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ポーション監修編
第131話 ポーションの爆売れと提案
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お待たせいたしました…!
あとがきにてお知らせがあります。
---------------------------------------
ストロベリーパフェの調整が終わった翌日、『グルメの家』の定休日のこと。
俺はツキネを肩に乗せ、『薬屋ディーニャ』に向かっていた。
というのもつい先日、『思った以上にポーションが売れている』とディーニャから手紙で伝えられたのだ。
そのため、今度の定休日に追加の味変粉を持っていくことを通達し、こうして向かっているわけである。
「――あれ? 臨休になってるな」
「キュウ?」
ディーニャの店に着いた俺は、入り口に掛けられた札を見る。
粉を渡したらすぐに立ち去るつもりだったのだが、わざわざ店を閉めてくれのだろうか?
申し訳なく思いつつドアをノックすると、バタバタと足音が聞こえてディーニャが顔を出した。
「はいはーい! ……っ! メグルさん! よく来てくれたッス!」
ぱぁっと笑顔を咲かせた彼女は、俺を店に招き入れる。
「臨休の札が掛かってたけど、もしかしてわざわざ閉めてくれたのか? 悪いな」
「いえ、それもあるんスけど、どのみち閉めてたかもというか……」
ディーニャはそう言いながら、店内の商品棚に目を向ける。
知らない薬はいくつか置かれているが、ポーションの瓶は1本も見当たらない。
棚の中央部分には、〝ポーション品切れ中〟と書かれた張り紙があった。
「もう全部売れたのか……?」
「はいッス。ちょうど昨日、最後の粉を使い切ったッス。最初の数日はぼちぼちって感じだったんスけど、手紙を送った辺りから一気にお客さんが増えはじめて……昨日は最終的に200本近くのポーションが売れたッスね」
「200本……とんでもないな」
最初に渡したポーションの粉は合計で約800本分。
一日200本が売れるとなると、4日でなくなってしまう計算だ。
「お客さんを捌くのも大変で……今度接客の子をバイトで雇う予定ッス」
「そうか……大変だな」
「嬉しい悲鳴ってやつッスね」
ディーニャの気持ちはよくわかる。
俺も『グルメの家』で同じような道を通ったからだ。
さすがは美食の都なだけあって、王都民達の食に対するセンサーはすさまじい。
大々的な告知がなくとも、美味しい物の情報は急速に広がっていく。
ディーニャの話を聞いた俺は、リュックから味変粉を取り出して彼女に渡す。
「助かるッス! どれくらいの量があるんスか?」
「大体前の3倍かな。合計で約2400本分。ただ、聞いた感じじゃそれでも長くは持たなさそうだから、すぐに追加分を用意しとくよ」
「ありがとうございます!!」
「いいよいいよ。作るのはそんな手間じゃないし。今日明日中には用意できると思うから、今度の営業終わりにでも取りに来て」
「わかったッス! ひとまず、今回分の粉代を渡しますね」
「了解。あとは特に問題なさそうか?」
「あ、それなんスけど……」
代金の用意をしていたディーニャは、俺の質問に手を止める。
「どうかしたのか?」
「その、美味しいポーションの噂を聞きつけて、冒険者以外のお客さんも結構来てるんスよね。多少なら問題ないんスけど、その割合が増えているというか――」
ディーニャはそう言って、彼女の懸念点を語る。
本来、ポーションというものは、戦いに身を置く冒険者達が使うもの。
もちろん、一般の人間も使うことには使うが、あくまでも救急用であり、常用することはあまりない。
だが、俺が監修したポーションについては、明らかに味目的で買う一般のお客さんが多いと言う。
「なるほど……ポーションを買いたい冒険者の人達に届かなくなるわけか」
「はいッス。有名店が監修したポーションでは割とあるあるなんスけど、ちょっとその割合が多いというか……」
「ふむふむ」
当然、同じポーションなら美味しいに越したことはないが、美味しすぎるのも考え物ということだろう。
ポーションがその辺のドリンクより美味しいとなると、純粋な飲み物として買う人達が出てきてしまう。
「特に、ウチのポーションは効能の高さも特徴なんで、ただの飲み物として買われるのは勿体ないんスよね……値段も高めですし」
「ああ、たしかになぁ」
俺はディーニャの言葉に頷く。
元々、彼女の作るポーションは抜群の効能を誇るものだった。
そこに美味しさが加われば……というのが監修を頼まれた理由であり、味だけを目的に買うのは勿体ない。
「そうだな……たとえば、冒険者の人達に優先で買ってもらえるよう、専用の枠を設けるのはどうだ?」
「そうッスね。それは自分も考えてたッス。他にもたとえば――」
ディーニャは俺の言葉に頷きながら言う。
俺が提案した専用枠の設定の他、1人あたりの購入個数制限等、基本的な対策は考えていたようだ。
相槌を打ちながら聞いていると、ディーニャは「それで……」と俺の目を見る。
「ここからが本題なんスけど……メグルさんの店でもポーション味のドリンクを出したらどうかと思うんス」
「俺の店で?」
「はいッス。粉で味を変えるやり方ってことは、ただの水でも同じ味にできるってことッスよね?」
「可能だな……なるほど、そういうことか」
俺はディーニャの意図を理解する。
「純粋に味だけが目的なら、俺の店で飲めばいいって話だな」
「そういうことッス!」
ディーニャは首を縦に振る。
「もちろん、メグルさん側の都合もあると思うので、無理にとは言いませんけど……」
「いや、そういうことなら協力するよ」
これからさらにポーションの人気が増せば、より冒険者達――それを必要とする人達のもとに商品が届きにくくなる。
そういう状況は俺も望まないし、同じ味の飲み物を出すこと自体は簡単なので、提案を受け入れることにした。
「近いうちに新メニューを追加する予定だったから、それと併せてメニューに追加しようかな」
「ありがとうございます!!」
「全然いいよ。たぶん今週中には準備できると思うから、でき次第手紙を送るよ」
「了解ッス! ウチでも告知しときますね」
「頼んだ。他に決めておくことは――」
それから俺達は、告知のタイミングやドリンクの価格等について相談する。
特に難しい内容でもないので、相談は10分ほどで終わった。
「――パフェと新ドリンクの追加か。また賑やかになりそうだな」
「キュウ♪」
ディーニャの見送りを受けて店を出た俺は、口角を上げながらツキネを撫でる。
「ドリンクもどうせなら粉で作ったやつより美味しくしたいし、帰ったら調整してみるか」
「キュキュ!」
そうして、なるべく早く調整を進めようと、早足で帰路に就くのだった。
-----------------------------
【お知らせ】
『【味覚創造】は万能です』の第3巻が、6月下旬頃に発売予定です。
魚介料理の話と料理決闘の話が収録されています。
細かい加筆も多く、ボリュームもアップしておりますので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
あとがきにてお知らせがあります。
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ストロベリーパフェの調整が終わった翌日、『グルメの家』の定休日のこと。
俺はツキネを肩に乗せ、『薬屋ディーニャ』に向かっていた。
というのもつい先日、『思った以上にポーションが売れている』とディーニャから手紙で伝えられたのだ。
そのため、今度の定休日に追加の味変粉を持っていくことを通達し、こうして向かっているわけである。
「――あれ? 臨休になってるな」
「キュウ?」
ディーニャの店に着いた俺は、入り口に掛けられた札を見る。
粉を渡したらすぐに立ち去るつもりだったのだが、わざわざ店を閉めてくれのだろうか?
申し訳なく思いつつドアをノックすると、バタバタと足音が聞こえてディーニャが顔を出した。
「はいはーい! ……っ! メグルさん! よく来てくれたッス!」
ぱぁっと笑顔を咲かせた彼女は、俺を店に招き入れる。
「臨休の札が掛かってたけど、もしかしてわざわざ閉めてくれたのか? 悪いな」
「いえ、それもあるんスけど、どのみち閉めてたかもというか……」
ディーニャはそう言いながら、店内の商品棚に目を向ける。
知らない薬はいくつか置かれているが、ポーションの瓶は1本も見当たらない。
棚の中央部分には、〝ポーション品切れ中〟と書かれた張り紙があった。
「もう全部売れたのか……?」
「はいッス。ちょうど昨日、最後の粉を使い切ったッス。最初の数日はぼちぼちって感じだったんスけど、手紙を送った辺りから一気にお客さんが増えはじめて……昨日は最終的に200本近くのポーションが売れたッスね」
「200本……とんでもないな」
最初に渡したポーションの粉は合計で約800本分。
一日200本が売れるとなると、4日でなくなってしまう計算だ。
「お客さんを捌くのも大変で……今度接客の子をバイトで雇う予定ッス」
「そうか……大変だな」
「嬉しい悲鳴ってやつッスね」
ディーニャの気持ちはよくわかる。
俺も『グルメの家』で同じような道を通ったからだ。
