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おわりとはじまり
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一話
ローウェル帝国。
世界の創造主である女神ロエルの半身、シルバードラゴンの血を継ぐローウェル皇室が統べる国。
ローウェルの血を引く皇族は膨大な神聖力を持って生まれ、成人までに権能を覚醒する。
皇帝の第一子として生まれた俺、ミハエル・ローウェルは天候を操る権能を覚醒した。
そして、覚醒と同時に数十年~数百年に一度現れると云う、龍の特徴も発現した。
「皇督閣下、もうじきカシウス皇太子殿下がご帰還なさるそうです」
「そうか、日時が決まり次第私に報告しろ」
「かしこまりました」
皇帝の執務室。
膨大な量の書類と向き合っていると、侍従長から報告を受ける。
当初の想定よりも早まったが、カシウスがいつも通り戦争に勝利したようだな。
騎士達の帰還の際は、勝利を祝うために祭りが開かれ、国中に活気が溢れる。
皇室の健在と権威が示す絶好の機会だ。
例年通りなら首都全体で祭りが開かれるはずなのだが――しかし、今年は少し事情が異なった。
「例の件の調査はどうなった?」
「申し訳ございません。大貴族が背後に居るということ以外には・・・何も分かりませんでした」
「侍従長の情報網に引っかからないということは――元老院に裏切り者が居るということか」
「おそらくは・・・・・・」
現在帝国では行方不明者が増えており、変死体も見つかっている。
薬物中毒者が街中を徘徊しているという報告も日に日に増え、一日中その処理に追われていた。
首都でこれ程の騒ぎが起きても何も手がかりが掴めないということは、何者かによって隠蔽されている可能性が高いだろう。
皇族に次ぐ権力を持った大貴族を筆頭に、複数の有力貴族が協力しているはずだ・・・。
「そろそろおやすみになった方がよろしいのではありませんか? 陛下もご心配されますよ」
「侍従長が冗談を言うとは驚いたな。陛下が私の心配をされるはずが無いだろう?」
「そんなことはございませんよ。皇督閣下は神の再臨、龍人なのですから」
龍人、か・・・・・・。
俺の父、ローウェル帝国の皇帝陛下が病床に伏してから五年。
龍の特徴を発現した俺は皇宮監督官に任命され、皇帝に次ぐ権力を持っていた。
皇宮監督官は先祖返りした皇族に与えられる地位だ。
発現する特徴は様々だが、俺の場合は龍の翼を背中に生やすことが出来る。
そうした龍の特徴を持った皇族のことを、龍人、または神の再臨と呼ぶ。
龍人はシルバードラゴンと女神に認められた存在とされ、宗教的な側面でも大きな意味を持つ。
俺が皇太子の任を受けていたら、教会と国民から絶大な支持を得られていただろう。
「陛下は私が皇太子の任を拒んだことを、どう思っておられるのだろうな・・・・・・」
俺には二人の弟が居る。
一人は俺と同じく皇帝陛下と皇后陛下の間に生まれた、第二皇子のカシウス・ローウェル。
そしてもう一人が、皇帝陛下と皇妃の間に生まれた、第三皇子アルシアン・ローウェルだ。
アルシアンは比較的大人しく、カシウスは闘いが好きで絶えず戦争に出向いている。
昔からカシウスが皇位を狙っていることを知っていた俺は、自ら継承権を手放した。
皇帝陛下から『皇帝になるつもりはあるか?』と尋ねられたのはちょうど五年前の話だ。
あの時は陛下が倒れ、代理人が必要だった。
皇帝陛下は我がままを許すほど甘いお方ではなかったので、隠していた発現のことを正式に報告し、皇太子の任命を断った。
そして、それ以降俺は皇宮監督官として陛下の代理人を務めている。
「これは老人の独り言なのですが――陛下は昔から好き嫌いがはっきりされているお方です。良くない印象をお持ちなら、態度で示されるはずですよ」
「侍従長が言うなら信じよう。何十年も陛下に仕えているお前が言うのなら確かなんだろう」
『後は私にお任せ下さい』と、侍従長に念を押されて、執務室から出る。
他人を一切信用せず、威厳ある孤高の存在――皇帝陛下が唯一傍に置いている人物。
侍従長――ウィリアム・スノー。
時に皇帝陛下の手となり、時に皇帝陛下の耳となり、口となり、目となる存在。
彼が公式の場に姿を現す時、その言葉と行動は皇帝陛下のご意向そのものだ。
陛下と親子関係にある俺ですら、皇帝陛下のことはよく知らない。
