孤児院の前に赤ちゃんだった私が入れられたバスケットにそう書かれた紙が入っていたから、そう付けられた名前らしい。
孤児院では8歳まで過ごした。これは国の制度として、孤児は8歳になると孤児院を出て奉公に出なければならないと定められている為だ。
食費が嵩む前に孤児院から出して経費を浮かせる事と、孤児に早く手に職を付けさせる事で一石二鳥となるからみたい。
8歳になった私の奉公先はオサリバン夫妻の経営する大衆酒場だった。
大らかなオサリバン夫妻に優しく迎えられた私は酒場を手伝い、常連客からは「看板娘に出してもらうと料理が美味くなる!」と言われ笑顔の絶えない日常を送り、そのまま子供の無いオサリバン夫妻の養女となるのに時間は要らなかった。
11歳の時だった。
酒に酔った常連客が店内で転んだ拍子に割れた酒瓶で怪我をしてしまった。
床に血がみるみるうちに広がっていく。
そんな中、心配して駆け寄った私は理由もなく本能的に手を翳してみた。するとその常連客の怪我は最初からそんな傷は無かったかの様に治っていった!
「すげぇよサラちゃん!」
「サラちゃんは何か魔法が使えるのか?」
「いや、魔法ではなくてサラちゃんはごく自然に治したぞ」
「第一、怪我が治る魔法なんてないだろ」
お客さん達の驚いた顔を今でもハッキリと覚えているわ。
「サラちゃんは何か不思議な能力が有るのか?」
「そう言えば前から思っていたけど、この店に来てサラちゃんの出す料理を食べた翌日は持病の腰痛が嘘みたいに痛くないんだ!」
「俺は悩まされてたリウマチが治ったぞ!」
「何だか酒場に来て健康になっている気がする!」
常連客達はそれぞれの証言取りまとめ、一つの結論に辿り着いた。
「もしかして、サラちゃんは聖女様なのでは?」
初めて入った法廷の重々しい空気は吸うだけで息苦しかった事を今でも覚えている。
そして法廷に響いた裁判長の声も。
「判決を言い渡す。被告人スカーレット=ビュイックをギロチン刑に処す!」
王太子の婚約者で、人々を癒しつつ魔物から国を守る結界を張っていたとされる聖女、スカーレット=ビュイックは裁判長から死刑判決を言い渡された。
このスカーレット=ビュイックとは私、エマ=ブライトの事なんだけどね。
尤もスカーレットは偽聖女であり、結界も私の張った物ではない事になっているし、この時は既に王太子からも婚約を破棄されていたわね。
裁判の直後、上告も許されず処刑の恐怖に身を震わせる時間も無いまま馬車に乗せられ、公開処刑の場である王都の中央広場まで護送される事になった旨も告げられたらしいけども、何も耳に入って来なかった。
ようやく裁判長が何かを言っているのが理解出来た。
「何か言う事は有るか?」
「…………」
人間は悔し過ぎると何も言えないのかも知れない。
疾しい事など身に覚えが無いから。自らに恥じる事など何も無いから。
ただ悔しかった。
私の事を一刻も早くこの世から消し去りたい、という連中の思惑に抗えない自分の非力さが口惜しかった。
「さっさと歩け!」
「………」
怒鳴りつけた役人を無言で睨み返す。これがその時の私に出来た、聖女スカーレットとしての精一杯の抵抗だった。
私は公開処刑される広場に向かう馬車の中で、これまでの人生を振り返っていた。
○▲△
私は地方都市の孤児院の前に捨てられていた捨て子だったと聞いている。
元の名前はサラ。
サラという名前は孤児院の前に赤ちゃんだった私が入れられたバスケットにそう書かれた紙が入っていたから、そう付けられた名前らしい。
孤児院では8歳まで過ごした。これは国の制度として、孤児は8歳になると孤児院を出て奉公に出なければならないと定められている為だ。
食費が嵩む前に孤児院から出して経費を浮かせる事と、孤児に早く手に職を付けさせる事で一石二鳥となるからみたい。
8歳になった私の奉公先はオサリバン夫妻の経営する大衆酒場だった。
大らかなオサリバン夫妻に優しく迎えられた私は酒場を手伝い、常連客からは「看板娘に出してもらうと料理が美味くなる!」と言われ笑顔の絶えない日常を送り、そのまま子供の無いオサリバン夫妻の養女となるのに時間は要らなかった。
11歳の時だった。
酒に酔った常連客が店内で転んだ拍子に割れた酒瓶で怪我をしてしまった。
床に血がみるみるうちに広がっていく。
そんな中、心配して駆け寄った私は理由もなく本能的に手を翳してみた。するとその常連客の怪我は最初からそんな傷は無かったかの様に治っていった!
「すげぇよサラちゃん!」
「サラちゃんは何か魔法が使えるのか?」
「いや、魔法ではなくてサラちゃんはごく自然に治したぞ」
「第一、怪我が治る魔法なんてないだろ」
お客さん達の驚いた顔を今でもハッキリと覚えているわ。
「サラちゃんは何か不思議な能力が有るのか?」
「そう言えば前から思っていたけど、この店に来てサラちゃんの出す料理を食べた翌日は持病の腰痛が嘘みたいに痛くないんだ!」
「俺は悩まされてたリウマチが治ったぞ!」
「何だか酒場に来て健康になっている気がする!」
常連客達はそれぞれの証言取りまとめ、一つの結論に辿り着いた。
「もしかして、サラちゃんは聖女様なのでは?」
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