8 / 8
一章 10歳
悪役令嬢と悪役令息
しおりを挟む
「ふふふ。カイアス様のあまりに必死なお姿に、つい見入ってしまいましたわ」
彼女は口元に手を当て上品に笑いました。
どうやら私は醜態を晒してしまったようです。草むらに居たフィオラ嬢に言われる筋合いはないのですがね。
「フィオラ嬢こそ相変わらずお元気なことで。もう少し慎みを持たれては如何ですか? 盗み聞きとは感心いたしませんね」
そもそもご令嬢がおひとりで行動すること自体問題なのですが。言って聞くような方ではありませんからね。
「あら、わたくし覗きの趣味はありませんのよ? たまたま聞こえてしまったのですから仕方の無いことですわ」
「それでは仕方がありませんね。地面を這いつくばっていらしたのですから。そのようなことも起こり得ますよ」
「全くもってその通りですわ。身長をあまり気にする必要もありませんのよ?」
「ふふふ。ご冗談を」
「ふふふ。カイアス様こそ」
周囲にバチバチと火花が散る。魔力の衝突ですね。さすがはスカーレット家のご息女。凄い魔力量です。
「おいッ! 俺を放置するな!」
お互いしばらく睨み合っていると、リアム殿下が叫びました。
ヘタレなのですから大人しくしてれば良いものを。リアム殿下はフィオラ嬢の皮肉に耐えられるのでしょうか。
「あら、リアム殿下。いらっしゃったのですね。全くもって気が付きませんでしたわ」
「なんだとッ!? 無礼だぞ!」
ぷりぷりと怒るリアム殿下。これでは完全にフィオラ嬢のペースですね。王族として隙を見せるなと再三申し上げてきたのですが。もっと厳しく教育する必要がありそうです。
「リアム殿下。わたくしは公爵令嬢ですのよ? いくら王族とてもう少し節度を弁えるべきですわ」
思わずうんうんと頷きます。さすがはフィオラ嬢。全くもってその通りです。もっと言ってやってください。
「ッ······カイアス!」
「あー、なんだか急に眠たくなってきましたぁ。もうダメです」
「おいっ! カイアス!」
その場にバタンと倒れます。これは性格矯正のチャンスに違いありません。礼儀作法の方はフィオラ嬢に頼みましょうか。
私はちらりとフィオラ嬢に視線を送ります。彼女は意図を読み取ってくれたらしく、小さく頷きました。
「リアム殿下。わたくしを無視なさるなんて酷いですわ。さぁ、王族としての立ち振る舞いを教えて差し上げますのでこちらにいらしてください」
「やめろッ! 離せぇー!」
ズルズルと引きずられていくリアム殿下を笑顔で見送ります。なんと素晴らしいことでしょう。悩みの種がひとつ解消されました。いっその事リアム殿下とフィオラ嬢を婚約させるのもありですね。私が亡くなってもフィオラ嬢なら何とかしてくれそうです。
と、そこまで考えて、ある事実を思い出しました。
「あ、そういえばフィオラ嬢も亡くなってしまうんでした」
悪役令息と悪役令嬢。同じ運命を辿るもの同士ですね。フィオラ嬢が嫉妬でいじめる可能性、ましてやヴィルハルト殿下に惚れる可能性もないとは思うのですが。彼女のことですから政略結婚といえど婚約者が他の女性にうつつを抜かしている姿を無視できなかったのでしょうね。
「真面目な性格も考えものですねぇ」
「それは君にも言えることじゃないかな?」
「ッ! 何故学園長がこちらに?」
気配が全くありませんでした。私は急いで立ち上がります。学園長のケイル・ディスタル。見た目は10代にも見えるほどお若いのですが、実年齢は20を超えているお方です。魔術を扱う者が多いこの学園を完璧に支配している。この国で五本の指に入る魔術師です。
「まぁまぁ。そんなに警戒しないでちょうだいな。君が強制転移なんて使うから様子を見に来たんだよ。君の体、魔術を使うのに向いてないでしょ?」
「··········はい。確かにその通りです」
隠蔽していたつもりなのですが。見破られてしまったようです。学園長から送られた視線に、私は嫌々ながら上着を脱ぎます。
「うわぁ。その呪印誰につけられた?」
「四年前誘拐された時に、と父上から伺っております」
私の体には黒い模様があります。上位の魔術師でなければ視認することすら出来ない強力な呪印が。
「んー。これは流石の私でもどうにも出来ないなぁ。この呪印の効果は············瘴気の発散妨害。魔術の発動妨害。って所かな?」
「ちっ、正解です」
正直知られたく無かったのですが。父上にも箝口令を敷かれていますし。これで弱みを握られたと考えると割に合いません。
「で? 何の用ですか? 引きこもり魔術師のあんたが出てくるなんて」
「いや。純粋に君が心配だっただけだよ? ほら、君って我が学園の生徒だし」
「所有物の間違えでは?」
この方もまた。ヴィルハルト殿下には及ばないのですが性格に難のあるお方です。学園内の全ては自分が支配している。生徒職員関係なく全て私の所有物だ。っと、いった思考回路の持ち主です。
「口調崩れかけてるよ?」
「あぁ? あんたのせいですよね? さっさと失せろください」
「こわーい。じゃあ私は失礼するよ。くれぐれも魔術を使いすぎるんじゃないよ? これ以上は君、壊れちゃうよ~」
「承知の上です」
ヘラヘラと笑いながら去っていく後ろ姿を睨みつける。
学園内の支配体制も相変わらずですね。魔術を行使しただけで居場所と人物を特定するとは。なんと気持ちの悪いことでしょう。一生引きこもって頂きたいものです。
