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序幕
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五話
あの時はカシウスしか皇位に興味が無いのだと思い、支持を表明したのだが・・・・・・。
謀反を起こしたということは、アルシアンも皇位を狙っていたのかもしれない。
「・・・・・・陛下。皇太子任命に関するお話の前に、お伝えしたいことがございます」
「ふむ・・・申してみよ」
陛下から腕を動かす許可を得て、上半身に身につけているものをすべて外す。
皇太子の任を受けるつもりは無いが、前世のようにカシウスを皇太子に推薦するつもりもない。
本当にアルシアンが皇位を狙っていたのだとすれば、平等に機会を与えるべきだ。
そして、そのためには――皇宮監督官として地位を固めなければならない。
背中に神聖力を集めて、意識を研ぎ澄ます。
「まさか――」
陛下は俺の行動から何かを察したのか、顎を触りながら感心したように笑みを浮かべた。
次の瞬間、俺の背中から大きな光が放たれ――ヒト三人分程の大きさの、銀色の翼が二つ現れた。
「ご報告が遅れ申し訳ございません」
「これほどの翼・・・・・・歴代の皇族の中で、お前がもっともドラゴンに近い存在かもしれない」
五年前の身体で上手くいくか分からなかったが、問題無く出来たようだ。
「陛下が皇太子任命を急ぐ理由は、代理人を必要としているためでしょうか?」
「ああ、身体が言うことを聞かぬからな。しかし、お前が発現したとなれば話は変わる」
いつまでも裸でいる訳にもいかないだろうと、陛下から時間を与えられる。
翼を消して身なりを整えた後、改めて自分の意思を伝える。
「私は皇太子になるつもりはありません」
「なぜだ?」
「皇帝の立場では、私の権能を生かすことが出来ないと判断したためです」
「ふむ・・・余の目には、弟を気にかけているように見えるが・・・・・・」
「そのような理由が無いと言えば嘘になります」
「皇帝の命令を断る理由が、よもや弟に皇位を譲るためだとは・・・余はお前に失望するべきか?」
「弁解の余地もございません」
凄まじい覇気を感じ、深く頭を下げる。
やはり、誰もが納得するような理由がなければお許しいただけないか・・・・・・。
罰するつもりならすぐに処分を言い渡すはずだが・・・・・・なかなかお声がかからない。
俺が皇帝になることで得られる利益と、拒むことによって得られる利益。
そのふたつを天秤に掛け、もっとも合理的な選択をするのが陛下だ。
前世では完全に納得していただくことが出来ずに、少し溝が出来てしまった。
カシウスが執務を俺に任せ、戦争にばかり出向いていたのもその理由のひとつだったが。
今世では同じ状況にならないよう、陛下に己の価値を示さなければ・・・・・・。
「・・・・・・・・・・大公・・・・・・」
「ウィンター大公がどうした?」
思わずポツリと呟いた。
陛下が今頭を悩ませていることがあるとすれば、それは貴族派の貴族達による勢力の拡大だ。
貴族派はエルドレット公爵が筆頭貴族であり、皇帝が即位して以降急速に成長した。
今では元老院の四割を貴族派が掌握している。
それに――彼は皇帝陛下の異母兄弟で、直系では無いが皇位継承権を持っている。
陛下は継承権争いで実の兄弟を殺しその座についたが、エルドレット公爵は成人をしたのにも関わらず権能を覚醒しなかった。
そのため、継承権を奪われエルドレット公爵は先帝から皇籍を除籍された。
除籍後はエルドレットの姓と共に、公爵位を与えられ、領地も持たぬ名ばかりの貴族になった。
しかし、現皇帝陛下が即位し、皇后を迎え俺が生まれた年に権能を覚醒することとなった。
そうして、継承権が与えられたのだ。
皇位を狙っているような素振りは見せていないが、彼がいつ、どう動き出すかは分からない。
故に、陛下は貴族派の勢力を削ぎたいはずだ。
そして、その鍵となるのが、一貫して中立を保ってきたウィンター大公家。
前世で俺の首に剣を突きつけた、あの男だ。
彼を味方に付けることが出来れば、五年後に起こる反逆を阻止できるかもしれない。
