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ポーション監修編
第120話 ディーニャの悩み
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皆様、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
※前話の最後、『薬屋』の部分を『薬師』に変更しています。
-------------------------------------------------------------
「薬師?」
「はいッス! 二区にある『薬屋ディーニャ』の店主をやってるッス」
ディーニャさんはそう言うと、ポーチから一枚のカードを取り出す。
薬師という文字の横に、彼女の名前が刻まれているものだ。
左上には、薬師ギルドと書かれたマークがある。
「ん? この一級というのは……?」
「薬師の階級ッス。一級は上から二番目っスね」
ディーニャさんはそう言って、薬師の階級を説明してくれる。
薬師見習いとも呼ばれる七級から、調合できるポーションのレベル、実績に応じて階級が上がっていくらしい。
数字が若いほど階級も上がるが、一級の上には特級と呼ばれる最高位の階級がある。
冒険者ランクでいうところのSランクに相当するんだとか。
「へえ。しかし、一級なんてすごいですね」
自分の店も持っているようだし、かなり優秀なことが窺える。
「そんな……自分なんてまだまだッスよ」
褒めたつもりだったのだが、ディーニャさんは俯きがちにぼそりと言う。
さきほどまでの明るさとは一転、なんだかしょんぼりした様子だ。
「ポーションの効き目には自信があるんスけど……どれも味が悪くて……」
それから彼女は、ここを訪ねてきた経緯を語り出す。
なんでも、彼女の作るポーションはどれも控えめに言って『激マズ』らしい。
その分効き目は抜群で、薬としての価値は高いのだが、この国のポーションは味の良さも重視される。
一部冒険者達からの需要で経営は成り立っているものの、味の問題で思うようには売れてくれない。
「自分での改良にも限界があるので、有名な料理人に依頼も出してみたんスけど……」
ポーションの味の改良依頼。
この国、特に王都では一般的な依頼だとのことだ。
たしかに、俺が転生して間もなかった頃、似たようなことをビアから聞いた記憶がある。
薬屋はポーションの味もこだわっており、料理人が監修したポーションもあると言っていた。
ただ、ディーニャさんの場合は、ポーションそのものの味が強すぎてどうにもならなかったということだ。
ポーション監修で定評のある料理人にも依頼を出したそうだが、一口味見した段階で無理だと謝られたらしい。
「なるほど……それで俺のところに?」
「はいッス。正直諦めかけてたところに、『グルメの家』の噂を聞いたんス」
「噂?」
「ドリンクバーの噂ッス。ボタンを押しただけでドリンクが出る面白い装置があって、ドリンクも文句なしの絶品。オリジナルドリンクも個性的で、リピート客が続出中、と」
だんだんノッてきたのか、ディーニャさんの声に熱が入る。
「『グルメの家』の存在自体は前から知っていたので、自分も飲みに行ったんス。そしたら――」
ドリンクバーでサイダーと林檎ジュースを頼んだ彼女は、それらの味に感動。
「あれだけのオリジナリティとクオリティ。この店ならもしかしたら……と思ったんス。それで、居ても立っても居られなくなって……」
「なるほどなぁ」
彼女がここにやってきた理由は理解した。
「も、もちろん! 依頼料の一部は先払いで払うッス! 時間がある時で大丈夫ッスから、少しずつやってもらえればそれで……!」
腕を組んだ俺に断られると思ったのか、ぶんぶんと手を横に振るディーニャさん。
「そうですね……やれるだけならやってみますが……」
「本当ッスか!?」
「ええ。ただ、上手くいくかはわかりません」
【味覚創造】がある分、他の料理人より有利なことはたしかだが、監修に慣れた人でも匙を投げるようなポーションだ。
それに俺は、ポーションの製法にも詳しくない。
味の調整も料理とは勝手が違うだろうしな。
「全然っ、それでもありがたいッス! そしたら、自分のポーションなんスけど……」
ディーニャさんはそう言って、ポーチをゴソゴソ漁りはじめる。
「味見用に数種類分……あれぇ? おかしいッスね……なら、こっちの袋の中に……」
ディーニャさんの額にうっすらと汗が浮かび、次第に汗の量が増えていく。
「………………」
必死にポーチを漁る彼女を待つこと約一分。
「あ、あはは……すみません。全部店に忘れてきたみたいッス」
ディーニャさんはいわゆるドジっ娘というやつなのかもしれない。
「はは、大丈夫ですよ」
俺はそう言って、頭を下げる彼女をなだめる。
「そうだ。もしよかったら、俺がディーニャさんの店に行きましょうか?」
新メニューの調整は緊急ではないし、ポーションの監修にも少し興味がある。
