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ポーション監修編
閑話 幸せのひと時
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※前話(第116話『大人気』)の更新時、章の設定を忘れており、最新話が先頭に来るというミスが起きました。
ご指摘をいただき既に修正済みですが、もし前話で「更新されてないぞ?」となった方は、前話からお読みいただけると幸いです。
ご不便をおかけしてすみません。
------------------------------------
エッセン二区のとある一軒家にて。
一人の小柄な女の子が、鼻歌を歌いながら玄関のドアから外に出た。
「今日はどこにしようかな?」
楽しそうに呟く彼女は、花精族のミーツ。
種族のトレードマークである頭頂部の花が、ミーツの感情に合わせて揺れている。
ちょうどこれから、毎日の楽しみであるランチに出かけるところなのだ。
「そうだなぁ…………やっぱり『グルメの家』かな?」
しばらく頭を捻った後、ミーツは行き先を決定する。
一区と二区の境目付近にある『グルメの家』。
約半年前の新店フェスで注目を浴び、以来絶えず客で賑わっている人気店だ。
ミーツも一カ月前に初めて訪れ、もののの見事にドハマりした。
どのメニューもとにかく革新的で、食べた瞬間に幸せが広がるのだ。
そして、『グルメの家』が独自に始めたテイクアウト――持ち帰りに特化した料理の販売も、ミーツは大いに気に入っていた。
ミーツの母は体が弱く、あまり外に出る機会がない。
当然、ミーツと一緒にランチに行くことも稀だったが、テイクアウトを使えばランチの幸せを共有できる。
母も『グルメの家』のテイクアウト料理を気に入り、持って帰ると喜んでくれるため、店内飲食にした日でも母のための料理を買っていた。
「……もう少し!」
慣れた様子で狭い近道を抜け、早歩きすること十五分。
ここ一カ月で十回は目にした『グルメの家』の看板が現れる。
「ん? なんだろう……?」
扉の前にはいつも通り、店内飲食待ちの行列ができているが、それとは別の行列――テイクアウト窓口の行列が異様に長かった。
常に人気で混んでいるとはいえ、普段の二倍以上の長さなのだ。
(どうしたんだろ……?)
不思議に思ったミーツがテイクアウト窓口に目をやると、見慣れない謎の機械が置かれていた。
四角い形の魔道具と思わしき機械で、客の一人がコップを設置している。
(あ、もしかして……)
それを見て、ミーツはふと思い出す。
前回の訪問時、ドリンクに関する告知のビラをもらったのだ。
(たしか、ドリンク用の機械を設置するんだったっけ?)
そう思いながら見ていると、コップを設置した男性が歓声を上げた。
「おお! 本当にドリンクが出てきたぞ! こりゃすげぇ」
男性の腕に隠れてミーツにはよく見えなかったが、今の一瞬でドリンクが注がれたようだ。
(なんかすごそう! 私もやってみたい!)
感動した様子の男性を見て、ミーツの好奇心が刺激される。
(あの行列だと売り切れ商品が出そうだし……)
ミーツはそう考え、テイクアウトの列に並ぶことにした。
何より、ドリンクの機械が気になるのだ。
そわそわしながら待つこと約三十分、ついにミーツの順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ」
「えっと、ハンバーガーと照り焼きバーガーを一つずつ。フライドポテトを二つをお願いします! あと、バタークッキーを二つ。それと……」
まずはいつも通り、自分と母の分の料理を注文し、窓口の脇に置かれたメニュー表を見るミーツ。
これまではなかったドリンクメニューが追加されている。
「林檎ジュースを一つと、紅茶を一つお願いします!」
「かしこまりました。コップはウチの店の物でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!
コップについては先日のビラで知っていたので、ミーツはそう答える。
「それでは、こちらのコップを。こちらの機械にセットして、注文されたドリンクのボタンを押してください。ドリンクは押している間だけ注がれます」
「わかりました!」
ミーツは元気に頷くと、さっそくコップを機械にセットする。
(まずは……林檎ジュースから!)
自分用に注文した林檎ジュース。
心地よい甘さと優しい酸味が味わい深い、ミーツお気に入りのドリンクである。
「わあっ……!」
『林檎ジュース』と書かれたボタンを押した瞬間、筒状の注ぎ口からジュースが出てきた。
(すごい! どんな仕組みなんだろう?)
