【味覚創造】は万能です~神様から貰ったチートスキルで異世界一の料理人を目指します~

秋ぶどう

文字の大きさ
上 下
68 / 72
ポーション監修編

第130話 パフェ

しおりを挟む

お待たせいたしました。
--------------------------


『薬屋ディーニャ』で監修ポーションが販売されはじめた翌週。

 俺は寮のキッチンに立ち、新たなレギュラーメニューの最終調整を始めようとしていた。

「フフ。ついにこの時が来た」

 俺の隣でそう呟くのはフルール。

 テンションが上がっているのか、これまでに聞いたことのない笑い方だ。

「そんなに楽しみだったか?」
「ん!」

 フルールはフンスと鼻息を吐く。

 今回の新メニューを聞いて誰よりも喜んでいたのが彼女だった。

「パフェ。至上の料理の一つ」

 フルールはそう言って、キラキラとした目で俺を見る。

 早く味見がしたくて待ちきれないのだろう。

 そう、新たなメニューに考えているのが、フルールお気に入りのデザート『パフェ』。

 彼女と初めて会った際に作った思い出のデザートでもある。

 今でも料理のリクエストを訊くと度々『パフェ』と返ってくるし、その気に入りようは相当だ。

 なぜこのタイミングで『パフェ』を加えるのかというと、フレジェさんの言葉がきっかけとなっている。

 それは先週末のこと。

 砂糖を受け取りに来た彼女が、「そういえば――」とパフェの話を始めたのだ。

 彼女には以前に一度、個人的な新作デザートとしてパフェを提供したことがある。

 その時の味が忘れられず、今でも時折思い出すのだという。

 彼女の話を聞いた俺は最初、『気まぐれ料理』に取り入れることを考えた。

 従業員には何度も出しているメニューだし、ある程度のブラッシュアップも終わっていたからだ。

 しかし冷静に考えた時、『レギュラーメニューでもいいのでは?』と思い直した。

 パフェはデザートメニューを代表する料理の一つ。

 初めて作った時は魔力量とクオリティの問題で見送っていたが、『いずれはメニューに』という思いが頭の片隅にあったのだ。

 フルールの装飾映えもメニュー随一と言えるレベルだし、今は魔力量の問題もない。

 クオリティについても先に述べた通りブラッシュアップが済んでいる。

 さらにはポーションの件が片付き、肩の荷が下りたことも大きい。

 そういった理由が重なり、満を持してパフェを出すことと相成った。

「……よし、やるか!」
「ん!」

 俺は【味覚創造】を発動し、パフェの最終調整に取り掛かる。

 種類はオーソドックスな『ストロベリーパフェ』。

 フルールに初めて出したパフェの種類もこれだった。

 ベース部分は当初と変わらないが、いくつかの要素を追加したり、逆に削ったりしている。

 各要素間のバランスについてはここ一、二日で調整が済んでいるので、あとは後味の残り方を微調整するだけだ。

 さほど複雑な調整ではなく、10分程度で味そのものは完成した。

「さて、ここからはフルールの番だな」
「ん……!」

 フルールが気合いを入れる。

 実のところ、今日のメインは味の調整ではない。

 フルールによるパフェのデザイン決めが本命なのだ。

 いつもは即興でデザインしているフルールだが、パフェについては「少し考えたい」とのことだった。

 彼女にとっても思い入れの強いメニューなので、こだわりたい気持ちもよく分かる。

「……ん、難しい。どのデザインも捨てがたい」

 フルールは俺が生成したパフェの装飾を始めるが、やはり簡単には決まらないようだ。

【デザイン】の重ね掛けで見た目を変えては首を捻り、装飾を繰り返していく。

「今までフルールに出してきたパフェはさっと装飾してただろ? その時は迷わなかったのか?」

 気分転換がてらパフェを食べるフルールに尋ねる。

「ん、あれはその場のインスピレーションに従っただけ。パフェの可能性は無限大……その時ごとにイメージが変わる」
「なるほど。選択肢が多すぎて迷うってことか」
「ん……他の料理と違って完成形が見えにくい」

 フルールは頷きながら言う。

 たしかにパフェは要素が多い分、アレンジの幅広さがとてつもない。

 特にトップのデコレーション部分は何でもありだ。

 ホワイトチョコの部分をティアラのように装飾したり、苺の城のように装飾したり、これまでのフルールデザインもバラエティに富んでいた。

「そうだな……ならいっそのこと、毎回違うデザインにしてみたらどうだ? その時ごとにフルールが感じたインスピレーションに従ってさ」
「……っ!」

『その発想はなかった』という顔をするフルール。

「でも、いいの?」
「別にいいよ。見た目を統一しなきゃってルールはないから」

 現状、同じ料理については同じような装飾を施してもらっているが、それは自然にそうなっているというだけだ。

 実際、フルールの提案でデザインを一新したことは過去にあるし、マイナーチェンジであれば日常的に行われている。

「それに、提供毎にデザインが変わるのって面白いと思うんだよな。むしろプレミア感が出るというか」

 フルールが装飾したパフェはどれも甲乙つけ難い出来映えだ。

 〝外れデザイン〟が出るのであればともかく、彼女においてはそんな心配もない。

「ん……毎回違うデザイン、面白い」

 俺の話を聞いたフルールは、頬を上気させて頷く。

 そんなわけで、『ストロベリーパフェ』のデザイン案が決定した。

「明日からメニューに加えるの?」
「いや、別のパフェも作るつもりだから、その後にしようと思う」

 パフェというのは種類が豊富だ。

『ストロベリーパフェ』は定番の一つだが、他にもたくさんのパフェを従業員達に振舞ってきた。

 なので今回はもう一品――『チョコレートパフェ』もメニューに加える。

『フォンダンショコラ』や『パン・オ・ショコラ』をよく頼むチョコ好きのお客さんも多いので、この機会にチョコ系のメニューを増やしたい。

 また、日替わりジェラートの月替わり版という感じで、『今月のパフェ』の導入も考え中だ。

 メニューが一気に華やかになるし、パフェの調整は勉強になるので俺にとっても有意義である。

「――『チョコレートパフェ』もぼちぼち調整中だから、来週の半ばにはメニューに加えられると思う」
「ん。楽しみ!」
「そうだな」

 パフェがメニューに加われば、スイーツ好きのお客さんの中で話題になることは必至。

 皆の驚く姿を想像しつつ、自然と笑みが浮かぶのだった。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神に愛された子

鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。 家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。 常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった! 平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――! 感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。