55 / 72
ポーション監修編
第117話 ライセンス収入
しおりを挟む
『グルメの家』でドリンクバーを導入してから、約二週間が経過した。
「店長、ディッシュさんという方が来ているのですが……」
営業を終え、キッチンの片付けをしていると、ホール掃除をしていたラテがやってくる。
「ディッシュさんが?」
「はい。ドリンクバーの機械について、ちょっとした話があるとのことです」
「了解。すぐに行くよ」
ディッシュさんは、ドリンクバーの装置を作ってくれた凄腕の魔道具職人。
わざわざ店にやってくるとは、一体どうしたんだろう?
ビア達に片付けを任せた俺は、早足で厨房の外に出る。
「――ディッシュさん、お待たせしました」
「いえいえ。お久しぶりです、メグルさん」
テーブル席に座っていたディッシュさんは、俺を見ると立ち上がって一礼する。
「急にお邪魔してしまいすみません。お時間は大丈夫でしょうか?」
「はい、全然大丈夫ですよ」
簡単な挨拶を済ませた俺達は、向かい合う形で着席する。
「それで、今日はどのようなご用向きで?」
「ええ、実は……先日作製したドリンクバー装置について、数件のレストランから私の工房に問い合わせが来ておりまして」
「ディッシュさんの工房に問い合わせが? ああ、もしかして……」
俺はそう言って、ポンと手を叩く。
ドリンクバー装置の仕入れ先について何度か質問を受けたと、カフィ達から聞いていたのだ。
ディッシュさんからも工房名は伝えていいと言われていたので、カフィ達から話を聞いた人達が問い合わせたのだろう。
「その、問い合わせというのは……?」
「装置の作製依頼です。ぜひ自分のレストランでも使いたい、と」
「なるほど」
「ただ、近々大きな仕事が入る予定でして、私のほうで対応するのが少し難しいんです」
ディッシュさんは首を横に振ると、「そこで」と話を続ける。
「先日描いたドリンクバー装置の設計図を、商人ギルドに売ってはどうかと思いまして」
「設計図を売るんですか?」
「ええ。そうすれば、私が対応できない分の装置を他の工房に任せられます。とはいえ、あの装置の発案者はメグルさんですからね。メグルさんが嫌と言えば無理には売りません」
「いえ、売っても大丈夫ですよ。問い合わせが多いと、ディッシュさんの負担になっちゃいますし」
「ありがとうございます」
「いえいえ。むしろ、わざわざ伝えに来てくれてありがとうございます」
正直、装置の設計は全てディッシュさん頼みだったし、設計図の取り扱いに口を挟む気は毛頭ない。
律義な人だなと笑っていると、「勝手には売れませんよ」とディッシュさんは苦笑する。
「メグルさんのアイディアなしには生まれなかった装置です。アイディア料として、メグルさんの取り分もあります」
「そんな、悪いですよ……」
アイディアと言っても、本当は俺が考えたわけじゃないし。
なんだか申し訳ない気持ちになるが、「貰ってください」と言うディッシュさんの真っすぐな目にしぶしぶ頷く。
「では、このままギルドに向かいますが、メグルさんも同行できそうですか? アイディア料の話等、メグルさんに関係する話もあるので」
「わかりました。同行します」
俺はそう答えると、席を立ったディッシュさんと共に商人ギルドへ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
それからおよそ二十分後。
商人ギルドに着いた俺達は、さっそく職員と話を進めていく。
話を進めるといっても、俺は傍らで話を聞くだけで、この手のやり取りに慣れているというディッシュさんに任せっきりだ。
何から何まで申し訳ない限りなので、あとで何かお礼をしたい。
「……それにしても、かなりちゃんとしてるなぁ」
ディッシュさんと職員のやり取りを聞いていると、思った以上にしっかりした契約システムに驚かされる。
俺はてっきり、普通に設計図を売るだけだと思っていたが、設計図自体の売却額に加えて、ライセンス料的なものを貰えるらしい。
設計図を売ってから向こう一年間、ドリンクバー装置が売れる度に一定割合のお金が入ってくる。
職員に尋ねてみたところ、こうしたライセンス制度はごく一般的なものだそうだ。
料理のレシピも大切にする文化があるし、そのような背景から浸透した制度なのかもしれない。
ちなみに、俺とディッシュさんの取り分であるが、俺の希望で3:7にしてもらった。
ディッシュさんは五分五分で構わないといったが、さすがに半分も貰うのは申し訳なさすぎる。
そもそも、自分の取り分を貰えるだけでもありがたいことなのだ。
貰ったお金は店をよくするための投資に回し、王都民達への還元に使おうと決めた。
まあ、還元に使うとはいっても、大した額にはならないだろうけど。
前世でいうファミレスのような店が多いわけではないし、わざわざ装置を必要とする人達は少ないだろうからな。
ディッシュさんの工房に問い合わせている人達も、どちらかといえばそのエンタメ性、物珍しさに興味を持った可能性が高い。
そんなことを考えていると、ディッシュさん達の話が終わる。無事に契約が締結されたようだ。
「それでは、今後の話ですが――」
最後に、職員が今後の装置の扱いに関する話をする。
契約によって装置の管理権は商人ギルドに移ったため、俺達がやることは特にないそうだ。
もし俺の店で装置について尋ねてくるお客さんがいたら、商人ギルドに話を持っていくよう伝えるだけでいい。
装置の特性上、料理人ギルドに問い合わせる人もいるだろうが、そちらについても話を通しておくとのことだ。
「ありがとうございました」
職員に礼を言い、ディッシュさんと共に商人ギルドをあとにする。
こうして俺は、予期せぬライセンス収入を得ることになるのだった。
「店長、ディッシュさんという方が来ているのですが……」
営業を終え、キッチンの片付けをしていると、ホール掃除をしていたラテがやってくる。
「ディッシュさんが?」
「はい。ドリンクバーの機械について、ちょっとした話があるとのことです」
「了解。すぐに行くよ」
ディッシュさんは、ドリンクバーの装置を作ってくれた凄腕の魔道具職人。
わざわざ店にやってくるとは、一体どうしたんだろう?