「え! いいんスか!?」
俺の提案は「ぜひに!!」と力強く受け入れられ、ディーニャさんの店に行くことになった。
本年もよろしくお願いいたします。
※前話の最後、『薬屋』の部分を『薬師』に変更しています。
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「薬師?」
「はいッス! 二区にある『薬屋ディーニャ』の店主をやってるッス」
ディーニャさんはそう言うと、ポーチから一枚のカードを取り出す。
薬師という文字の横に、彼女の名前が刻まれているものだ。
左上には、薬師ギルドと書かれたマークがある。
「ん? この一級というのは……?」
「薬師の階級ッス。一級は上から二番目っスね」
ディーニャさんはそう言って、薬師の階級を説明してくれる。
薬師見習いとも呼ばれる七級から、調合できるポーションのレベル、実績に応じて階級が上がっていくらしい。
数字が若いほど階級も上がるが、一級の上には特級と呼ばれる最高位の階級がある。
冒険者ランクでいうところのSランクに相当するんだとか。
「へえ。しかし、一級なんてすごいですね」
自分の店も持っているようだし、かなり優秀なことが窺える。
「そんな……自分なんてまだまだッスよ」
褒めたつもりだったのだが、ディーニャさんは俯きがちにぼそりと言う。
さきほどまでの明るさとは一転、なんだかしょんぼりした様子だ。
「ポーションの効き目には自信があるんスけど……どれも味が悪くて……」
それから彼女は、ここを訪ねてきた経緯を語り出す。
なんでも、彼女の作るポーションはどれも控えめに言って『激マズ』らしい。
その分効き目は抜群で、薬としての価値は高いのだが、この国のポーションは味の良さも重視される。
一部冒険者達からの需要で経営は成り立っているものの、味の問題で思うようには売れてくれない。
「自分での改良にも限界があるので、有名な料理人に依頼も出してみたんスけど……」
ポーションの味の改良依頼。
この国、特に王都では一般的な依頼だとのことだ。
たしかに、俺が転生して間もなかった頃、似たようなことをビアから聞いた記憶がある。
薬屋はポーションの味もこだわっており、料理人が監修したポーションもあると言っていた。
ただ、ディーニャさんの場合は、ポーションそのものの味が強すぎてどうにもならなかったということだ。
ポーション監修で定評のある料理人にも依頼を出したそうだが、一口味見した段階で無理だと謝られたらしい。
「なるほど……それで俺のところに?」
「はいッス。正直諦めかけてたところに、『グルメの家』の噂を聞いたんス」
「噂?」
「ドリンクバーの噂ッス。ボタンを押しただけでドリンクが出る面白い装置があって、ドリンクも文句なしの絶品。オリジナルドリンクも個性的で、リピート客が続出中、と」
だんだんノッてきたのか、ディーニャさんの声に熱が入る。
「『グルメの家』の存在自体は前から知っていたので、自分も飲みに行ったんス。そしたら――」
ドリンクバーでサイダーと林檎ジュースを頼んだ彼女は、それらの味に感動。
「あれだけのオリジナリティとクオリティ。この店ならもしかしたら……と思ったんス。それで、居ても立っても居られなくなって……」
「なるほどなぁ」
彼女がここにやってきた理由は理解した。
「も、もちろん! 依頼料の一部は先払いで払うッス! 時間がある時で大丈夫ッスから、少しずつやってもらえればそれで……!」
腕を組んだ俺に断られると思ったのか、ぶんぶんと手を横に振るディーニャさん。
「そうですね……やれるだけならやってみますが……」
「本当ッスか!?」
「ええ。ただ、上手くいくかはわかりません」
【味覚創造】がある分、他の料理人より有利なことはたしかだが、監修に慣れた人でも匙を投げるようなポーションだ。
それに俺は、ポーションの製法にも詳しくない。
味の調整も料理とは勝手が違うだろうしな。
「全然っ、それでもありがたいッス! そしたら、自分のポーションなんスけど……」
ディーニャさんはそう言って、ポーチをゴソゴソ漁りはじめる。
「味見用に数種類分……あれぇ? おかしいッスね……なら、こっちの袋の中に……」
ディーニャさんの額にうっすらと汗が浮かび、次第に汗の量が増えていく。
「………………」
必死にポーチを漁る彼女を待つこと約一分。
「あ、あはは……すみません。全部店に忘れてきたみたいッス」
ディーニャさんはいわゆるドジっ娘というやつなのかもしれない。
「はは、大丈夫ですよ」
俺はそう言って、頭を下げる彼女をなだめる。
「そうだ。もしよかったら、俺がディーニャさんの店に行きましょうか?」
新メニューの調整は緊急ではないし、ポーションの監修にも少し興味がある。
「え! いいんスか!?」
俺の提案は「ぜひに!!」と力強く受け入れられ、ディーニャさんの店に行くことになった。
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