私は悪役令息らしいですが、問題は周囲にあると思います。

白鳩 唯斗

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一章 10歳

悪役令息は魔王に興味を持ちました

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「まさか、そんな············」

「すみません。流石にこんなこと知ったらショックですよね······」

 うわ言のように呟く私に、彼は少しだけ居心地が悪そうに言った。

 本当にショックです。今まで国の為、未来の為にと勉強だけをして10年間生きてきました。暗殺者が襲ってきても、魔物の群れに囲まれた時も難なく解決することが出来ました。それなのにまさか、この私がまさか──













「毒如きで亡くなるなんてッ!」

「いやそっちかよ」

「はぁ!? そっちの方が大事でしょう!? 人間なんていつか死ぬんですからどうだっていいんですよ。問題なのはこの私が毒如きで死ぬ事ですよ! 毒ですよ? そんなもの昔から少しずつ含んで耐性つけてますよ!?」

「うえ、激おこモード現実で見ると結構ヤバい。めっちゃ視線集まってますよ」

 少年の言葉にハッとする。そうでした、ここは学園の廊下です。私とした事が何たる醜態を······。周囲に集まった野次馬にお辞儀をし、「劇の稽古中です」とニコリと微笑んで誤魔化します。

「是非私も教えて頂きたいです!」
「あの迫力、さすがカイアス様です」
「わたくしもついつい見入ってしまいました」
「まさに悪役って感じで素晴らしかったです」

 あぁ? それ普通に褒めてないですよね。こっちは本当に悪役になりそうなんですよ。しかも冤罪。とりあえず私は少年の手を引き、空いてる部屋へと足を進めました。詳しい話を聞く必要があります。

 しかし背後から聞こえた声に、私は足を止めざるを得ませんでした。

「おいッ、お前来るのが遅いぞ!」

「あなたが仰ったお時間までまだ数分ありますが? 殿下」

「うるさい! お前が遅いから来たんだ」

「はぁ、そうですか」

 そもそも約束した覚えが無いのですがね。視線の数メートル先で腕を組んで立つ金髪の少年に、わざと聞こえるように大きくため息を吐く。

 第二王子リアム・アデライト殿下。いつも偉そうで威張りっぱなし。私が同年代という理由で教育係と性格矯正を頼まれています。

 相変わらずお元気なことで。一週間牢屋にでも閉じ込めておけば少しは変わるでしょうか。

 リアム殿下は私の隣にいる存在を認識すると、大きな声を上げた。

「あぁ! まさか俺との約束を破ってそいつと一緒に遊ぶ気だな!?」

「いえ、そのような事実はございません。私は殿下と違って遊んでいる暇など無いのです。分かったらさっさと帰りやがれください」

「なっ、貴様無礼だ──」

「貴様?」

「ッ! 違っ、これは······」

 へー、私はいつも注意してるはずなんですがね。リアム殿下の頭は空っぽなのでしょうか。

 私は感情を表に出さないようにニコニコと微笑みます。すると何故か周囲に集まっていた人達がどこかへ消えてしまいました。不思議なこともあるものですね。

「殿下。そんなに後ずさってどうしたのですか?」

「いや、後ずさってなんか······」

「そうですか? もう背後は壁ですから逃げていないのなら良かったです」

 笑みを深くすれば小さな悲鳴が上がる。

 本当、大袈裟な反応は辞めて頂きたいものです。これではまるで私が殿下を虐めているみたいではありませんか。

「お、俺は第二王子だぞ! 早く離れろ!」

「···········それは命令ですか?」

「そ、そうだ。命令だ」

 それでは仕方ないですね。私はリアム殿下を壁と挟む形で立っていたのですが。少し距離をとることにします。

 そこでふと、ねっとりした謎の視線が気になったのでそちらに目を向けてみました。

「んー? うわ、気色悪いですね」

「お前もそう思うか?」

 殿下の問に「はい」と答える。どうやらリアム殿下も同意見のようですね。

 エメラルド少年は何故かこちらを見ながら鼻血を流しています。そして目力が非常に気持ちが悪いです。まるで少年を邪な目で見るおじさんの様です。

「殿下、あの目を潰してきましょうか?」

「お前そういうところだぞ! やめてくれ」

「そうですか、残念です」

「ッ!?」

 さすがに冗談ですからそんな魔王でも見たような顔しないでください。

 あれ、でも確か私は悪役令息腹黒大魔王なんでしたっけ。

 ならばあながち殿下の反応も間違っていないのかもしれませんね。私の将来の職業は宰相では無く魔王に変更ですかねぇ。まぁ、この世界には既に魔王や魔物が居るので私の出番は無いでしょうが。

「将来は魔王補佐ですか······」

「おい、ほんとにやめてくれ」

 つい口から声が出てしまうと、リアム殿下が疲労した様子で言いました。

 結構本気だったのですけど。どうやらリアム殿下的には無しのようです。

「やはり魔王の座は私が奪って──」

「俺が悪かった! もう貴様とか言わないから勘弁してくれ」

「···········魔王の座には多少の興味がありますけど、大変そうなので辞めておきます」

 ──今の所は、ですが。
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