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第一部 第二章

四十三話

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 困惑を悟られないよう、エミリオを睨みつける。

 エミリオは俺の腕を掴み一歩踏み込むと、自身の首に刃を当てた。

「おい、何をッ――」

「殿下は噂通り、人を平然と殺すようなお方なんですよね? なぜ動揺しているのですか?」

 ポタポタと、赤い液体がこぼれる。

「俺を殺せば証拠を隠滅出来ます。魔物に襲撃されたと言えば、父も殿下を非難出来ないでしょう」

 俺の腕を握る手に力が込められる。

 先程よりも深く刃が刺さり、出血の量が増える。

 俺は目を見開いて、慌てて剣を投げ捨てた。

「自殺がしたいなら一人でやれッ! これ以上、俺の手を血で染めさせるなッ・・・!」

「ッ・・・!!」

 エミリオの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。

『私は殺せば・・・あなたは助かるわ・・・』

 脳裏に嫌な光景ばかりが浮かぶ。

 真っ白だったドレスも、好きだった庭園の花も、小さな生命も、俺の周りはいつも真っ赤に染まる。

「お前に助けてもらった恩は返す。・・・だが、これ以上俺に構うな」

 剣を拾い鞘に収めて、エミリオに背を向ける。

「このまま皇城へ戻るおつもりですか?」

「皇族が皇城に戻るのは当然のことだ」

「俺はソードマスターです。普通の人間よりも優れた五感を持っています」

「・・・・・・」

「その者が殿下へ発した言葉を聞きました。殿下は皇帝陛下に捨て駒にされたのですよ・・・。もしもこのまま戻れば、殿下は――」

「黙れ。そんなことくらい、分かっている・・・」

 皇城へ戻れば、罰を受ける。

 それが必ずしも"死"だとは限らないが、最低でも死にかけるほどの罰を科されるだろう。

 魔力の源として、四肢を切断され地下に閉じ込められるかもしれない。

「考えがあります。今日のところは、俺の屋敷に泊まっていただけませんか?」

「戯言を・・・公爵が許すはずが無いだろう」

「事情は俺が説明しておきます。殿下の身の安全は、カディエゴの名に懸けて俺が保証致します」

 貴族にとって、家門の名を懸けた誓いは大きな意味を持つ。

 少なくとも、俺の身の安全を保証するという言葉に、偽りは無いだろう。

「長居するつもりは無いからな・・・」

「残ってくださると解釈してもよろしいですか?」

「言わなくとも分かるだろ」

 エミリオに『罪人の身柄を騎士団で預かりたい』と言われ、騎士を投げ渡す。

 今の俺には、最悪の二択しか存在しない。ならば、少しでもマシな方を選んだ方が良いだろう。

「エスコートします」

「必要ない」

 差し出された手を払って、エミリオと共に屋敷へ向かった。
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