彼女は口元に手を当て上品に笑いました。
どうやら私は醜態を晒してしまったようです。草むらに居たフィオラ嬢に言われる筋合いはないのですがね。
「フィオラ嬢こそ相変わらずお元気なことで。もう少し慎みを持たれては如何ですか? 盗み聞きとは感心いたしませんね」
そもそもご令嬢がおひとりで行動すること自体問題なのですが。言って聞くような方ではありませんからね。
「あら、わたくし覗きの趣味はありませんのよ? たまたま聞こえてしまったのですから仕方の無いことですわ」
「それでは仕方がありませんね。地面を這いつくばっていらしたのですから。そのようなことも起こり得ますよ」
「全くもってその通りですわ。身長をあまり気にする必要もありませんのよ?」
「ふふふ。ご冗談を」
「ふふふ。カイアス様こそ」
周囲にバチバチと火花が散る。魔力の衝突ですね。さすがはスカーレット家のご息女。凄い魔力量です。
「おいッ! 俺を放置するな!」
お互いしばらく睨み合っていると、リアム殿下が叫びました。
ヘタレなのですから大人しくしてれば良いものを。リアム殿下はフィオラ嬢の皮肉に耐えられるのでしょうか。
「あら、リアム殿下。いらっしゃったのですね。全くもって気が付きませんでしたわ」
「なんだとッ!? 無礼だぞ!」
ぷりぷりと怒るリアム殿下。これでは完全にフィオラ嬢のペースですね。王族として隙を見せるなと再三申し上げてきたのですが。もっと厳しく教育する必要がありそうです。
「リアム殿下。わたくしは公爵令嬢ですのよ? いくら王族とてもう少し節度を弁えるべきですわ」
思わずうんうんと頷きます。さすがはフィオラ嬢。全くもってその通りです。もっと言ってやってください。
「ッ······カイアス!」
「あー、なんだか急に眠たくなってきましたぁ。もうダメです」
「おいっ! カイアス!」
その場にバタンと倒れます。これは性格矯正のチャンスに違いありません。礼儀作法の方はフィオラ嬢に頼みましょうか。
私はちらりとフィオラ嬢に視線を送ります。彼女は意図を読み取ってくれたらしく、小さく頷きました。
「リアム殿下。わたくしを無視なさるなんて酷いですわ。さぁ、王族としての立ち振る舞いを教えて差し上げますのでこちらにいらしてください」
「やめろッ! 離せぇー!」
ズルズルと引きずられていくリアム殿下を笑顔で見送ります。なんと素晴らしいことでしょう。悩みの種がひとつ解消されました。いっその事リアム殿下とフィオラ嬢を婚約させるのもありですね。私が亡くなってもフィオラ嬢なら何とかしてくれそうです。
と、そこまで考えて、ある事実を思い出しました。
「あ、そういえばフィオラ嬢も亡くなってしまうんでした」
悪役令息と悪役令嬢。同じ運命を辿るもの同士ですね。フィオラ嬢が嫉妬でいじめる可能性、ましてやヴィルハルト殿下に惚れる可能性もないとは思うのですが。彼女のことですから政略結婚といえど婚約者が他の女性にうつつを抜かしている姿を無視できなかったのでしょうね。
「真面目な性格も考えものですねぇ」
「それは君にも言えることじゃないかな?」
「ッ! 何故学園長がこちらに?」
気配が全くありませんでした。私は急いで立ち上がります。学園長のケイル・ディスタル。見た目は10代にも見えるほどお若いのですが、実年齢は20を超えているお方です。魔術を扱う者が多いこの学園を完璧に支配している。この国で五本の指に入る魔術師です。
「まぁまぁ。そんなに警戒しないでちょうだいな。君が強制転移なんて使うから様子を見に来たんだよ。君の体、魔術を使うのに向いてないでしょ?」
「··········はい。確かにその通りです」
隠蔽していたつもりなのですが。見破られてしまったようです。学園長から送られた視線に、私は嫌々ながら上着を脱ぎます。
「うわぁ。その呪印誰につけられた?」
「四年前誘拐された時に、と父上から伺っております」
私の体には黒い模様があります。上位の魔術師でなければ視認することすら出来ない強力な呪印が。
「んー。これは流石の私でもどうにも出来ないなぁ。この呪印の効果は············瘴気の発散妨害。魔術の発動妨害。って所かな?」
「ちっ、正解です」
正直知られたく無かったのですが。父上にも箝口令を敷かれていますし。これで弱みを握られたと考えると割に合いません。
「で? 何の用ですか? 引きこもり魔術師のあんたが出てくるなんて」
「いや。純粋に君が心配だっただけだよ? ほら、君って我が学園の生徒だし」
「所有物の間違えでは?」
この方もまた。ヴィルハルト殿下には及ばないのですが性格に難のあるお方です。学園内の全ては自分が支配している。生徒職員関係なく全て私の所有物だ。っと、いった思考回路の持ち主です。
「口調崩れかけてるよ?」
「あぁ? あんたのせいですよね? さっさと失せろください」
「こわーい。じゃあ私は失礼するよ。くれぐれも魔術を使いすぎるんじゃないよ? これ以上は君、壊れちゃうよ~」
「承知の上です」
ヘラヘラと笑いながら去っていく後ろ姿を睨みつける。
学園内の支配体制も相変わらずですね。魔術を行使しただけで居場所と人物を特定するとは。なんと気持ちの悪いことでしょう。一生引きこもって頂きたいものです。
1
お気に入りに追加
54
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる