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一章 10歳

私は悪役令息らしいです

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「あ、悪役令息のカイアスぅっ!?」

 学園の廊下を歩いていると、突然背後からそんな叫び声が聞こえてくる。

 私ことカイアス・フェルダンテは公爵令息です。貴族達の通うこの学園で私を呼び捨てに出来る者など少数しかおりません。しかしどうやらその方達とは違うようです。

 振り返ると私を指さすエメラルドの様な瞳の少年と目が合いました。

「ふふっ、私が悪役令息ですか」

 思わず口角が上がってしまいます。

 彼は何かを思い出したかのようにハッとすると、体を180度回転させました。

「逃がしませんよ? 誰が悪役令息なのでしょうか」

「ひぃぃぃ! 腹黒大魔王ッ!」

 悪役令息で腹黒大魔王ですか。私の評価はどうなっているのでしょうか。

 思わず彼の肩を掴む手に力が入ってしまいそうです。

「い゛ぃぃぃったいッ!!! 肩壊れるぅ!!!」

「おや、すみません。あなたが興味深いことを仰ったのでつい」

「ついで肩を破壊されたらたまったもんじゃないッ!」

 涙目で言われてもなんの怖さもありませんね。

 とりあえず私は肩から手を離してあげることにしました。彼は「酷い目にあった······」と呟くとため息をつく。

 ······私も大分酷いことを言われた気がするのですが、どうやらお忘れのようですね。

 私はニコリと微笑みながら彼の顔を片手で包み込みました。

「悪役令息のカイアスとは一体、どこの誰なんでしょうかねえ」

「あ、え、いやそれは言葉のあやというか······」

「言い訳は必要ないのでさっさと答えやがれなさい」

「いぎゃぁぁあああ! 話します! 話しますから離してくださいッ!」

 仕方ないですね。私は耳元で「逃げたら分かってますよね?」と呟き、彼の顔を解放してあげました。

「それで、私のどこが悪役令息なのでしょうか?」

 公爵家の人間として今まで堅実に生きてきたつもりなのですが。悪役令息と呼ばれているなどの噂も聞いたことがありませんし。

 私がじっと見つめていると、彼が大きく息を吸う。深呼吸ですね。

「········実は俺、前世の記憶があるんです。この世界は前世でプレイしていたゲームの世界で、カイアス様のことも知ってます」

 ··········前世の、記憶? ゲーム? 一体何を言ってるんでしょうか。この少年は。

「······人間は首を切られてもしばらくの間意識があると聞きます。試してみますか?」

 首に手をあて横にスパッと切る動作をする。

「ち、ちょっと待ってください! 本当なんですってば!」

「何か証拠はありますか?」

「カイアス様の秘密を知ってます!」

「ほぉ······?」

 新手の詐欺でしょうか? 全員に王子様と付き合えるとか言っているインチキ占い師なら見たことがありますが、さすがに前世の記憶がある方とは会ったことがありませんね。

「カイアス様はみんなに隠しているけど実は甘いものが好きで········んーっ!?」

 おっとぉ? なぜそれを知っているのでしょうか。びっくりして思わず口を塞いでしまいましたよ。完璧と言われる私が甘いもの大好きなどと知れれば、あの方が何か言ってくるに違いありません。

 私はそっと彼の口元から手をどけ、問いかける。

「···········それ、誰にも言ってないですよね?」

「安心してください! 言ってないですよ?! カイアス様が昔に一人で何も無い所で転んだことも、お菓子を食べているのがバレたくなくてこっそり布団の中で食べていたことも、運動が苦手で裏でこっそり練習してたことも、実は負けず嫌いな──」

「もう辞めてください、信じます」

 思わず顔を両手で覆う。知られたくない情報がいっぱい出てきます。

 私の父であるフェルダンテ公爵はこの国、アデライト王国の宰相をしています。私も次期宰相として教育を受けているので、あまり隙を見せる訳にはいかないのです。

「それで、なぜ私が悪役令息になるのでしょうか?」

 仮に私がゲーム?の中の人物だとして、これから何か悪事を働くのでしょうか? 私が悪事を働くなんてストレスが爆発して国を滅ぼす時くらいしか考えられないのですが。

 疑問に思って首を傾げていると、彼が口を開く。

「実は··············カイアス様は冤罪をかけられた挙句毒殺されるんです······」

「な、なんですって!?」

 私は思わず叫びました。
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