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第一部 第二章
三十五話
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魔物の討伐では必ず死者が出る。
今回は俺が表に立ったおかげで、負傷者数名程度の被害で済んだようだ。
「はぁ・・・はぁ、・・・流石にっ、キツイな・・・ッ・・・」
毒が付いた血液を体内に戻した影響で、中毒症状が現れ始めた。
俺は魔術が扱えない代わりに、魔力を自在に操ることが出来る身体の一部を利用して戦う。
大量の魔力を血液に込めて戦うことが殆どで、
鎖を切られたり体内に戻すのが遅れれば、血液の不足で最悪の場合死に至る。
故に戻すしか方法が無かったのだが、魔力を巡らせてもなかなか解毒が進まない。
「殿下!! 大変です!!」
「なんだ、騒がしい・・・」
一人の騎士が馬車の扉を勢いよく開けた。
口元に着いた血液を手の甲で拭って、ギロリと騎士の方を睨みつける。
「カディエゴ公爵家の紋章を掲げた馬車と騎士達がこちらに向かってきています!!」
「チッ・・・次から次へと・・・・・・」
普通なら迎えに来たのだろうと思うところだが、相手がカディエゴとなると話は別だ。
カディエゴ公爵は皇族だからと、特別扱いをするような人ではない。
この状況で騎士を引き連れて来たということは――俺の暗殺が目的か?
わざわざ招待状を送ってきた理由も、戦争の動力源である俺を潰す為なら納得がいく。
魔境の森ならば、魔物に襲われたと死因を偽装するのにも最適だ。
「騎士を全員下げろ。俺が相手をする」
「ハッ!」
よろけそうになる身体を無理やり立たせて、平静を装って馬車から降りる。
ちょうど地に両足を着けたその時、カディエゴ公爵家の紋章がある馬車から人が出てきた。
「!! あの姿は――ッ!!」
先日見たカディエゴ公爵よりも若く、如何にもお人好しそうな優しい笑みを浮かべる白髪の男。
目を見開いてその人物を見ていると、相手も気がついたのか俺を見て慌てた様子で駆け寄ってくる。
「カイル殿下! その血はどうされたのですか!? 何処かにお怪我を・・・!?」
男は目の前まで来ると、俺の服を捲りあげた。
「何をするんだ、貴様ッ・・・!」
剣に手をかけて、後ずさる。
皇族の服を剥ごうとする命知らずには、今まで会ったことがない。
「申し訳ありません。心配のあまりつい・・・身体が勝手に動いてしまいました」
「・・・次は無いと思え」
バクバクと波打つ心臓を無視して、いつも通り皇子を演じる。
俺の記憶が正しければ、こいつは男主人公のエミリオで間違いない。
公爵家の紋章を掲げる白髪の若い男など、エミリオ以外に居ないのだから。
エミリオにひとしきり身体を見つめられ――満足したのか、彼は跪いて俺の手を取った。
「お迎えに上がりました。カイル殿下」
立ち上がったエミリオが、俺の手を引っ張りながら馬車へ向かう。
「外傷は無いようですが、殿下のお身体が心配です。何かあった時に備えて、同乗しましょう」
「待てッ――誰も行くとはっ!」
こんなに強引な性格だったか?
腕を引かれ、流れるような動作でエミリオが乗ってきた馬車に乗せられる。
ニコニコと笑顔で見つめられて、居心地が悪い。
俺はエミリオを無視して、毒の排除を始めた。
魔物の討伐では必ず死者が出る。
今回は俺が表に立ったおかげで、負傷者数名程度の被害で済んだようだ。
「はぁ・・・はぁ、・・・流石にっ、キツイな・・・ッ・・・」
毒が付いた血液を体内に戻した影響で、中毒症状が現れ始めた。
俺は魔術が扱えない代わりに、魔力を自在に操ることが出来る身体の一部を利用して戦う。
大量の魔力を血液に込めて戦うことが殆どで、
鎖を切られたり体内に戻すのが遅れれば、血液の不足で最悪の場合死に至る。
故に戻すしか方法が無かったのだが、魔力を巡らせてもなかなか解毒が進まない。
「殿下!! 大変です!!」
「なんだ、騒がしい・・・」
一人の騎士が馬車の扉を勢いよく開けた。
口元に着いた血液を手の甲で拭って、ギロリと騎士の方を睨みつける。
「カディエゴ公爵家の紋章を掲げた馬車と騎士達がこちらに向かってきています!!」
「チッ・・・次から次へと・・・・・・」
普通なら迎えに来たのだろうと思うところだが、相手がカディエゴとなると話は別だ。
カディエゴ公爵は皇族だからと、特別扱いをするような人ではない。
この状況で騎士を引き連れて来たということは――俺の暗殺が目的か?
わざわざ招待状を送ってきた理由も、戦争の動力源である俺を潰す為なら納得がいく。
魔境の森ならば、魔物に襲われたと死因を偽装するのにも最適だ。
「騎士を全員下げろ。俺が相手をする」
「ハッ!」
よろけそうになる身体を無理やり立たせて、平静を装って馬車から降りる。
ちょうど地に両足を着けたその時、カディエゴ公爵家の紋章がある馬車から人が出てきた。
「!! あの姿は――ッ!!」
先日見たカディエゴ公爵よりも若く、如何にもお人好しそうな優しい笑みを浮かべる白髪の男。
目を見開いてその人物を見ていると、相手も気がついたのか俺を見て慌てた様子で駆け寄ってくる。
「カイル殿下! その血はどうされたのですか!? 何処かにお怪我を・・・!?」
男は目の前まで来ると、俺の服を捲りあげた。
「何をするんだ、貴様ッ・・・!」
剣に手をかけて、後ずさる。
皇族の服を剥ごうとする命知らずには、今まで会ったことがない。
「申し訳ありません。心配のあまりつい・・・身体が勝手に動いてしまいました」
「・・・次は無いと思え」
バクバクと波打つ心臓を無視して、いつも通り皇子を演じる。
俺の記憶が正しければ、こいつは男主人公のエミリオで間違いない。
公爵家の紋章を掲げる白髪の若い男など、エミリオ以外に居ないのだから。
エミリオにひとしきり身体を見つめられ――満足したのか、彼は跪いて俺の手を取った。
「お迎えに上がりました。カイル殿下」
立ち上がったエミリオが、俺の手を引っ張りながら馬車へ向かう。
「外傷は無いようですが、殿下のお身体が心配です。何かあった時に備えて、同乗しましょう」
「待てッ――誰も行くとはっ!」
こんなに強引な性格だったか?
腕を引かれ、流れるような動作でエミリオが乗ってきた馬車に乗せられる。
ニコニコと笑顔で見つめられて、居心地が悪い。
俺はエミリオを無視して、毒の排除を始めた。
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