――ネームと下絵が完成したら、次はペン入れの作業になりますね。
ペン入れは苦手です……! 下絵をなぞる作業なので、きれいに正解の線を選ばないといけないんですが、その正解を選ぶのに時間がかかってしまいます。特に顔のパーツは、ドット単位のズレでも印象が変わってしまうため、気が抜けませんね。線を入れて、違うと思ったらすぐに修正……というのを繰り返しています。
――描いた瞬間に違うとわかるのですか?
集中しすぎて、トランス状態のようになっていると気付けませんね。たいていは集中を切ったあと、描いた部分を見直している時に気づきます。1ページ分のペン入れが終わったら、必ず印刷して確認しますが、そのタイミングで見つかる時もあったり。何度も何度も修正しても正解の線を描ききれず、正直に言うと単行本になったあとでも描き直したいところもありますね……。一発で正解の線が引ければ、こんなに時間がかかることはないと思うんですけど(苦笑)
――なるほど、それでは正解の線がすんなり描けたページを教えていただけますか?
あまりないんですが……コミックス第2巻の総扉は、スッと描けた気がします(笑)
――逆に時間がかかった場所は?
それはやっぱり、亜空に種族が勢ぞろいする第9話です。正解・不正解以前に、人外の数が多くて多くて(笑)。澪が「災害の黒蜘蛛」で登場する第6話〜第7話も、ものすごく大変でした。蜘蛛にツヤベタみたいな線が入っていますが、ちゃんと1本1本描き込んでいるんです! 描いても描いても終わらなくて、まさに澪地獄でしたね(笑)
――そんな苦労の多いペン入れが終わったら、いよいよ仕上げですね。トーンはどんなものをよく使っていますか?
特に凝ったりすることはなく、70線の10%、30%、50%の3種類で、ほぼ全部回しています。あとはグラデーションのトーンですね。
――自作のトーンやテクスチャは持っていますか?
ちょこちょこ持っていますが、あまり使っていませんね。「月が導く」でいえば、「FF11」(スクウェア・エニックス)のアンソロジーの頃からお付き合いがある、菊野郎先生自作の「鱗ブラシ」を少し使わせていただいています。「鱗がうまく描けない」って泣きついたら、何種類かいただきました(笑)。コミックス第1巻の描き下ろし4コマの扉に描いた蜃の鱗 や、巴の袴の下の帯がそうですね。とはいえ、大きなコマで使うとブラシ感が出てしまうので、結局ペンで描いてしまうことも多いです。
――他に、仕上げの時に気をつけていることはありますか?
そうですね……。仕上げだけでなくペン入れの段階からなのですが、セリフを常に作画中の原稿に表示するようにしています。忘れっぽい性格なので、セリフを表示しておかないと、キャラクターの細かい感情がわからなくなるんです(笑)
――アシスタントさんを雇って、作業を分担したりは?
執筆は全部自分でやっています。個人的に一番大変な作業は、ネームとペン入れですけど……そこをアシスタントさんに頼むわけにはいかないですし(笑)。他の工程でも、作業をしながらこうしよう、ああしようって考えているので、自分でやっちゃった方が早いんです。
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