皇権もより強固なものとなり、陛下にも利のあるもっとも合理的な提案だ。
あの時はカシウスしか皇位に興味が無いのだと思い、支持を表明したのだが・・・・・・。
謀反を起こしたということは、アルシアンも皇位を狙っていたのかもしれない。
「・・・・・・陛下。皇太子任命に関するお話の前に、お伝えしたいことがございます」
「ふむ・・・申してみよ」
陛下から腕を動かす許可を得て、上半身に身につけているものをすべて外す。
皇太子の任を受けるつもりは無いが、前世のようにカシウスを皇太子に推薦するつもりもない。
本当にアルシアンが皇位を狙っていたのだとすれば、平等に機会を与えるべきだ。
そして、そのためには――皇宮監督官として地位を固めなければならない。
背中に神聖力を集めて、意識を研ぎ澄ます。
「まさか――」
陛下は俺の行動から何かを察したのか、顎を触りながら感心したように笑みを浮かべた。
次の瞬間、俺の背中から大きな光が放たれ――ヒト三人分程の大きさの、銀色の翼が二つ現れた。
「ご報告が遅れ申し訳ございません」
「これほどの翼・・・・・・歴代の皇族の中で、お前がもっともドラゴンに近い存在かもしれない」
五年前の身体で上手くいくか分からなかったが、問題無く出来たようだ。
「陛下が皇太子任命を急ぐ理由は、代理人を必要としているためでしょうか?」
「ああ、身体が言うことを聞かぬからな。しかし、お前が発現したとなれば話は変わる」
いつまでも裸でいる訳にもいかないだろうと、陛下から時間を与えられる。
翼を消して身なりを整えた後、改めて自分の意思を伝える。
「私は皇太子になるつもりはありません」
「なぜだ?」
「皇帝の立場では、私の権能を生かすことが出来ないと判断したためです」
「ふむ・・・余の目には、弟を気にかけているように見えるが・・・・・・」
「そのような理由が無いと言えば嘘になります」
「皇帝の命令を断る理由が、よもや弟に皇位を譲るためだとは・・・余はお前に失望するべきか?」
「弁解の余地もございません」
凄まじい覇気を感じ、深く頭を下げる。
やはり、誰もが納得するような理由がなければお許しいただけないか・・・・・・。
罰するつもりならすぐに処分を言い渡すはずだが・・・・・・なかなかお声がかからない。
俺が皇帝になることで得られる利益と、拒むことによって得られる利益。
そのふたつを天秤に掛け、もっとも合理的な選択をするのが陛下だ。
前世では完全に納得していただくことが出来ずに、少し溝が出来てしまった。
カシウスが執務を俺に任せ、戦争にばかり出向いていたのもその理由のひとつだったが。
今世では同じ状況にならないよう、陛下に己の価値を示さなければ・・・・・・。
「・・・・・・・・・・大公・・・・・・」
「ウィンター大公がどうした?」
思わずポツリと呟いた。
陛下が今頭を悩ませていることがあるとすれば、それは貴族派の貴族達による勢力の拡大だ。
貴族派はエルドレット公爵が筆頭貴族であり、皇帝が即位して以降急速に成長した。
今では元老院の四割を貴族派が掌握している。
それに――彼は皇帝陛下の異母兄弟で、直系では無いが皇位継承権を持っている。
陛下は継承権争いで実の兄弟を殺しその座についたが、エルドレット公爵は成人をしたのにも関わらず権能を覚醒しなかった。
そのため、継承権を奪われエルドレット公爵は先帝から皇籍を除籍された。
除籍後はエルドレットの姓と共に、公爵位を与えられ、領地も持たぬ名ばかりの貴族になった。
しかし、現皇帝陛下が即位し、皇后を迎え俺が生まれた年に権能を覚醒することとなった。
そうして、継承権が与えられたのだ。
皇位を狙っているような素振りは見せていないが、彼がいつ、どう動き出すかは分からない。
故に、陛下は貴族派の勢力を削ぎたいはずだ。
そして、その鍵となるのが、一貫して中立を保ってきたウィンター大公家。
前世で俺の首に剣を突きつけた、あの男だ。
彼を味方に付けることが出来れば、五年後に起こる反逆を阻止できるかもしれない。
皇権もより強固なものとなり、陛下にも利のあるもっとも合理的な提案だ。
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