この国で一番陛下のことを知っている人物は、間違いなく侍従長だろう。
ローウェル帝国。
世界の創造主である女神ロエルの半身、シルバードラゴンの血を継ぐローウェル皇室が統べる国。
ローウェルの血を引く皇族は膨大な神聖力を持って生まれ、成人までに権能を覚醒する。
皇帝の第一子として生まれた俺、ミハエル・ローウェルは天候を操る権能を覚醒した。
そして、覚醒と同時に数十年~数百年に一度現れると云う、龍の特徴も発現した。
「皇督閣下、もうじきカシウス皇太子殿下がご帰還なさるそうです」
「そうか、日時が決まり次第私に報告しろ」
「かしこまりました」
皇帝の執務室。
膨大な量の書類と向き合っていると、侍従長から報告を受ける。
当初の想定よりも早まったが、カシウスがいつも通り戦争に勝利したようだな。
騎士達の帰還の際は、勝利を祝うために祭りが開かれ、国中に活気が溢れる。
皇室の健在と権威が示す絶好の機会だ。
例年通りなら首都全体で祭りが開かれるはずなのだが――しかし、今年は少し事情が異なった。
「例の件の調査はどうなった?」
「申し訳ございません。大貴族が背後に居るということ以外には・・・何も分かりませんでした」
「侍従長の情報網に引っかからないということは――元老院に裏切り者が居るということか」
「おそらくは・・・・・・」
現在帝国では行方不明者が増えており、変死体も見つかっている。
薬物中毒者が街中を徘徊しているという報告も日に日に増え、一日中その処理に追われていた。
首都でこれ程の騒ぎが起きても何も手がかりが掴めないということは、何者かによって隠蔽されている可能性が高いだろう。
皇族に次ぐ権力を持った大貴族を筆頭に、複数の有力貴族が協力しているはずだ・・・。
「そろそろおやすみになった方がよろしいのではありませんか? 陛下もご心配されますよ」
「侍従長が冗談を言うとは驚いたな。陛下が私の心配をされるはずが無いだろう?」
「そんなことはございませんよ。皇督閣下は神の再臨、龍人なのですから」
龍人、か・・・・・・。
俺の父、ローウェル帝国の皇帝陛下が病床に伏してから五年。
龍の特徴を発現した俺は皇宮監督官に任命され、皇帝に次ぐ権力を持っていた。
皇宮監督官は先祖返りした皇族に与えられる地位だ。
発現する特徴は様々だが、俺の場合は龍の翼を背中に生やすことが出来る。
そうした龍の特徴を持った皇族のことを、龍人、または神の再臨と呼ぶ。
龍人はシルバードラゴンと女神に認められた存在とされ、宗教的な側面でも大きな意味を持つ。
俺が皇太子の任を受けていたら、教会と国民から絶大な支持を得られていただろう。
「陛下は私が皇太子の任を拒んだことを、どう思っておられるのだろうな・・・・・・」
俺には二人の弟が居る。
一人は俺と同じく皇帝陛下と皇后陛下の間に生まれた、第二皇子のカシウス・ローウェル。
そしてもう一人が、皇帝陛下と皇妃の間に生まれた、第三皇子アルシアン・ローウェルだ。
アルシアンは比較的大人しく、カシウスは闘いが好きで絶えず戦争に出向いている。
昔からカシウスが皇位を狙っていることを知っていた俺は、自ら継承権を手放した。
皇帝陛下から『皇帝になるつもりはあるか?』と尋ねられたのはちょうど五年前の話だ。
あの時は陛下が倒れ、代理人が必要だった。
皇帝陛下は我がままを許すほど甘いお方ではなかったので、隠していた発現のことを正式に報告し、皇太子の任命を断った。
そして、それ以降俺は皇宮監督官として陛下の代理人を務めている。
「これは老人の独り言なのですが――陛下は昔から好き嫌いがはっきりされているお方です。良くない印象をお持ちなら、態度で示されるはずですよ」
「侍従長が言うなら信じよう。何十年も陛下に仕えているお前が言うのなら確かなんだろう」
『後は私にお任せ下さい』と、侍従長に念を押されて、執務室から出る。
他人を一切信用せず、威厳ある孤高の存在――皇帝陛下が唯一傍に置いている人物。
侍従長――ウィリアム・スノー。
時に皇帝陛下の手となり、時に皇帝陛下の耳となり、口となり、目となる存在。
彼が公式の場に姿を現す時、その言葉と行動は皇帝陛下のご意向そのものだ。
陛下と親子関係にある俺ですら、皇帝陛下のことはよく知らない。
この国で一番陛下のことを知っている人物は、間違いなく侍従長だろう。
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