35 / 57
第一部 第二章
三十四話
しおりを挟む
34
ここからが本番だ。
蜘蛛の魔物には、自分のテリトリーに獲物が掛かるのを待つ習性がある。
その間は繭で自身を包むことによって、外敵から身を守り、気配を消すのだ。
「死にたくなければ糸に触れるな」
「了解っす」
この魔物の糸には毒が含まれている。
攻守共に優れたこの糸は、触れただけで皮膚が溶け体内を犯していく。
相手の行動を制限しつつ、自分は自由に動き回ることが出来る優れた能力。
これがドボクグモ――蜘蛛種の支配者の力だ。
「俺が抑える。お前が首を取れ」
「離れても大丈夫なんすか? これ以上能力を使ったら殿下の身が――」
「どちらにせよ、この巣から逃れることは出来ない。さっさとケリを着けるぞ」
「すぐに戻るんで待っててください!」
ハルトが剣にオーラを纏わせ、器用に糸を避けながら魔物に接近する。
同時に、侵入者の存在を感知した魔物が、獲物を捕らえようと液糸を吐き始めた。
血液の量を更に増やし、鎖で糸を防ぐ。
「くっ・・・これ以上は持たないか・・・・・・」
能力を使いすぎたせいで、口から血が零れる。
今トドメを刺さなければ、ここで全滅だ。
ハルトの行動に合わせて、鎖で足場を作りつつ、魔物の行動を制限する。
「ギエエエエエエエェェェ・・・!!」
オーラを纏った剣は、魔物を守る繭を破り、正確に一体の魔物の頭を切り落とした。
伴侶が殺されたことに気がついたもう一体が、理性を失い暴れ始める。
「っ・・・やばっ・・・!」
「チッ・・・」
風圧でバランスを崩したハルトが、蜘蛛の巣の上空へ放り出される。
瞬時に魔物の頭を切り落とし、鎖を足場にハルトを掴んで地面に着地する。
「お前に任せたのは間違いだったようだな」
「殿下・・・」
剣に着いた血を払い、ハルトを投げ捨てる。
「周囲を警戒しろ!! まだ残党が残っているかもしれない!! 殿下の安全を確保しろ!」
ちょうど騎士団の方も魔物を片付けたようだ。
「鎖よ、戻れ」
鎖を呼び戻して、ゆっくりと身体の中に血液を戻していく。瞬間、全身に痛みが走った。
「ゴホッ・・・、毒か・・・・・・」
「殿下!!」
口から大量の血を吐くと、ハルトが俺を隠すように抱いて、馬車に乗り込む。
「どうしてあんな無茶をしたんすか! 俺達騎士は殿下を守るためにいるんすよ?! 俺たちを囮にして、殿下だけでも逃げていれば――」
「戦いたいから戦った。ただそれだけの話だ。この程度の毒なら問題ない」
「殿下は俺がどれだけ心配したか、分からないんすか・・・?」
「・・・・・・・・・・」
表情を歪めるハルトから視線を逸らす。
この世界に生まれて、純粋に俺を心配する人なんて皇后陛下くらいしか居なかった。
悪意に囲まれて生きてきたからこそ、ハルトが本心で俺を心配していることが分かる。
「騎士が集まり次第、すぐに出発する」
「・・・・・・分かりました。くれぐれも安静にしてください」
ハルトは表情を曇らせつつも、俺の命令に従って騎士達の指揮に向かった。
ここからが本番だ。
蜘蛛の魔物には、自分のテリトリーに獲物が掛かるのを待つ習性がある。
その間は繭で自身を包むことによって、外敵から身を守り、気配を消すのだ。
「死にたくなければ糸に触れるな」
「了解っす」
この魔物の糸には毒が含まれている。
攻守共に優れたこの糸は、触れただけで皮膚が溶け体内を犯していく。
相手の行動を制限しつつ、自分は自由に動き回ることが出来る優れた能力。
これがドボクグモ――蜘蛛種の支配者の力だ。
「俺が抑える。お前が首を取れ」
「離れても大丈夫なんすか? これ以上能力を使ったら殿下の身が――」
「どちらにせよ、この巣から逃れることは出来ない。さっさとケリを着けるぞ」
「すぐに戻るんで待っててください!」
ハルトが剣にオーラを纏わせ、器用に糸を避けながら魔物に接近する。
同時に、侵入者の存在を感知した魔物が、獲物を捕らえようと液糸を吐き始めた。
血液の量を更に増やし、鎖で糸を防ぐ。
「くっ・・・これ以上は持たないか・・・・・・」
能力を使いすぎたせいで、口から血が零れる。
今トドメを刺さなければ、ここで全滅だ。
ハルトの行動に合わせて、鎖で足場を作りつつ、魔物の行動を制限する。
「ギエエエエエエエェェェ・・・!!」
オーラを纏った剣は、魔物を守る繭を破り、正確に一体の魔物の頭を切り落とした。
伴侶が殺されたことに気がついたもう一体が、理性を失い暴れ始める。
「っ・・・やばっ・・・!」
「チッ・・・」
風圧でバランスを崩したハルトが、蜘蛛の巣の上空へ放り出される。
瞬時に魔物の頭を切り落とし、鎖を足場にハルトを掴んで地面に着地する。
「お前に任せたのは間違いだったようだな」
「殿下・・・」
剣に着いた血を払い、ハルトを投げ捨てる。
「周囲を警戒しろ!! まだ残党が残っているかもしれない!! 殿下の安全を確保しろ!」
ちょうど騎士団の方も魔物を片付けたようだ。
「鎖よ、戻れ」
鎖を呼び戻して、ゆっくりと身体の中に血液を戻していく。瞬間、全身に痛みが走った。
「ゴホッ・・・、毒か・・・・・・」
「殿下!!」
口から大量の血を吐くと、ハルトが俺を隠すように抱いて、馬車に乗り込む。
「どうしてあんな無茶をしたんすか! 俺達騎士は殿下を守るためにいるんすよ?! 俺たちを囮にして、殿下だけでも逃げていれば――」
「戦いたいから戦った。ただそれだけの話だ。この程度の毒なら問題ない」
「殿下は俺がどれだけ心配したか、分からないんすか・・・?」
「・・・・・・・・・・」
表情を歪めるハルトから視線を逸らす。
この世界に生まれて、純粋に俺を心配する人なんて皇后陛下くらいしか居なかった。
悪意に囲まれて生きてきたからこそ、ハルトが本心で俺を心配していることが分かる。
「騎士が集まり次第、すぐに出発する」
「・・・・・・分かりました。くれぐれも安静にしてください」
ハルトは表情を曇らせつつも、俺の命令に従って騎士達の指揮に向かった。
56
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる