――第3回の今回は「月が導く」のコミック版が、どのようにしてでき上がっているのかに迫ります。まず連載開始にあたり、どのような作業を行っていたのでしょうか?
最初はメインキャラクターの設定画を描いて、編集さんに送りました。巴の服のデザインで 少し試行錯誤がありましたが、おおむねすんなりOKをいただいたように思います。キャラクターデザインが固まったら、そのあとは細かい設定画を加えつつ、編集さんと大まかなストーリー構成を話し合いました。
――設定画やストーリー構成案などの資料を拝見しましたが、詳しいうえに量も多くて、紙の束幅が1cm以上ありました!
私も見返したら、70ページ以上もあって驚きました(笑)。どこまでを設定に起こせばいいのかわからなくて、どんどん細かくなっていったんだと思います。実は編集さんに送ったもの以外にも、エマさんの髪型の構造図とか、自分で描くために必要な資料も作っています。仕組みがわからないと描けないし、自分でデザインしたものも実際に描く機会が少ないと 覚えていられないですからね(笑)
――設定や構成が決まったところで、今度は各話のネームに入っていくわけですね。
原作のここからここまでを描くと決めたら、頭の中にストーリーと人物をインプットして、 実際に動かしてみます。それをだいたい24ページ程度に振り分けていくのですが……内容をしっかりページ内に収める作業に、すごく時間がかかります! これまでずっと、アンソロジーなど短いページ数で漫画を描くことが多かったので、エピソードの区切りがだいたい8ページぐらいごとになっているように思いますね。
――ネームから液晶タブレットで作業しているんですよね?
はい、最初からデジタル作業です。まずは薄く色のついた線で、人物の位置取りや大まかなポーズなどを決めていきます。この時はまだ、髪の毛も表情も何もない素体の状態ですね。一般的には、この素体に多少の表情や体の動きを補足したものを「ネーム」というんだと思います。
――そうですね。
私の場合は、色のついた線で描かれたこの素体に、輪郭や髪の毛、手の位置などを描き加えて整えていきます。最後に、登場人物の感情を込めて表情を描き、編集さんに送る「ネーム」ができ上がります。前回も少し言いましたが、ある程度ちゃんとした絵を入れてみないと、ストーリーや構成自体が意図通りに進んでいるか判断できないんです。
――ネームが下絵を兼ねているということでしょうか。
いえ、実はまだデッサンやパースが少し狂ったりしているものも残っています(笑)。そのあたりは、ペン入れの段階で調整していますね。
――キャラクターのセリフ回しは、どのようにして考えていますか?
原作小説に沿って進めていますし、頭にインプットしたキャラがあれこれ動くので、彼らが 自分からセリフを言ってくれます。幸い、大きく悩むことはなくセリフが出てきてくれますね。主人公の真は、原作に幼少時のエピソードが描かれているから、これまでどう育ってきたかもわかって動かしやすいです! 美形の姉と妹に挟まれているから、「不細工」と言われることにも慣れているんだろうな……とか。他のキャラクターもそういう細かい情報が、本編やWebで発表されている「月が導く異世界道中extra」に書かれているので、描きやすくてありがたいです。
――「キャラクターを頭にインプットする」ということについて、もう少し詳しく説明していただけますか?
原作小説を読みながら、まずキャラクターの性格を把握するんです。その性格から、行動パターンを見つけて頭に登録します。たとえば、石と棒が目の前に落ちているとして、巴だったらふざけて叩き割るとか(笑)。そういう行動パターンがインプットされていれば、あとはキャラクターが自分から動いてくれます。もし、原作サイドで想定しているキャラクターの性格と、私が考えているキャラクターの性格に差があったら、ご指摘をいただいて私の頭の中の行動パターンを修正していく感じです。その積み重ねで、よりリアルにキャラクターが動いてくれるようになると思っています。
――なるほど。積み重ねは大事ですね。
「月が導く」に関しては、原作者のあずみ圭先生がしっかりキャラクターを描いてくださっているのが、特に大きいと思います。いろんなキャラクターが登場する作品ですが、各々に一貫性があるというか、心の動きに矛盾がないので、私も描きやすいです。
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