ビア達に片付けを任せた俺は、早足で厨房の外に出る。
「――ディッシュさん、お待たせしました」
「いえいえ。お久しぶりです、メグルさん」
テーブル席に座っていたディッシュさんは、俺を見ると立ち上がって一礼する。
「急にお邪魔してしまいすみません。お時間は大丈夫でしょうか?」
「はい、全然大丈夫ですよ」
簡単な挨拶を済ませた俺達は、向かい合う形で着席する。
「それで、今日はどのようなご用向きで?」
「ええ、実は……先日作製したドリンクバー装置について、数件のレストランから私の工房に問い合わせが来ておりまして」
「ディッシュさんの工房に問い合わせが? ああ、もしかして……」
俺はそう言って、ポンと手を叩く。
ドリンクバー装置の仕入れ先について何度か質問を受けたと、カフィ達から聞いていたのだ。
ディッシュさんからも工房名は伝えていいと言われていたので、カフィ達から話を聞いた人達が問い合わせたのだろう。
「その、問い合わせというのは……?」
「装置の作製依頼です。ぜひ自分のレストランでも使いたい、と」
「なるほど」
「ただ、近々大きな仕事が入る予定でして、私のほうで対応するのが少し難しいんです」
ディッシュさんは首を横に振ると、「そこで」と話を続ける。
「先日描いたドリンクバー装置の設計図を、商人ギルドに売ってはどうかと思いまして」
「設計図を売るんですか?」
「ええ。そうすれば、私が対応できない分の装置を他の工房に任せられます。とはいえ、あの装置の発案者はメグルさんですからね。メグルさんが嫌と言えば無理には売りません」
「いえ、売っても大丈夫ですよ。問い合わせが多いと、ディッシュさんの負担になっちゃいますし」
「ありがとうございます」
「いえいえ。むしろ、わざわざ伝えに来てくれてありがとうございます」
正直、装置の設計は全てディッシュさん頼みだったし、設計図の取り扱いに口を挟む気は毛頭ない。
律義な人だなと笑っていると、「勝手には売れませんよ」とディッシュさんは苦笑する。
「メグルさんのアイディアなしには生まれなかった装置です。アイディア料として、メグルさんの取り分もあります」
「そんな、悪いですよ……」
アイディアと言っても、本当は俺が考えたわけじゃないし。
なんだか申し訳ない気持ちになるが、「貰ってください」と言うディッシュさんの真っすぐな目にしぶしぶ頷く。
「では、このままギルドに向かいますが、メグルさんも同行できそうですか? アイディア料の話等、メグルさんに関係する話もあるので」
「わかりました。同行します」
俺はそう答えると、席を立ったディッシュさんと共に商人ギルドへ向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
それからおよそ二十分後。
商人ギルドに着いた俺達は、さっそく職員と話を進めていく。
話を進めるといっても、俺は傍らで話を聞くだけで、この手のやり取りに慣れているというディッシュさんに任せっきりだ。
何から何まで申し訳ない限りなので、あとで何かお礼をしたい。
「……それにしても、かなりちゃんとしてるなぁ」
ディッシュさんと職員のやり取りを聞いていると、思った以上にしっかりした契約システムに驚かされる。
俺はてっきり、普通に設計図を売るだけだと思っていたが、設計図自体の売却額に加えて、ライセンス料的なものを貰えるらしい。
設計図を売ってから向こう一年間、ドリンクバー装置が売れる度に一定割合のお金が入ってくる。
職員に尋ねてみたところ、こうしたライセンス制度はごく一般的なものだそうだ。
料理のレシピも大切にする文化があるし、そのような背景から浸透した制度なのかもしれない。
ちなみに、俺とディッシュさんの取り分であるが、俺の希望で3:7にしてもらった。
ディッシュさんは五分五分で構わないといったが、さすがに半分も貰うのは申し訳なさすぎる。
そもそも、自分の取り分を貰えるだけでもありがたいことなのだ。
貰ったお金は店をよくするための投資に回し、王都民達への還元に使おうと決めた。
まあ、還元に使うとはいっても、大した額にはならないだろうけど。
前世でいうファミレスのような店が多いわけではないし、わざわざ装置を必要とする人達は少ないだろうからな。
ディッシュさんの工房に問い合わせている人達も、どちらかといえばそのエンタメ性、物珍しさに興味を持った可能性が高い。
そんなことを考えていると、ディッシュさん達の話が終わる。無事に契約が締結されたようだ。
「それでは、今後の話ですが――」
最後に、職員が今後の装置の扱いに関する話をする。
契約によって装置の管理権は商人ギルドに移ったため、俺達がやることは特にないそうだ。
もし俺の店で装置について尋ねてくるお客さんがいたら、商人ギルドに話を持っていくよう伝えるだけでいい。
装置の特性上、料理人ギルドに問い合わせる人もいるだろうが、そちらについても話を通しておくとのことだ。
「ありがとうございました」
職員に礼を言い、ディッシュさんと共に商人ギルドをあとにする。
こうして俺は、予期せぬライセンス収入を得ることになるのだった。
9
お気に入りに追加
3,137
あなたにおすすめの小説
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。


(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
神に愛された子
鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。
家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。
常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった!
平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――!
感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。