さすがは美食の都なだけあって、王都民達の食に対するセンサーはすさまじい。
大々的な告知がなくとも、美味しい物の情報は急速に広がっていく。
ディーニャの話を聞いた俺は、リュックから味変粉を取り出して彼女に渡す。
「助かるッス! どれくらいの量があるんスか?」
「大体前の3倍かな。合計で約2400本分。ただ、聞いた感じじゃそれでも長くは持たなさそうだから、すぐに追加分を用意しとくよ」
「ありがとうございます!!」
「いいよいいよ。作るのはそんな手間じゃないし。今日明日中には用意できると思うから、今度の営業終わりにでも取りに来て」
「わかったッス! ひとまず、今回分の粉代を渡しますね」
「了解。あとは特に問題なさそうか?」
「あ、それなんスけど……」
代金の用意をしていたディーニャは、俺の質問に手を止める。
「どうかしたのか?」
「その、美味しいポーションの噂を聞きつけて、冒険者以外のお客さんも結構来てるんスよね。多少なら問題ないんスけど、その割合が増えているというか――」
ディーニャはそう言って、彼女の懸念点を語る。
本来、ポーションというものは、戦いに身を置く冒険者達が使うもの。
もちろん、一般の人間も使うことには使うが、あくまでも救急用であり、常用することはあまりない。
だが、俺が監修したポーションについては、明らかに味目的で買う一般のお客さんが多いと言う。
「なるほど……ポーションを買いたい冒険者の人達に届かなくなるわけか」
「はいッス。有名店が監修したポーションでは割とあるあるなんスけど、ちょっとその割合が多いというか……」
「ふむふむ」
当然、同じポーションなら美味しいに越したことはないが、美味しすぎるのも考え物ということだろう。
ポーションがその辺のドリンクより美味しいとなると、純粋な飲み物として買う人達が出てきてしまう。
「特に、ウチのポーションは効能の高さも特徴なんで、ただの飲み物として買われるのは勿体ないんスよね……値段も高めですし」
「ああ、たしかになぁ」
俺はディーニャの言葉に頷く。
元々、彼女の作るポーションは抜群の効能を誇るものだった。
そこに美味しさが加われば……というのが監修を頼まれた理由であり、味だけを目的に買うのは勿体ない。
「そうだな……たとえば、冒険者の人達に優先で買ってもらえるよう、専用の枠を設けるのはどうだ?」
「そうッスね。それは自分も考えてたッス。他にもたとえば――」
ディーニャは俺の言葉に頷きながら言う。
俺が提案した専用枠の設定の他、1人あたりの購入個数制限等、基本的な対策は考えていたようだ。
相槌を打ちながら聞いていると、ディーニャは「それで……」と俺の目を見る。
「ここからが本題なんスけど……メグルさんの店でもポーション味のドリンクを出したらどうかと思うんス」
「俺の店で?」
「はいッス。粉で味を変えるやり方ってことは、ただの水でも同じ味にできるってことッスよね?」
「可能だな……なるほど、そういうことか」
俺はディーニャの意図を理解する。
「純粋に味だけが目的なら、俺の店で飲めばいいって話だな」
「そういうことッス!」
ディーニャは首を縦に振る。
「もちろん、メグルさん側の都合もあると思うので、無理にとは言いませんけど……」
「いや、そういうことなら協力するよ」
これからさらにポーションの人気が増せば、より冒険者達――それを必要とする人達のもとに商品が届きにくくなる。
そういう状況は俺も望まないし、同じ味の飲み物を出すこと自体は簡単なので、提案を受け入れることにした。
「近いうちに新メニューを追加する予定だったから、それと併せてメニューに追加しようかな」
「ありがとうございます!!」
「全然いいよ。たぶん今週中には準備できると思うから、でき次第手紙を送るよ」
「了解ッス! ウチでも告知しときますね」
「頼んだ。他に決めておくことは――」
それから俺達は、告知のタイミングやドリンクの価格等について相談する。
特に難しい内容でもないので、相談は10分ほどで終わった。
「――パフェと新ドリンクの追加か。また賑やかになりそうだな」
「キュウ♪」
ディーニャの見送りを受けて店を出た俺は、口角を上げながらツキネを撫でる。
「ドリンクもどうせなら粉で作ったやつより美味しくしたいし、帰ったら調整してみるか」
「キュキュ!」
そうして、なるべく早く調整を進めようと、早足で帰路に就くのだった。
-----------------------------
【お知らせ】
『【味覚創造】は万能です』の第3巻が、6月下旬頃に発売予定です。
魚介料理の話と料理決闘の話が収録されています。
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