上 下
56 / 72
ポーション監修編

第118話 新作パスタと弟子の成長

しおりを挟む
 ライセンス収入の契約を結んでから約一週間。

 パン・オ・ショコラやドリンクバーのおかげでテイクアウトは順調そのものだ。

 初めはドリンクバーの使い方を知らない人も多く、テイクアウトの回転率が少し落ちてしまっていたが、そちらも現在は以前の水準に近づいていた。

 使い方を覚えたリピート客が増えたのもあるし、初来店の人も事前知識を仕入れていたり、列のお客さんから教えてもらっていたりする。

 お客さん達としても、回転率は高いほうがいいということだろう。

 積極的に情報交換をしてくれるので、こちらとしてもかなり助かる。

 また、ちょうど今週、テイクアウトの列に並ぶお客さん用に、持ち運べるメニュー表を作成した。

 メニュー表の大きさは、持ちやすいA5サイズ前後。

 強度の向上と防水のため、この世界におけるラミネート加工的な魔法をかけている。

 日本の店でも並んでいる時にメニューをくれるところがあったが、あれと同じだと思ってもらえればいい。

 窓口の前でメニュー決めに悩む時間が減ると、お客さん達からは好評の声をいただいている。

 さらに、メニューの裏面にはドリンクバーのシステムと使い方を記載。

 列の前後に教えられる人がいない場合でも、事前にシステムを理解できるようにした。

 そんなこんなで、テイクアウトの営業はかなり安定したと言える。

 しばらくは今のやり方を続けていき、時折新メニューを加える形になるだろう。

 一方、店内飲食のほうでも、今週から新メニューを追加した。

『ボロネーゼ』と『魚介のトマトクリームパスタ』の二品である。

 ボロネーゼは前々から少しずつ調整していたので、ほとんど最後の微調整のみで理想の味に仕上がった。

 そして、もう一品の『魚介のトマトクリームパスタ』は、ボロネーゼの調整に付随して出来た料理。

 魚介メニュー作りの一環として昼休憩に出したところ、予想以上に反応が良かったのだ。

 メニュー全体に占めるパスタの割合は増えるものの、どのパスタもそれぞれ独自の個性がある。

 従業員の皆とも相談し、三品までならば問題ないという結論になった。

「――どっちも人気みたいで安心したよ」

 午後の休憩中、皆に言いながら口角を上げる俺。

 ボロネーゼと魚介のトマトクリームパスタは、追加初日から大好評を博している。

 特に後者は全体で二品目の魚介系メニューのため、一部の熱狂的な魚介ファン達が歓喜の声を上げていた。

 魚介の旨味がストレートに爆発するパエリアと異なり、トマトクリームパスタの魅力はまろやかな魚介の旨味。

 クリーミーなソースに海の幸の出汁が溶け込み、奇跡的なまでの一体感を生み出している。

「魔力量も鰻登りに増えてるし……この勢いでもう二、三品メニューを増やしてもいいかもな」

 メニューのバラエティもずいぶん増えてきたが、スキルの【作成済みリスト】にはその何十倍もの料理が登録されている。

 まだ作ったことのない料理もあるし、新メニューの可能性は無限大だ。

「クービスの料理も、限定メニューとして出してみるか?」

 俺は隣で昼食をとるクービスに話しかける。

 最近では二、三日に一度、常連のお客さん相手にクービス作の改良版レムル――異世界風オムレツを試作料理として出しているが、概ね反応は好意的だ。

 限定的な『弟子の料理枠』という形にはなるだろうが、クービスが望むならメニューに加えてもいいと思う。

「いえ、さすがにそれは恐れ多いです。俺の料理はまだ師匠の料理に程遠いので」

 しかし、クービスはそう言って首を横に振る。

「そうか」
「ええ。限定的な形であれ、この店の料理としてお金を取るにはまだ早いです。それに……」

 クービスは笑いながら言う。

「今度は師匠の世界の料理にも挑戦しようと思っているんです。何にするかはまだ決めていませんが……今は店で料理を出してもらうよりも、自分の技術を磨くことが大切ですから」
「わかった。何か気になる料理があれば言ってくれ。できる範囲でアドバイスするからさ」
「ありがとうございます」

 そう言って頭を下げるクービス。

 彼にも俺の弟子として思うところがあるようだ。

 いずれにせよ、今は料理の試作を楽しんでいるようなので、のびのびと頑張ってもらいたい。

「クービス、頑張ってね!」
「ん。期待してる」
「キュ」

 俺達の会話を聞いていたビア達が、応援するように言う。

 ツキネの鳴き声は、「精進するように」といった感じだ。

 ほんと、クービスも変わったよなぁ。

 師匠として役に立てているかはわからないが、なんとなく弟子の成長のようなものを感じ、しみじみとした気持ちになる。

 彼のこれからの躍進に期待しつつ、後半の営業に備えるのだった。



-----------------------------------------------
この場をお借りして、ちょっとしたお知らせをば。
本小説の第二巻が、2023年1月下旬に刊行予定となっています。
詳細については追ってご報告いたしますので、楽しみにお待ちいただければ幸いです。
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。