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第一章

闇は常にあなたのそばに

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六話
 お菓子を食べ過ぎた。
 一口食べる毎に殿下がお菓子を手に取り、わんこそばの如く僕の口まで運んでくださった。
 
 最初は抵抗があったものの、食べているうちに慣れてしまい、普通に楽しんでしまった。
 カーマイン様の呆れたような眼差しが、忘れられない。
 僕のせいじゃないんです! 不可抗力です!
 
 もぐもぐと口いっぱいに主張しても、説得力が無いと余計に呆れられたご様子だった。
 カーマイン様も美味しそうに食べてたのに・・・。

 ご帰城の際は殿下とカーマイン様に魔法をお掛けし、門番の方が同じだったので簡単に門を潜れた。

 おふたりは勉学や剣術の稽古などがあると、僕に別れを告げそれぞれ違う場所へ向かわれた。

 僕も身なりを整えて、執務室へ向かう。

 陛下は基本的に、レインハルト殿下の言動を制限することは控えていらっしゃる。
 外出に関しても、もしかしたら既に知っていたのかもしれない。

 お叱りを受ける覚悟で報告書をまとめる。
 闇魔法はとても便利で、魔力を込めたものを自在に動すことが出来る。

 空中に浮かせた紙にペンを走らせ、殿下とカーマイン様の行動を記録する。

 報告書の隅々まで目を通し、間違いがないことを確かめてから大きな扉を二回叩く。

「陛下、ご報告に参りました」
「フィンレーか、入れ」
「失礼いたします」

 扉を開け中へ入り、一礼する。
 まだご執務の最中だったらしく、陛下に促されソファーに腰を下ろす。
 
 執務机に座る陛下は、窓から差し込む太陽の光に当てられ、神秘的な雰囲気を纏っていた。

 キラキラと輝く金色の髪が、書類に目を通すために俯いているため、目元に掛かっている。

 前髪の隙間から蒼い瞳がチラリと僕の方を見た。

 まじまじと見ていたことを知られてしまい、少し気まずくなった。
 咄嗟に視線を足元に下げる。

「私の顔になにか付いているか?」
「いえ、お美しいお姿に感嘆しておりました・・・」

 ご主人様の容姿を僕なんかが評価するなど恐れ多いことだが、事実なのだから仕様がない。
 陛下は間違いなく人類一のご尊顔をお持ちです。
 
「お前は私の顔が好きだよな」
「決してそのようなことは――」
「嫌いなのか?」
「意地悪な質問です・・・・・・」

 お顔の前で手を組まれた陛下が、ニコニコと首を傾げる。
 仕草が殿下とそっくりで、改めておふたりは親子なんだなぁと思った。

 ゆっくりと立ち上がった陛下は、僕の隣に座ると頭を撫でてくださる。
 これが恥ずかしくて、僕はいつも猫になるのだ。

 前世を合わせたらきっと陛下と同い歳くらいなのに、どうしても子供っぽくなってしまう。

 記憶がほとんど無いからなのか、肉体に引っ張られているのかは分からない。

 ふわふわとした感覚に、眠気に誘われる。
 僕は我に返って目を見開くと、すぐさま陛下に報告書を提出した。

「申し訳ございません。殿下とカーマイン様を城下までお連れしてしまいました・・・・・・」

 立ち上がって、90度頭を下げる。
 殿下は自分のせいにしても良いとおっしゃられたが、僕には僕の責務がある。

 僕は殿下とその周囲の方々のお力になるよう、陛下より命じられている。
 護衛の役割も担っている僕が、殿下を危険に晒すようなことがあってはならない。

「いかなる処分もお受けします。ご命令とあらばこの場で処罰を――」
「落ち着け。私はお前に罪を問うつもりは無い」
「しかし・・・・・・」

 跪くために足を折ろうとするも、陛下に腕を掴まれ断念する。
 陛下・・・僕に罪を償う機会をお与えください。
 
「自分のせいでフィンレーが罰を受けたと知ったら、レインハルトの気持ちはどうなる?」
「えっと・・・いつもとお変わり無いのでは・・・?」

 はあ、大きなため息が聞こえた。
 本日二度目の経験に、びくりと身体が反応する。

 なにか間違えたのだろうか?
 僕なんかがどうにかなっても、きっと誰もなんとも思わないはずだ・・・・・・。

 ヒヤリと冷たい感覚が胸に走り、気分が沈む。

 俯いたままぎゅっと両手を握ると、僕の両脇に何かが入ってきた。
 ふわりと、空中に浮く感覚がする。

「へ、陛下っ・・・!?」
「お前に罰を与えられる者などこの皇城には居ない。私とて例外では無いぞ」
「・・・・・・・っ、ですがっ・・・・・・」

 僕を見上げる陛下が、優しい笑みを浮かべられる。
 あまりの眩しさに、自然と薄目になる。

「私達と一緒に居るのは嫌なのか?」
「そのようなことはおっしゃらないでください。陛下と殿下のお役に立つことこそが僕の生き甲斐です」
「ならば、少しは私とレインハルトの意を汲んではくれないだろうか?」
「・・・・・・・・・・・かしこまりました・・・・・・・」
 
 長考の末、どうにか自分を納得させて頷く。
 陛下が許してくださるとおっしゃるならば、僕は家臣としてそれに従うだけだ。
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