林檎ジュースを注ぎ終え、コップに顔を近づけると、店内で頼んだ時と同じ、新鮮な匂いがする。
(じゃあ、紅茶のほうも……)
そうしてミーツは、機械でドリンクを注ぐという初めての体験を楽しむのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「――でね! こうボタンを押したら、ジャーってドリンクが出てくるんだよ! 料金も注いだ量に応じて表示されて、すごかったんだ!」
「あらあら、すごいわねぇ」
それから約二十分後。
自分の家に戻ったミーツは、母とテーブルを挟んでいた。
テーブルの上には、二種のハンバーガー、フライドポテト、バタークッキーが並んでいる。
「それでね――」
コップを持ちながら興奮気味に語るミーツを、彼女の母は微笑ましい気持ちで見る。
美味しい料理を食べる時間は幸せだが、楽しそうな娘の様子を見るのもまた幸せだった。
「あら、これ美味しいわね」
「ほんと? よかったぁ。林檎ジュースも美味しいから、一口飲んでみてよ」
紅茶を一口飲んだ母に、林檎ジュースを勧めるミーツ。
「ありがとう――甘くて美味しいわ。こんな美味しいフルーツジュースは初めてよ」
「でしょ?」
笑って言う母に、ミーツも笑顔で返す。
店で美味しい料理を食べる時間も大好きだが、こうして母と食べる時間は、特別で大切なものだ。
「それじゃあ食べましょうか」
「うん!」
ミーツはテイクアウトを始めた『グルメの家』に感謝しつつ、料理に手を伸ばすのだった。
ご指摘をいただき既に修正済みですが、もし前話で「更新されてないぞ?」となった方は、前話からお読みいただけると幸いです。
ご不便をおかけしてすみません。
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エッセン二区のとある一軒家にて。
一人の小柄な女の子が、鼻歌を歌いながら玄関のドアから外に出た。
「今日はどこにしようかな?」
楽しそうに呟く彼女は、花精族のミーツ。
種族のトレードマークである頭頂部の花が、ミーツの感情に合わせて揺れている。
ちょうどこれから、毎日の楽しみであるランチに出かけるところなのだ。
「そうだなぁ…………やっぱり『グルメの家』かな?」
しばらく頭を捻った後、ミーツは行き先を決定する。
一区と二区の境目付近にある『グルメの家』。
約半年前の新店フェスで注目を浴び、以来絶えず客で賑わっている人気店だ。
ミーツも一カ月前に初めて訪れ、もののの見事にドハマりした。
どのメニューもとにかく革新的で、食べた瞬間に幸せが広がるのだ。
そして、『グルメの家』が独自に始めたテイクアウト――持ち帰りに特化した料理の販売も、ミーツは大いに気に入っていた。
ミーツの母は体が弱く、あまり外に出る機会がない。
当然、ミーツと一緒にランチに行くことも稀だったが、テイクアウトを使えばランチの幸せを共有できる。
母も『グルメの家』のテイクアウト料理を気に入り、持って帰ると喜んでくれるため、店内飲食にした日でも母のための料理を買っていた。
「……もう少し!」
慣れた様子で狭い近道を抜け、早歩きすること十五分。
ここ一カ月で十回は目にした『グルメの家』の看板が現れる。
「ん? なんだろう……?」
扉の前にはいつも通り、店内飲食待ちの行列ができているが、それとは別の行列――テイクアウト窓口の行列が異様に長かった。
常に人気で混んでいるとはいえ、普段の二倍以上の長さなのだ。
(どうしたんだろ……?)
不思議に思ったミーツがテイクアウト窓口に目をやると、見慣れない謎の機械が置かれていた。
四角い形の魔道具と思わしき機械で、客の一人がコップを設置している。
(あ、もしかして……)
それを見て、ミーツはふと思い出す。
前回の訪問時、ドリンクに関する告知のビラをもらったのだ。
(たしか、ドリンク用の機械を設置するんだったっけ?)
そう思いながら見ていると、コップを設置した男性が歓声を上げた。
「おお! 本当にドリンクが出てきたぞ! こりゃすげぇ」
男性の腕に隠れてミーツにはよく見えなかったが、今の一瞬でドリンクが注がれたようだ。
(なんかすごそう! 私もやってみたい!)
感動した様子の男性を見て、ミーツの好奇心が刺激される。
(あの行列だと売り切れ商品が出そうだし……)
ミーツはそう考え、テイクアウトの列に並ぶことにした。
何より、ドリンクの機械が気になるのだ。
そわそわしながら待つこと約三十分、ついにミーツの順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ」
「えっと、ハンバーガーと照り焼きバーガーを一つずつ。フライドポテトを二つをお願いします! あと、バタークッキーを二つ。それと……」
まずはいつも通り、自分と母の分の料理を注文し、窓口の脇に置かれたメニュー表を見るミーツ。
これまではなかったドリンクメニューが追加されている。
「林檎ジュースを一つと、紅茶を一つお願いします!」
「かしこまりました。コップはウチの店の物でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!
コップについては先日のビラで知っていたので、ミーツはそう答える。
「それでは、こちらのコップを。こちらの機械にセットして、注文されたドリンクのボタンを押してください。ドリンクは押している間だけ注がれます」
「わかりました!」
ミーツは元気に頷くと、さっそくコップを機械にセットする。
(まずは……林檎ジュースから!)
自分用に注文した林檎ジュース。
心地よい甘さと優しい酸味が味わい深い、ミーツお気に入りのドリンクである。
「わあっ……!」
『林檎ジュース』と書かれたボタンを押した瞬間、筒状の注ぎ口からジュースが出てきた。
(すごい! どんな仕組みなんだろう?)
林檎ジュースを注ぎ終え、コップに顔を近づけると、店内で頼んだ時と同じ、新鮮な匂いがする。
(じゃあ、紅茶のほうも……)
そうしてミーツは、機械でドリンクを注ぐという初めての体験を楽しむのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「――でね! こうボタンを押したら、ジャーってドリンクが出てくるんだよ! 料金も注いだ量に応じて表示されて、すごかったんだ!」
「あらあら、すごいわねぇ」
それから約二十分後。
自分の家に戻ったミーツは、母とテーブルを挟んでいた。
テーブルの上には、二種のハンバーガー、フライドポテト、バタークッキーが並んでいる。
「それでね――」
コップを持ちながら興奮気味に語るミーツを、彼女の母は微笑ましい気持ちで見る。
美味しい料理を食べる時間は幸せだが、楽しそうな娘の様子を見るのもまた幸せだった。
「あら、これ美味しいわね」
「ほんと? よかったぁ。林檎ジュースも美味しいから、一口飲んでみてよ」
紅茶を一口飲んだ母に、林檎ジュースを勧めるミーツ。
「ありがとう――甘くて美味しいわ。こんな美味しいフルーツジュースは初めてよ」
「でしょ?」
笑って言う母に、ミーツも笑顔で返す。
店で美味しい料理を食べる時間も大好きだが、こうして母と食べる時間は、特別で大切なものだ。
「それじゃあ食べましょうか」
「うん!」
ミーツはテイクアウトを始めた『グルメの家』に感謝しつつ、料理に手を伸ばすのだった。
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