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一章
6 想定外①
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僕は基本、一人で居る時は神殿にある書庫で本を読んでいる。内容は色々あるのだけれど、一番最初に手にしたのはこの世界の常識などが分かる本だ。まず、主人公が住む屋敷と宿星の泉がある国はディザイア王国と言う場所で、ゲームで書かれていた通りの国だった。僕は翼のおかげで楽に行き来できているけど、普通の人間だと到達出来ないほど神殿とディザイア王国は離れた位置にある。ちなみに精霊の森はディザイア王国を挟んで神殿の真反対に位置する。
教会に関してはこれもまたゲーム通り【神聖霊教】がこの大陸で一番中心的な宗教だった。僕もゲームでは良くお世話になっていた。聖女フィーナと出会う場所でもあるし、大精霊の加護を得る為のヒントをくれたりする。神聖霊教に対抗する魔王達を崇拝する邪教関連のストーリーもあったし、主人公はこれから色々大変な事になると思う。もしかしたらラスボスミカエラのことも崇拝しているのかもしれない。さすがに崇拝はされたくないんだけど······。まだ数年後の話だから今考えても仕方ないか。
僕の体の変化についても大まか把握できた。重大な変化は主に4つ。一つ目はどんな傷を負っても必ず元通りに再生すること。ただし傷の具合によって治るまでに掛かる時間が違うみたいだ。2つ目は三大欲求が殆ど無くなったこと。お腹は多少は空くけど食べなくても死なないからか気になるほどでは無いし、眠気も寝ようと思わない限り襲ってこない。性欲に関しては、僕元々興味無いからなぁ······。変化がイマイチ分からない。3つ目は完全に人間を辞めたこと。翼は生えるし不死身だし、意識すればどんなに遠くでも見通すことができる。翼を出しておけば自動で攻防してくれるのもチート過ぎるというか······。まぁ、僕は暴力とか苦手だから感謝はしているのだけれど。4つ目は──今も隣に居るのだけど······僕から半径数千キロ範囲にランダムに魔物が生まれてしまうこと。しかも制御出来ないし普通に僕を殺しにくる。人が多いところには生まれないから多分ゲームの狩場的な役割なのかなぁ。あのゲームはちゃんと設定が作り込まれているから、魔物がフィールドに居るのはゲームだからでしょ?って言えないような設定を組み込んだ結果だと思う。多分これもストーリー追加で判明するはずだった事実だろう。もうネタバレを気にしている場合では無いらしい。
「ギャァア゛!!!」
「はいはい。良い子だから大人しくしようね」
本を読んでいると隣に居る青い魔物が暴れだす。多分ワイバーンなんだろうけど、爪を立てて来るから身体中が傷だらけだ。痛覚は普通にあるから痛いんだけど、我慢するしかないか。怒ってるように鳴いているけど僕、何か悪いことをしたかな?
「怒らせたならごめん。神殿は窮屈だろうから外に転移させるよ」
人を襲ってはいけないよ。そう頭を撫でながら邪雲の聖天外に転移させた。竜巻に巻き込まれたら困るからね。僕は読んでた本を置き、少し横になることにした。さすがに同じ傷口を何回も抉られたら疲れる。傷は塞がるけどしばらくの間は痛いんだよね。多分神経とか内側の再生には時間がかかるのだろう。これから主人公に会いに行く予定だから、早めに傷を治したいんだけど。主人公の首も心配だし。
「やっぱり回復魔法使うしかないか。正直あまり使いたく無いんだけ──どッ!?」
あ、頭痛い······。書庫の絨毯をゴロゴロと転がっていたら本棚に頭をぶつけた。腕を切ったよりもこっちの方が痛く感じるのは慣れていたからかな。衝撃でクラクラしながらも立ち上がる。なんだか今日の僕は運が悪い。何も無いと良いんだけど······。
******
もう数十回と宿星の泉を行き来しているからか、意識しなくても自動で飛べるくらいには身に染み付いてしまった。それに、最初の時もそうだけど、どうしても宿星の泉に近寄ることを拒絶してしまう。主人公にも聞いてみたけれど、彼はむしろ落ち着くらしい。緊急時にすぐ駆けつけられないと困るなぁ。頑張って慣れよう。そう少し気合いを入れて、泉に近づいた時だった。主人公ともうひとつの気配を感じ取った。本能的にその存在が人間では無いことが分かる。目を凝らして良く見てみると、主人公に跨る人型の何かが居た。
「んー、なんかこれ不味そうだね。血の匂いもするし?」
ゲームでこんな場面見た覚えはないんだけど。一体何が起きているのか。イベントだったら邪魔したら申し訳ないし、一応死なないように回復魔法を持続的にかけて見守ることにした。跨っている何かが主人公の首元に顔を埋める。僕が見下ろす位置からその顔は見えないけれど、一瞬だけ、キラリと牙のようなものが光ったのが見えた。
「あれ? 人型で牙があって首元に顔を埋めるって··········まさか吸血鬼?」
流石にそんなはずは無いと思うけど。吸血鬼は絶滅寸前の激レアキャラだし。しかも吸血鬼が襲うのは異性のはずじゃ······あれは明らかに男の子だ。考えている間にも主人公と吸血鬼?の距離が縮まっていく。これはまずい。回復魔法は傷は治せるけど血液を増やす効果はない。もし吸血鬼だったら主人公はすっからかんに干からびてしまう。泉は相変わらず気味が悪いけれど、主人公の付近に転移する事で時短した。
はぁ······吐きそう。僕は転移で酔ってしまう体質らしい。口元を抑えつつ、主人公に跨る吸血鬼?の肩を叩いた。びくりと肩が揺れて、赤く鋭い瞳に見つめられる。主人公より濃い赤で瞳の奥には闇がある。肌は白いし血を吸うタイミングだったからか牙も丸出し。昼間に動けることを考えたら、多分上位の吸血鬼。うん、なんか少し心当たりがあるなぁ。とりあえず笑っておこう。
「はじめまして、君は吸血鬼だよね? 血が必要なのは分かるけど──その子はダメだよ」
教会に関してはこれもまたゲーム通り【神聖霊教】がこの大陸で一番中心的な宗教だった。僕もゲームでは良くお世話になっていた。聖女フィーナと出会う場所でもあるし、大精霊の加護を得る為のヒントをくれたりする。神聖霊教に対抗する魔王達を崇拝する邪教関連のストーリーもあったし、主人公はこれから色々大変な事になると思う。もしかしたらラスボスミカエラのことも崇拝しているのかもしれない。さすがに崇拝はされたくないんだけど······。まだ数年後の話だから今考えても仕方ないか。
僕の体の変化についても大まか把握できた。重大な変化は主に4つ。一つ目はどんな傷を負っても必ず元通りに再生すること。ただし傷の具合によって治るまでに掛かる時間が違うみたいだ。2つ目は三大欲求が殆ど無くなったこと。お腹は多少は空くけど食べなくても死なないからか気になるほどでは無いし、眠気も寝ようと思わない限り襲ってこない。性欲に関しては、僕元々興味無いからなぁ······。変化がイマイチ分からない。3つ目は完全に人間を辞めたこと。翼は生えるし不死身だし、意識すればどんなに遠くでも見通すことができる。翼を出しておけば自動で攻防してくれるのもチート過ぎるというか······。まぁ、僕は暴力とか苦手だから感謝はしているのだけれど。4つ目は──今も隣に居るのだけど······僕から半径数千キロ範囲にランダムに魔物が生まれてしまうこと。しかも制御出来ないし普通に僕を殺しにくる。人が多いところには生まれないから多分ゲームの狩場的な役割なのかなぁ。あのゲームはちゃんと設定が作り込まれているから、魔物がフィールドに居るのはゲームだからでしょ?って言えないような設定を組み込んだ結果だと思う。多分これもストーリー追加で判明するはずだった事実だろう。もうネタバレを気にしている場合では無いらしい。
「ギャァア゛!!!」
「はいはい。良い子だから大人しくしようね」
本を読んでいると隣に居る青い魔物が暴れだす。多分ワイバーンなんだろうけど、爪を立てて来るから身体中が傷だらけだ。痛覚は普通にあるから痛いんだけど、我慢するしかないか。怒ってるように鳴いているけど僕、何か悪いことをしたかな?
「怒らせたならごめん。神殿は窮屈だろうから外に転移させるよ」
人を襲ってはいけないよ。そう頭を撫でながら邪雲の聖天外に転移させた。竜巻に巻き込まれたら困るからね。僕は読んでた本を置き、少し横になることにした。さすがに同じ傷口を何回も抉られたら疲れる。傷は塞がるけどしばらくの間は痛いんだよね。多分神経とか内側の再生には時間がかかるのだろう。これから主人公に会いに行く予定だから、早めに傷を治したいんだけど。主人公の首も心配だし。
「やっぱり回復魔法使うしかないか。正直あまり使いたく無いんだけ──どッ!?」
あ、頭痛い······。書庫の絨毯をゴロゴロと転がっていたら本棚に頭をぶつけた。腕を切ったよりもこっちの方が痛く感じるのは慣れていたからかな。衝撃でクラクラしながらも立ち上がる。なんだか今日の僕は運が悪い。何も無いと良いんだけど······。
******
もう数十回と宿星の泉を行き来しているからか、意識しなくても自動で飛べるくらいには身に染み付いてしまった。それに、最初の時もそうだけど、どうしても宿星の泉に近寄ることを拒絶してしまう。主人公にも聞いてみたけれど、彼はむしろ落ち着くらしい。緊急時にすぐ駆けつけられないと困るなぁ。頑張って慣れよう。そう少し気合いを入れて、泉に近づいた時だった。主人公ともうひとつの気配を感じ取った。本能的にその存在が人間では無いことが分かる。目を凝らして良く見てみると、主人公に跨る人型の何かが居た。
「んー、なんかこれ不味そうだね。血の匂いもするし?」
ゲームでこんな場面見た覚えはないんだけど。一体何が起きているのか。イベントだったら邪魔したら申し訳ないし、一応死なないように回復魔法を持続的にかけて見守ることにした。跨っている何かが主人公の首元に顔を埋める。僕が見下ろす位置からその顔は見えないけれど、一瞬だけ、キラリと牙のようなものが光ったのが見えた。
「あれ? 人型で牙があって首元に顔を埋めるって··········まさか吸血鬼?」
流石にそんなはずは無いと思うけど。吸血鬼は絶滅寸前の激レアキャラだし。しかも吸血鬼が襲うのは異性のはずじゃ······あれは明らかに男の子だ。考えている間にも主人公と吸血鬼?の距離が縮まっていく。これはまずい。回復魔法は傷は治せるけど血液を増やす効果はない。もし吸血鬼だったら主人公はすっからかんに干からびてしまう。泉は相変わらず気味が悪いけれど、主人公の付近に転移する事で時短した。
はぁ······吐きそう。僕は転移で酔ってしまう体質らしい。口元を抑えつつ、主人公に跨る吸血鬼?の肩を叩いた。びくりと肩が揺れて、赤く鋭い瞳に見つめられる。主人公より濃い赤で瞳の奥には闇がある。肌は白いし血を吸うタイミングだったからか牙も丸出し。昼間に動けることを考えたら、多分上位の吸血鬼。うん、なんか少し心当たりがあるなぁ。とりあえず笑っておこう。
「はじめまして、君は吸血鬼だよね? 血が必要なのは分かるけど──その子はダメだよ」
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