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第一章

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五話
「自己管理くらいしっかりしろ。肝心な時に暴走でもされたら迷惑だ」
「申し訳ありません・・・・・・」

 カーマイン様からお叱りを受けてしまい、しゅんと小さくなる。
 魔法使いの暴走がどのようなものかは分からないが、周囲に悪影響を与えるのは確かだ。
 
 闇魔法はゲームではデバフ付与が得意だった。
 もしも魔法が暴走したら、城に居る方々の精神を汚染してしまうかもしれない。

 仮定の未来を想像して、血の気が引く。
 
「カイン。フィンの顔が真っ青だよ?」
「ふんっ・・・自業自得だ」
「あはは、素直じゃないね」

 そっぽを向いたカーマイン様の両頬を、殿下がニコニコしながら左右に引き伸ばす。
 顔を真っ赤にしたカーマイン様が、殿下の手を掴んで払い除けた。

「おい・・・・・・」
「フィンが余計に病んじゃうよ?」
「・・・・・・あいつのメンタルが弱過ぎるんだよ」
「まあ、情緒はいつも不安定だよね」
「殿下!? 僕の精神は健康そのものです!」

 ニコニコと肯定した殿下に、慌てて否定を挟む。
 サラッと病んでる人認定を受け、僕は心に深い傷を負った。
 
「とにかく。フィンは陽の光に当たって、楽しい気持ちにならないと」
「・・・・・・その点は同意だ」
 
 カーマイン様の手を掴んだ殿下が、空いている方の手を僕に差し出してくる。
 皇子様と手を繋ぐなんて、恐れ多いです。
 
 伝えると殿下は『僕たちが迷子になったら大変だよ』と、僕には一番効果的な言葉を口にした。



 この世界で、僕の居場所は皇城だけだ。
 陛下が居なければ、僕は今頃路頭に迷っていた。

 陛下が居る場所こそが僕が居るべき場所であり、外に興味を持ったなんて一度もない。

 一か月前のことを思い出しながら、殿下に腕を引かれ後を着いていく。

 迷いなく進む殿下の様子を見て、城を抜け出したのは今回が初めてでは無いことを知った。
 陛下になんて報告しよう・・・。

 遠い目をしながら思考を巡らせているうちに、目的地に着いていた。
 目の前に広がる光景に、ゴクリと喉が鳴る。

 天井からヒラヒラと落ちてきたそれを掴んで、僕は殿下に差し出した。

「殿下! わたあめが降ってきました!」
「なんだここは・・・。お菓子だらけだな・・・・・・」

 辺りを見渡したカーマイン様が、口元を抑えてうっと唸る。
 殿下は花壇に生えた草を手にすると、そのまま口に運んだ。

「この屋敷は全てお菓子で作られているんだよ」
「これ全部ですか・・・!?」
「うん。ウェンディ伯爵家のご令嬢がお菓子の屋敷に住みたいと強請ったらしくてね。結局、食べきれずに飽きてしまったみたいなんだ」

 それで、僕に献上されたんだよ。
 笑顔で草を摘んでは口元へ運ぶ殿下の姿を、脳が処理することを拒んでいる。
 お菓子なのは分かっているけど、絵面が・・・・・・。

「ほら、口開けて」
「嫌です。僕は食べません」
「は~や~く~」

 グイグイと、唇にお菓子を押し当てられる。
 ほんのりと甘いチョコレートの香りがして、誘惑に負けそうになった。

 殿下から顔を背けて、手のひらを前に出す。

「僕は宮廷魔法使いです。ご主人様のお手を煩わせる訳にはいきません」

 皇子殿下に直接食べさせてもらうなんて、絶対にダメだ。僕のポリシーに反する。
 
 せめて手渡しでお願いします。
 そう伝えると、殿下はニコニコと笑った。

「じゃあ皇子やめようかな。それなら僕はフィンの主人じゃないから問題ないでしょ?」
「僕のせいで皇子様辞めちゃうんですか・・・? 大問題ですよ・・・!?」
「フィンが食べてくれるならやめるのをやめる」
「食べさせることを諦めてください・・・・・・」
「ムリ」

 断固とした意志を感じ、諦めて口を開ける。
 口の中に放り込まれた草は、滑らかな甘いチョコレートで、自然と頬の筋肉が緩んだ。

「美味しいでしょ?」
「おいひぃ・・・です・・・・・・」

 ごくんと飲み込む。
 さっきまで断るつもりだったのに・・・。
 何も無くなった口に寂しさを覚える。

「カーマイン様も召し上がりますか?」
「俺はいい・・・・・・」

 腕を組んで静かに佇むカーマイン様は、僕の方を鋭い目つきで見ていた。
 心做しか、いつもより目が輝いている。

 素直じゃないですね、カーマイン様。
 僕にはお見通しですよ。

 彼は殿下の護衛だからか、大人のように振舞おうとご無理をされているよう見受けられた。
 年相応の一面を見られて、嬉しさのあまり表情筋がだらしなくなる。

「何がそんなに嬉しいんだ?」
「えへへ・・・カーマイン様にも子供らしい一面があると知って、安心しました」
「なっ・・・別に俺はお菓子になんか興味は・・・・・・」
「フィンは"お菓子"なんて一言も言ってないよ。墓穴掘ったね」
「う、うるさい・・・! 笑うなぁっ!」

 カーマイン様はお顔を真っ赤にされた。
 殿下がケラケラと笑う。

 微笑ましい光景を見て、城の外に出るのも悪くないと思えた。
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