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第一部 第二章

三十四話

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 ここからが本番だ。

 蜘蛛の魔物には、自分のテリトリーに獲物が掛かるのを待つ習性がある。

 その間は繭で自身を包むことによって、外敵から身を守り、気配を消すのだ。

「死にたくなければ糸に触れるな」

「了解っす」

 この魔物の糸には毒が含まれている。

 攻守共に優れたこの糸は、触れただけで皮膚が溶け体内を犯していく。

 相手の行動を制限しつつ、自分は自由に動き回ることが出来る優れた能力。

 これがドボクグモ――蜘蛛種の支配者の力だ。

「俺が抑える。お前が首を取れ」

「離れても大丈夫なんすか? これ以上能力を使ったら殿下の身が――」

「どちらにせよ、この巣から逃れることは出来ない。さっさとケリを着けるぞ」

「すぐに戻るんで待っててください!」

 ハルトが剣にオーラを纏わせ、器用に糸を避けながら魔物に接近する。

 同時に、侵入者の存在を感知した魔物が、獲物を捕らえようと液糸を吐き始めた。

 血液の量を更に増やし、鎖で糸を防ぐ。

「くっ・・・これ以上は持たないか・・・・・・」

 能力を使いすぎたせいで、口から血が零れる。

 今トドメを刺さなければ、ここで全滅だ。

 ハルトの行動に合わせて、鎖で足場を作りつつ、魔物の行動を制限する。

「ギエエエエエエエェェェ・・・!!」

 オーラを纏った剣は、魔物を守る繭を破り、正確に一体の魔物の頭を切り落とした。

 伴侶が殺されたことに気がついたもう一体が、理性を失い暴れ始める。

「っ・・・やばっ・・・!」

「チッ・・・」

 風圧でバランスを崩したハルトが、蜘蛛の巣の上空へ放り出される。

 瞬時に魔物の頭を切り落とし、鎖を足場にハルトを掴んで地面に着地する。

「お前に任せたのは間違いだったようだな」

「殿下・・・」

 剣に着いた血を払い、ハルトを投げ捨てる。

「周囲を警戒しろ!! まだ残党が残っているかもしれない!! 殿下の安全を確保しろ!」

 ちょうど騎士団の方も魔物を片付けたようだ。

「鎖よ、戻れ」

 鎖を呼び戻して、ゆっくりと身体の中に血液を戻していく。瞬間、全身に痛みが走った。

「ゴホッ・・・、毒か・・・・・・」

「殿下!!」

 口から大量の血を吐くと、ハルトが俺を隠すように抱いて、馬車に乗り込む。

「どうしてあんな無茶をしたんすか! 俺達騎士は殿下を守るためにいるんすよ?! 俺たちを囮にして、殿下だけでも逃げていれば――」

「戦いたいから戦った。ただそれだけの話だ。この程度の毒なら問題ない」

「殿下は俺がどれだけ心配したか、分からないんすか・・・?」

「・・・・・・・・・・」

 表情を歪めるハルトから視線を逸らす。

 この世界に生まれて、純粋に俺を心配する人なんて皇后陛下くらいしか居なかった。

 悪意に囲まれて生きてきたからこそ、ハルトが本心で俺を心配していることが分かる。

「騎士が集まり次第、すぐに出発する」

「・・・・・・分かりました。くれぐれも安静にしてください」

 ハルトは表情を曇らせつつも、俺の命令に従って騎士達の指揮に向かった。
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