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「子ども染みているのは見た目だけにしてちょうだい。そんな偽物の恋が実ると本当に思っているの? 恋愛まで小学生レベルなのかしら」
「偽者なんかじゃ、ないもん」
「そんな無駄な恋、どうせ無様に散るだけよ。いい? ちーちゃんみたいなばかが、誰かを好きになっても迷惑でしか――」
その後に続いたのは乾いた破裂音だった。気が付ければ立ち上がり、遥の頬を打った手のひらがジンジンと痛んでいる。それでもなお止められず、遥の胸倉をつかみ上げた。
「いい加減にして。千夏の恋が偽物かどうか、遥が決めることじゃない。それに、偽者を作り出そうとした遥に言う資格なんてないでしょ!」
遥のにらみにも恐れない。胸元の手を緩めることなくにらみ返した。
「千夏に謝って。そうしないともう一発――」
「離せクソアマ!」
聞き慣れない言葉に思わず手が緩む。とっさに体を捻った遥に距離を取られた。
「似ているからって図に乗んなゴミが。お前なんか、黙って抱かれていれば良かったんだよ。この能なしめ」
あまりの変わりように思考が止まる。動けない私たちをよそに、遥は大きく天を仰いだ後で「もういい。期待した私がばかだった」と嘆いた。
「どいつもこいつも私の足元に及ばないくせに、恋だの愛だの語りやがって。お前たちも他の連中と同じかよ。くだらないゴミどもめ」
そう吐き捨て、遥が大股で部屋を去った。豹変した遥を目の当たりにして、追い掛けるという選択肢が現れたのはかなり後だった。清楚だった背中が消えた玄関をじっと見つめ、千夏とほとんど同時にため息を漏らした。
「あれ、知ってたの?」
玄関を指さす。千夏が目をそらしながら俯いた。
「昔、はる姉に殺されかけた時も、あんな感じだったんだ。殺すぞって言われたの」
右顎の下を隠す千夏の手。私の知らないところで遥はずっとそうだったんだ。自分勝手でわがままで、幼なじみを簡単に傷付けられる人間だったんだ。
それなのに何も知らずに一緒にいた。上辺しか見ていなかった。悔やんでも悔やみ切れない。ずっと昔に気付いていれば、こんなことにはならなかっただろう。
「偽者なんかじゃ、ないもん」
「そんな無駄な恋、どうせ無様に散るだけよ。いい? ちーちゃんみたいなばかが、誰かを好きになっても迷惑でしか――」
その後に続いたのは乾いた破裂音だった。気が付ければ立ち上がり、遥の頬を打った手のひらがジンジンと痛んでいる。それでもなお止められず、遥の胸倉をつかみ上げた。
「いい加減にして。千夏の恋が偽物かどうか、遥が決めることじゃない。それに、偽者を作り出そうとした遥に言う資格なんてないでしょ!」
遥のにらみにも恐れない。胸元の手を緩めることなくにらみ返した。
「千夏に謝って。そうしないともう一発――」
「離せクソアマ!」
聞き慣れない言葉に思わず手が緩む。とっさに体を捻った遥に距離を取られた。
「似ているからって図に乗んなゴミが。お前なんか、黙って抱かれていれば良かったんだよ。この能なしめ」
あまりの変わりように思考が止まる。動けない私たちをよそに、遥は大きく天を仰いだ後で「もういい。期待した私がばかだった」と嘆いた。
「どいつもこいつも私の足元に及ばないくせに、恋だの愛だの語りやがって。お前たちも他の連中と同じかよ。くだらないゴミどもめ」
そう吐き捨て、遥が大股で部屋を去った。豹変した遥を目の当たりにして、追い掛けるという選択肢が現れたのはかなり後だった。清楚だった背中が消えた玄関をじっと見つめ、千夏とほとんど同時にため息を漏らした。
「あれ、知ってたの?」
玄関を指さす。千夏が目をそらしながら俯いた。
「昔、はる姉に殺されかけた時も、あんな感じだったんだ。殺すぞって言われたの」
右顎の下を隠す千夏の手。私の知らないところで遥はずっとそうだったんだ。自分勝手でわがままで、幼なじみを簡単に傷付けられる人間だったんだ。
それなのに何も知らずに一緒にいた。上辺しか見ていなかった。悔やんでも悔やみ切れない。ずっと昔に気付いていれば、こんなことにはならなかっただろう。
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