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「――っ」
味わったことのない痛みに言葉は出ない。脈打つように痛む腰に手を当てると、べちゃりと音を立てた。濡れている。温かい。脳によぎった予想に目をつむりながらさらに触れると、固いものに手が触れた。それと、遥の両手にも。
「何、して、るの」
息を吸うたびに痛みが走る。言葉を並べるだけで気を失ってしまいそう。呼吸するたびに、手を動かすたびに、霧の夜のような頭の中を手探りするたびに、激痛がずっとそばにいる。
このまま意識を失えばどうなるか。本能的に察していても、痛みにこらえきれず前のめりに倒れ込んでしまった。
倒れた衝撃で襲い掛かる、痛みを超えた何か。遥が持っていた包丁から自ら離れて何やってんだろ。
「私は完璧じゃないといけないの。お前みたいな不良品のゴミは生きているだけで面汚しなんだよ。私と似るな。消えろ、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
呪いのような言葉は徐々に大きく、二人の距離も縮んでいく。屈んだ遥の腕が私へと伸び、無理やりに仰向けにさせられる。痛みに悶える間もなく、遥が馬乗りになった。
「違うの、違う、私、遥を」
「もういい黙れ」
遥が両手を振り上げる。次なる痛みに耐えようと目を閉じると、不思議と痛みは消えていた。遥の重みも感じない。ずっとそこにあった血の匂いも濡れた手も、ぼんやりと見えていた視界さえも無に変わっていた。
もうすぐ、死ぬんだ。こんな何もない闇の中で一人死ぬ。遥に振り回されて、いいように扱われて死ぬんだ。
まぶたに力を入れても光は見えない。この暗闇がまぶたの裏なのか、目を開けているのかもわからない。そんな闇の中で意識を失う直前に、一番聞きたかった声が聞こえた気がした。
千夏が、呼んでくれたような気がした。
味わったことのない痛みに言葉は出ない。脈打つように痛む腰に手を当てると、べちゃりと音を立てた。濡れている。温かい。脳によぎった予想に目をつむりながらさらに触れると、固いものに手が触れた。それと、遥の両手にも。
「何、して、るの」
息を吸うたびに痛みが走る。言葉を並べるだけで気を失ってしまいそう。呼吸するたびに、手を動かすたびに、霧の夜のような頭の中を手探りするたびに、激痛がずっとそばにいる。
このまま意識を失えばどうなるか。本能的に察していても、痛みにこらえきれず前のめりに倒れ込んでしまった。
倒れた衝撃で襲い掛かる、痛みを超えた何か。遥が持っていた包丁から自ら離れて何やってんだろ。
「私は完璧じゃないといけないの。お前みたいな不良品のゴミは生きているだけで面汚しなんだよ。私と似るな。消えろ、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
呪いのような言葉は徐々に大きく、二人の距離も縮んでいく。屈んだ遥の腕が私へと伸び、無理やりに仰向けにさせられる。痛みに悶える間もなく、遥が馬乗りになった。
「違うの、違う、私、遥を」
「もういい黙れ」
遥が両手を振り上げる。次なる痛みに耐えようと目を閉じると、不思議と痛みは消えていた。遥の重みも感じない。ずっとそこにあった血の匂いも濡れた手も、ぼんやりと見えていた視界さえも無に変わっていた。
もうすぐ、死ぬんだ。こんな何もない闇の中で一人死ぬ。遥に振り回されて、いいように扱われて死ぬんだ。
まぶたに力を入れても光は見えない。この暗闇がまぶたの裏なのか、目を開けているのかもわからない。そんな闇の中で意識を失う直前に、一番聞きたかった声が聞こえた気がした。
千夏が、呼んでくれたような気がした。
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