上 下
67 / 72
ポーション監修編

第129話 販売開始

しおりを挟む
更新が遅くなりすみません…!
------------------------------------


 翌日の朝、ディーニャにポーションの味が仕上がった旨を伝える手紙を出すと、その日のうちに返信が来た。

『明日(定休日)そちらに行ってもいいか』とのことだったので、俺は了承の旨を記し返信。

 そして迎えた定休日の午後、ディーニャがポーションの試飲にやって来た。

「お休み中にすみませんッス」
「気にしなくていいよ。特にやることもなかったし」

 俺はツキネを肩に乗せながら、ディーニャと店のホールに移動する。

 シェフの気まぐれのストックがずいぶん溜まったことで、実際に急ぎの用事はなかった。

「はい。これが渡されてたポーションね」

 奥のテーブルにディーニャを案内した俺は、6つの瓶をテーブルに置く。

 マナポーション、麻痺治しポーション、解毒ポーションの通常タイプと強力タイプだ。

 前回の別れ際、サンプル用にディーニャから貰ったものだが、既に味は変更済である。

「こないだのライフポーションは二種類の粉で味を変えただろ? この6つもあれと同じ手順で、それぞれ別の粉を加えてある」
「おお! 統一性があっていいッスね! さっそく試飲してもいいですか?」
「どうぞ」

 俺は魔法袋からコップを取り出して、各ポーションを注いでいく。

 ポーションをコップに注ぐというのも変な感覚だが、味を考えればジュースと同じである。

「マナポーションからいただくッスね」

 ディーニャはそう言って、マナポーションをひと口飲む。

「……っ!! 不思議な味ですけど美味いッス!」

 そう言いながら、さらにひと口飲むディーニャ。

「さっぱりしてて飲みやすいッス。何の味なんですか?」
「スポドリ……ほんのりと酸味をきかせたオリジナルのフレーバーだよ。ディーニャが言ったようにさっぱりしてるから、ゴクゴク飲めるだろ?」
「はいッス!」

 ディーニャは笑顔で言うと、次のコップに手を伸ばす。

「シュワシュワバージョンも美味しいっッスね! よりさっぱり感が増して好みッス」

 強力タイプ――炭酸バージョンのスポドリ味も気に入ってくれたようだ。

 ゴクゴクと一気に飲み干し、「ぶはぁ」と豪快に息を吐く。

「次はそうッスね……解毒ポーションを飲んでみるッス!」

 楽しそうにコップを選び、解毒ポーションを飲んだディーニャは、「すごいっ!!」と叫んで目を見開く。

「めちゃくちゃ香り高いッス!! どこかワインに似ているような……」
「ああ。葡萄っていう、ワインの原料に似た果物を使ってるからな」
「そうなんスね!」

 ディーニャは頷きながら解毒ポーションの匂いを嗅ぐ。

 以前ビアから飲ませてもらったことがあるが、この世界でもワインに近しい酒はある。

 原料が葡萄とは違う実で、味や香りにも違いがあるものの、ディーニャが近いと感じるのも道理だ。

 彼女は相当葡萄味が気に入ったらしく、コップに追加の解毒ポーションを注いで飲んでいる。

「ん……! シュワシュワとの相性も抜群ッスね! 普通にジュースとして常備したいッス」
「はは、別にポーションじゃなくても粉で味は変えられるし、個人的に使う分には構わないよ」
「おお! 本当ッスか!? ありがたく使わせてもらうッス!!」

 ディーニャは目を輝かせて言った後、最後のポーション――麻痺治しポーションの試飲に移る。

「あれ? よく見るとこれ、通常タイプにも泡があるッスね」
「それは微炭酸……弱めのシュワシュワを入れてるんだ。フレーバー的にシュワシュワがあったほうが合うかと思ってさ。ちなみに強力タイプのほうには強めのシュワシュワを入れてある」
「なるほど、そんな工夫があるんスね」

 ディーニャは麻痺治しポーションをひと口飲むと、はっと驚いたような顔をする。

「おお! これも面白い味っスね! 美味しいのはもちろんですが、何だか元気が出る味ッス!
た」

 さきほどの葡萄味も気に入っていたようだが、エナドリ味にも同じくらいハマったようだ。

 頬を上気させながら、ゴクゴクと喉を鳴らしている。

「おおお! こっちの強めのシュワシュワもいいっスね! 飲めば飲むほど病み付きになるッス!!」

 ディーニャは強力タイプの麻痺治しポーションを完飲し、瓶に余った他のポーションも残らず空にしていく。

 一つ一つの瓶が小さめとはいえ、合計で1リットル以上はありそうだ。

 全てのポーションを飲み干したディーニャは、腹を抱えて天井を仰ぐ。

「……満腹ッス」
「まあまあな量だったからな。無理に飲まなくてもよかったのに」
「どれも美味しくてつい」
「はは。というか、そんなにポーションを飲んで大丈夫なのか?」
「これくらいなら問題ないッス。ポーションの種類にもよるッスけど。それにウチのポーションは中毒性が低いッスから」

