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一章 10歳

悪役令息は真実を知りたいのです

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「責任取ってください」

 校門を潜って数歩。待ち伏せをしていたらしいルークス公子が言いました。

「はて? 何の責任でしょうか?」

 先日は詳しいお話を聞きそびれてしまいました。なのでちょうど良いと思ったのですが。話の方向性がいまいち分かりません。

「俺のファーストキス奪ったじゃないですか!」

 口を指さし叫ぶルークス公子。想定外の言葉に、私は首を傾げました。

 キスなどした覚えは無いのですが。魔術の話をしているのでしょうか?

「あれは術の発動に必要な工程なのでしたまでです。それに唇では無く口の中に玉を入れただけですよ?」

「なお悪いわッ!」

 別に良いじゃないですか。誰と何回しても大して変わりませんよ。

 私は地団駄を踏むルークス公子の腕を引っ張り学園内へ向かいます。

 今はファーストキスの話などしている暇はありません。第一王子がルークス公子のことを知れば直ぐに取り込もうとするでしょう。あの方の性根の腐り具合は私でもドン引きするレベルです。

 ──子猫ちゃん。

 脳裏に浮かんだ言葉に背筋がゾクリとしました。非常に不愉快です。



「カイアス様。ここは何処ですか?」

 最悪な気分で鳥肌をたてていると、ルークス公子が問いかけてきました。

「ここは防音結界の張られた上位貴族専用の部屋です」

 この学園には名家の血筋の者のみが使える部屋があります。部屋自体は大して大きくは無いのですが、ベッドや机など生活に必要な家具は揃っています。

「密室、防音。まさか俺をッ······」

「くだらないこと言ってると捻り潰しますよ?」

「ひぃっ! 黙ります!」

 怖がるのなら最初から言わないでください。はたから見たら本当に悪役令息みたいではありませんか。

 私は部屋の中央にある椅子に座り。ルークス公子にも向かい合う形で座ってもらいます。

 本来ならば紅茶でも飲みたいところですが、あいにく用意していません。ルークス公子にはバレているのですからお菓子でも持ってくれば良かったですかね。

「あの、一体なんの用が?」

「ッ!」

 ルークス公子の声にビクッと肩が跳ねる。

 私としたことが······ついお菓子に意識を持って行かれてしまいました。最近食べていないので糖分不足に違いありません。

 私は誤魔化すように咳払いをします。

「これから質問をするので正直に答えてください」

「分かりました」

 昨日からずっと考えていました。ルークス公子が覚醒していたとして。予知能力があるにしてはあの反応は可笑しいです。まるで私を見た瞬間に全てを知ったかのような反応でした。

 そしてもうひとつのおかしな点。予知能力はあくまで"未来"を見るものです。私の前者の考えが正しかったとして、何故過去の、それも私以外誰も居ないはずの場面を知っているのか。

「私はあなたの言葉を元に、ある仮説を立てました」

「仮説、ですか?」

「そうです。そして今、この仮説がある程度正しいものだと確信しています」

 私がじっと見つめると、ルークス公子はゴクリと喉を鳴らしました。

「ふふっ」

 思わず笑ってしまいます。面白い展開になってきました。

 どうせ私は毒殺されるまでもなくそう長くは生きられないのです。これに耐えているのに毒如きで死ぬなんて、ほんとに気に入りません。

「ルークス公子。あなたは一体誰ですか?」

「ふぇ? 俺はルークス・ダイ──」

「そっちではありません。中身の方です」

「ッ!? い、一体なんの事ですか? あはは······」

 その反応はもはや肯定では? 自身で前世の記憶がどうのと言っていたではありませんか。今更誤魔化す必要は無いですよね。

 私は腕を前に出しニコリと微笑みました。

「何かを捻り潰したい気分です。何か手頃な獲物があったり──」

「話しますッ! 既視感凄いのでやめてください」

 必死な形相で言うものですから。いい子いい子と頭を撫でてしまいました。

 どうやら悪役令息腹黒大魔王のイメージは払拭されていないようです。頭に置いた手に力が入ってしまうのも仕方の無いことですよね。

「痛いッ! 俺そういう趣味ありません!」

「喜ぶのなら最初からやりませんよ。そんなことよりさっさと答えやがれましょう」

「カイアス様、歪んでます······」

「否定はしません」

 魔術を行使し過ぎたからでしょうか。破壊衝動が凄いです。さっさと会話を終わらせましょう。このままでは学園を消し炭にしてしまうかもしれません。

「もー! 分かりましたよ! 話せばいいんでしょ」

 ルークス公子は姿勢を正し、真剣な表情で話し始めました。
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