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一
八つ当たり
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剣術を習い始めたきっかけは皇太子の一言だった。騎士がカッコイイと楽しそうに騒いでいたから始めた。喜んで貰えると思って始めたんだ。結局いくら強くなってもカッコイイと言われたことは無かったが。むしろなんで俺より強いんだと嫌そうにしていた。
「ふっ······嫌そう、か」
俺はそこまで性格は悪くないと思ってたんだが······。嫌がる皇太子を想像したらざまぁと思ってしまった。どうせならあの場で決闘を申し込むべきだったか。体を動かしたせいか悲しみよりも怒りが勝ってくる。俺との戦いに耐えられる存在と剣を撃ち合いたい所だが、何せ今は相手が居ない。ライル達は既に勤務時間外なので帰らせてしまったのだから。
「今日は寝れそうにないな」
空を見上げれば昨日に劣らず綺麗な星空が広がっていた。周囲の草が小さな音を立て揺れたと思えば、皇太子と同じ美しい金色が飛びてていた。どうやら俺は幻覚まで見えてきてしまっているらしい。草は緑色に決まっているではないか。今度医者でも呼んで精神鑑定してもらおう。俺はそっと目を背けた。
「·············あ、これぼく無視されましたね」
明日は久しぶりに街にでも行ってみようか。皇太子の婚約者という鎖から開放された今ならなんでもやり放題だ。側近達を集めて皆に欲しいものでも買ってやろう。昔食べた少し体に悪そうな揚げたパンも食べたいな。
「やっぱりぼくのことも恨んで········」
最近は孤児院や教会にも行けていなかった。アグレスタ公爵家は膨大な援助を行っているからよく手紙が送られてくる。子供たちは俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれている。一人っ子だからかそう呼ばれるのは嫌いじゃない。思い出すと口角が上がってくる。
「うわっ······レインさんが珍しく笑ってる······」
「···············次は幻聴か。精神攻撃は効かないはずなんだがな。やはり明日は医者に──」
「幻聴じゃありませんよ! ぼくここに居ます!」
叫び声と同時にガサッと大きく音を立て人が出てくる。低すぎず高すぎない、だけれど男性と分かる声。金色の髪に蒼い瞳。その特徴だけで誰なのか瞬時に分かった。
「あぁ、お久しぶりです。ルイス殿下」
「もう少し驚いてくださいよ······」
「あなたのせいで耐性がついたんですよ」
「いつも平然としてるじゃないですか」
「そう見えるだけです」
相変わらず気配を消すのが上手い。ほんとに驚いているのに伝わっていないようだ。ルイス・ヴィラルド。皇太子殿下の弟でこの国の第二皇子だ。いつも得意な転移魔法と隠密魔法で驚かせようとしてくる。俺の後輩で本来なら弟になるはずだった人物。
俺は地面に置いたはずの木刀を2つ拾い上げ、1つをルイス殿下に投げ渡した。
「それで、一体どのような用件ですか? 皇太子殿下に暗殺でも頼まれましたか?」
「冗談はやめてください。ぼくだってまだ死にたくありません」
「そうですか? 今なら俺の隙をつけたと思うのですが」
「どうせ防御結界に弾かれます」
口を膨らませ拗ねているルイス殿下。一見可愛らしく見えるが躊躇なく俺の心臓目掛けて剣を刺してくる。まぁ、お互い信頼しているからこそ成り立つ行為だが。少し恨みが篭ってそうで複雑な気持ちになる。
「ルイス殿下。俺はあなたのお兄様に捨てられました」
「············知っています。その件は兄様が申し訳ありませんでした。ぼくだって知ってたら止めてました」
「あなたは皇太子殿下に似ています。なので八つ当たりさせてください」
「えぇ!? それはさすがにひど──ッ!?」
流石は第二皇子殿下。ライルと違い不意をついても軽々と受け止めてしまう。俺は剣を折る勢いで力を込めた。
「手加減してください! 一撃重すぎです!」
「八つ当たりですから」
「もー! 兄様大っ嫌いッ!」
ルイス殿下が叫ぶと同時に剣が弾かれる。その反動で少し腕が痺れた。ジンジンと痛む腕を無視して上段の構えを取る。思い切り振り下ろすもルイス殿下は転移で避けてしまった。
「うわっ!? 斬撃で木が吹っ飛びましたよ!? ほんとに加減してます?!」
「もちろん。全くしてませんよ」
俺はニヤリと笑ってルイス殿下に追い打ちをかけた。
「ふっ······嫌そう、か」
俺はそこまで性格は悪くないと思ってたんだが······。嫌がる皇太子を想像したらざまぁと思ってしまった。どうせならあの場で決闘を申し込むべきだったか。体を動かしたせいか悲しみよりも怒りが勝ってくる。俺との戦いに耐えられる存在と剣を撃ち合いたい所だが、何せ今は相手が居ない。ライル達は既に勤務時間外なので帰らせてしまったのだから。
「今日は寝れそうにないな」
空を見上げれば昨日に劣らず綺麗な星空が広がっていた。周囲の草が小さな音を立て揺れたと思えば、皇太子と同じ美しい金色が飛びてていた。どうやら俺は幻覚まで見えてきてしまっているらしい。草は緑色に決まっているではないか。今度医者でも呼んで精神鑑定してもらおう。俺はそっと目を背けた。
「·············あ、これぼく無視されましたね」
明日は久しぶりに街にでも行ってみようか。皇太子の婚約者という鎖から開放された今ならなんでもやり放題だ。側近達を集めて皆に欲しいものでも買ってやろう。昔食べた少し体に悪そうな揚げたパンも食べたいな。
「やっぱりぼくのことも恨んで········」
最近は孤児院や教会にも行けていなかった。アグレスタ公爵家は膨大な援助を行っているからよく手紙が送られてくる。子供たちは俺をお兄ちゃんと呼んで慕ってくれている。一人っ子だからかそう呼ばれるのは嫌いじゃない。思い出すと口角が上がってくる。
「うわっ······レインさんが珍しく笑ってる······」
「···············次は幻聴か。精神攻撃は効かないはずなんだがな。やはり明日は医者に──」
「幻聴じゃありませんよ! ぼくここに居ます!」
叫び声と同時にガサッと大きく音を立て人が出てくる。低すぎず高すぎない、だけれど男性と分かる声。金色の髪に蒼い瞳。その特徴だけで誰なのか瞬時に分かった。
「あぁ、お久しぶりです。ルイス殿下」
「もう少し驚いてくださいよ······」
「あなたのせいで耐性がついたんですよ」
「いつも平然としてるじゃないですか」
「そう見えるだけです」
相変わらず気配を消すのが上手い。ほんとに驚いているのに伝わっていないようだ。ルイス・ヴィラルド。皇太子殿下の弟でこの国の第二皇子だ。いつも得意な転移魔法と隠密魔法で驚かせようとしてくる。俺の後輩で本来なら弟になるはずだった人物。
俺は地面に置いたはずの木刀を2つ拾い上げ、1つをルイス殿下に投げ渡した。
「それで、一体どのような用件ですか? 皇太子殿下に暗殺でも頼まれましたか?」
「冗談はやめてください。ぼくだってまだ死にたくありません」
「そうですか? 今なら俺の隙をつけたと思うのですが」
「どうせ防御結界に弾かれます」
口を膨らませ拗ねているルイス殿下。一見可愛らしく見えるが躊躇なく俺の心臓目掛けて剣を刺してくる。まぁ、お互い信頼しているからこそ成り立つ行為だが。少し恨みが篭ってそうで複雑な気持ちになる。
「ルイス殿下。俺はあなたのお兄様に捨てられました」
「············知っています。その件は兄様が申し訳ありませんでした。ぼくだって知ってたら止めてました」
「あなたは皇太子殿下に似ています。なので八つ当たりさせてください」
「えぇ!? それはさすがにひど──ッ!?」
流石は第二皇子殿下。ライルと違い不意をついても軽々と受け止めてしまう。俺は剣を折る勢いで力を込めた。
「手加減してください! 一撃重すぎです!」
「八つ当たりですから」
「もー! 兄様大っ嫌いッ!」
ルイス殿下が叫ぶと同時に剣が弾かれる。その反動で少し腕が痺れた。ジンジンと痛む腕を無視して上段の構えを取る。思い切り振り下ろすもルイス殿下は転移で避けてしまった。
「うわっ!? 斬撃で木が吹っ飛びましたよ!? ほんとに加減してます?!」
「もちろん。全くしてませんよ」
俺はニヤリと笑ってルイス殿下に追い打ちをかけた。
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