ラスボスに転生したので、主人公に殺して貰おうと思います

白鳩 唯斗

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一章

4 主人公育成①

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 あれから数日。僕は毎日宿星の泉に足を運んでいた。最初はまた居るよ······みたいな反応をされていたけれど、別に嫌なわけでは無いらしい。積極的に話しかけてくることも無いけどね。お互いただ泉を眺めて居るだけだ。

 主人公は治しても治しても次の日には新しい傷を作ってくる。少しくらい抵抗しても良いと思うんだけどなぁ。そう思い治療しながら聞いてみると「俺はいらない子だから······」と。少しイラッときて説教したのは仕方の無いことだと思う。まぁ、主人公が育った環境を考えれば分からなくは無いんだけど。傷以外にも体がどんどん細くなっていくのも気になる。使用人たちは腐ってるものしか出してくれないらしい。そのせいでお腹の調子も悪いとか。

 そんな訳でまずは健康面をどうにかする事にした。立派な勇者に育って貰わないと困るからね。食料を買うにはお金が必要だと神殿を調べてみると、宝物庫を発見した。大量の金や宝石があちこちに散らばっている。

「これは──討伐時の報酬か」

 見慣れた箱があり開けてみると、見たことの無い本が入っていた。ボスを倒した際に入手出来るレア度の高い武器やアイテムが入った宝箱だ。恐らくこれはラスボスを倒した後に貰える報酬なのだろう。僕の記憶に無い辺り新アイテムで確定だろうね。多分魔導書だと予想し、本に書いてあるはずのタイトルを探す。埃がついていたので払うと、金色の文字でタイトルが書かれていた。

「へぇー『ミカエルの神書』か。聞いたことないな·······」

 ミカエルは確か天使の名前だったはずだ。神書は神様が書いた本だっけか。残念ながら僕はあまり神話には詳しくない。本当は中身を確認したいところだけれど、これは主人公の報酬だからやめておこう。そんな事より今はお金が必要だ。本を置いてそこら中に落ちている硬貨を拾う。

 この世界の通貨はゲーム通りなら1ゴールド=1円。日本の硬貨と同じく金色のコインに数字が書いてある。お札はない代わりにゲームらしく1k、5k、10k、1mと、プラチナ硬貨があるようだ。偽造を防ぐために特殊な魔法がかかっているのが分かる。僕は持てるだけ持って今日もまた宿星の泉へと向かった。


 *******


 空から宿星の泉を見下ろすと、主人公は泉を眺めていた。初めて会った時と同じ様に。もしかしたら水面に反射した自身を見ているのかもしれない。僕は邪魔をしない様にゆっくりと隣に着地した。気配で気が付いたのか隣から声が掛けられる。

「···········今日も来たんですね」
「嫌かい?」
「···········何を話せば良いのか分かりません」
「無理に話す必要も無いさ」

 やっぱり僕がここに来ることは嫌ではないみたいだ。まぁ、嫌だと言われても来るけどね。こんな子供を一人で放置は出来ないし。僕は手に握ったままの硬貨を主人公に差し出した。

「少年。これ君にあげるよ」
「···········こんな大金、受け取れません······」

 数えたら2000万程度あった。お金を持っていれば食事には困らないと思っていたんだけど。主人公は受け取ってくれない。仕方がないので少し意地悪をすることにした。

「じゃあこれ捨てるね」

 硬貨を握ったまま泉の上を浮遊する。手を離せば水の奥底に沈んでいくだろう。本当に落とすつもりは無いけどね。ほらほら~とわざとらしく手を動かせば、主人公が焦った様子で叫んだ。

「ダメですッ··········捨てないでください·········」
「なら貰ってくれる?」
「················俺なんかに、勿体無いです········」

 たったの2000万。遠慮する必要は無いと思うんだけど、この世界の金銭感覚は日本と違うのか? 僕なら一月で使い切っちゃうくらい少ない額なのに。そっぽ向いて断固拒否といった態度の主人公に、思わずため息を吐く。

「君が受け取りたくないなら尊重する。でもね、人に頼るのも大切なことだよ」

 一人で生きていける人間なんて居ないんだから。そう主人公の隣にお金を置く。あとは捨てるか使うか自分で決めるだろう。僕はしたいからしただけ。今まで通り偽善者をやっていくさ。相変わらず綺麗な漆黒の髪を撫でると擦り寄ってきた。ここ数日間で少し心を開いてくれたようだ。

「ありがとうございます·········」

 少し不服そうな顔でお礼を言われた。笑顔で言われた方が嬉しいんだけどな。今は良いかと「どういたしまして」と、微笑んだ。
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