 腹をさすりながら言うディーニャ。

 以前、ポーションの飲みすぎは中毒の恐れがあると聞いたが、種類によって中毒性が違うようだ。

「それならよかったよ。味のほうは大丈夫そうか?」
「はい!! 完璧な仕上がりッス! どれも最高に美味しくしてくれて感謝ッス!」

 ディーニャは満面の笑みで親指を立てる。

「そんなわけで、準備が出来次第販売していきたいんスけど――」

 それから俺達は、『グルメの家監修ポーション』の販売について相談する。

 主なポイントは監修料と販売開始時期だ。

 まずは前者について、本来の監修スタイルであればレシピそのものを一括で売るのが主流だが、俺の場合はレシピではなく粉を納入することになる。

 納入は定期的に行っていくため、その際に支払ってもらうお金を監修料と見なすことにした。

 要は単に粉を売るだけなので、料理人ギルドに行っている砂糖の定期納入と変わらない。

 また販売開始時期については、一週間~二週間後ということになった。

 粉の用意自体は数日もあれば可能だが、監修の印として『グルメの家』のロゴを用意してほしいと言われたのだ。

『薬屋ディーニャ』のロゴと並べて、ポーションの瓶に刻むらしい。

 ロゴを刻む作業は瓶の発注先である工房に頼むため、その作業期間を考慮する必要がある。

「グルメの家のロゴは何かあるんスか?」
「ロゴねぇ。別に決まったロゴがあるわけじゃ……いや、待てよ」

 俺はそう言って、魔法袋をごそごそ漁る。

「たしかここに予備が…………あったあった」
「それは?」
「テイクアウトのドリンク用に使ってるタンブラーだよ」

 そう、取り出したのはテイクアウト用の蓋付きタンブラー。

 店のロゴとしてフルールがデザインしたツキネのシルエットを入れているのだが、これがなかなか好評だった。

 タンブラーの返却による返金システムがあるにもかかわらず、返却せずに自宅用として使うお客さんが多数いるようなのだ。

 俺としても気に入っているロゴデザインなので、ポーションのロゴにもぜひ使いたい。

 タンブラーをディーニャに渡すと、彼女も「いいロゴッスね!」と褒めてくれた。

「このタンブラー、借りても大丈夫ッスか? ロゴのサンプルとして工房に持っていきたいんスけど……」
「オーケー。店にいくらでも予備はあるから、渡しちゃっても全然いいよ」
「了解ッス! この後工房に持っていきますね!」
「ありがとう。頼んだ」

 ディーニャにタンブラーを渡し、必要な相談は全て終わった。

 数日中に味変粉を納入することを約束した俺は、工房に行くという彼女を見送る。

 そして三日後の営業終わり、生成した各種の粉を約束通り持っていった。

 初回分は様子見ということで、ライフポーションとマナポーションの粉を約150本分×2タイプ(通常&強力)、麻痺治しポーションと解毒ポーションの粉を約50本分×2タイプ用意した。

 売上の調子が良ければ、今後はもっと大量の粉を納入する予定だ。

 工房による瓶のロゴ入れも順調に進んでいるようで、一週間以内に瓶が届くだろうとのこと。

 サンプルとしてロゴ入れ済みの瓶を見せてもらったが、タンブラーのロゴが完璧に再現され、お洒落な感じになっていた。

 そうして、あとはディーニャの下に瓶が届くのを待つのみとなり、ちょうど一週間が経った時。

『グルメの家監修ポーション』の販売が開始されたと、ディーニャからの報せが届いた。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう
ファンタジー
 ・渓谷の翼竜  竜に転生した。  最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。    ・渡り鳥と竜使い  異世界転生した僕は、凡人だった。  膨大な魔力とか、チートスキルもない──  そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。  ・一番最初の反逆者  悪徳貴族のおっさんに転生した俺は、スキルを駆使して死を回避する。  前世の記憶を思い出した。  どうやら俺は、異世界に転生していたらしい。  だが、なんということだ。  俺が転生していたのは、デリル・グレイゴールという名の悪徳貴族だった。  しかも年齢は、四十六歳──  才能に恵まれずに、努力もせず、人望もない。    俺には転生特典の、スキルポイント以外何もない。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪
ファンタジー
HOT最高は12位? 以上 ですがお気に入りは付かない作風です ある日突然、異世界の草原で目を覚ました主人公。 記憶無し。食べ物無し。700km圏内に村も無し。 無いもの尽くしの不幸に見舞われた主人公には、名前もまだ無い。 急な災難に巻き込まれた少年が、出会う人々の優しさにより。 少しずつ異世界へと馴染み、やがて、現代日本の農業とグルメ。近代知識を生かして人生を歩む話。 皮肉家だが、根はやさしい少年が、恩人から受けた恩をこの世界へ返してゆく *ステータスは開示されず、向いた職業の啓示を受ける世界です

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。