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3巻
3-1
しおりを挟むプロローグ
一輪の向日葵が、まるで笑顔を向けるように花開き、バルコニーに繋がる大きな窓から入る風に楽しそうに揺れている。その様子が私の可愛い息子に似ていて、思わず頬が緩んだ。
侍女のミランダに頼んで、息子がお見舞いにと手渡してくれた花束の一輪をベッドサイドテーブルの花瓶に飾ってもらったのだ。あまりにもにやにやしていたからか、息子がじっと見上げてくる。そのアイスブルーの瞳に自分の悪女らしいきつめの顔が映り、少しドキッとした。
前世で読んでいたネットマンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』に出てくる悪辣継母に転生してしまった私、山崎美咲――現世では、イザベル・ドーラ・シモンズは、十七歳という若さで、氷の大公と呼ばれる冷血公爵に後妻として嫁ぐこととなった。そこで出会った幼い男の子、ノア・キンバリー・ディバイン――マンガではイザベルが虐待していたこの小さな天使との出会いが、思わぬ方向へと私の運命を変えていくことになる。
冷血公爵の息子とは思えぬ可愛さで私の心を鷲掴みにした義息子のために、前世の知識を使っておもちゃやお菓子を作っていたら、なんと義息子だけでなく、マンガでの悪役の第二皇子まで虜にしてしまったの。そのうえ、いつの間にか悪役皇子様は、ノアの親友になっていたのよ!
おもちゃ屋さんを始めたり、皇帝陛下に毒を盛られたり、敵対していた厚化粧の皇后様が、実は冷血公爵推しの残念美女であることが発覚してママ友になったりと、マンガのストーリーとは大きくズレていったけれど、このままハッピーエンドになればいいと思っていたわ。でも残念ながら、そんなに簡単なことではないようなの。
なんと、『氷雪の英雄と聖光の宝玉』のラスボス――『悪魔』が皇城に潜伏していたのよ!
しかも、公爵様や皇后様も記憶を改竄されていることが発覚して大混乱。悪魔に対抗できるのは、物語の主人公である義息子と、ヒロインの聖女なのだけど、息子はまだ四歳。聖女のフローレンスにいたっては二歳の可愛い赤ちゃん。絶対無理でしょ!
成長するのを待つしかないのかしら、なんて思っていたら、今度は妖精が出てきて、何故か突然妖精が見える魔法を私にかけてきたからさぁ大変! 最近態度が軟化してきた冷血公爵こと旦那様も巻き込まれて、同じく妖精が見えるようになってしまったの。一体これからどうなるのよ!?
なんて、戦々恐々としつつ、妖精が見えるようになったことを誤魔化すために仮病療養していた私へ、可愛い息子が花束をプレゼントしてくれたのよ。人生初の花束のプレゼントは、天使からだったわ。
大喜びする私を見て、にっこり微笑む息子。そんな息子にますますデレデレになってしまうのも、無理はないわよね。しかも、ベッドによじ上っていた息子が、顔を覗き込んできて、「おかぁさま」とニコニコしながら私を呼んだのよ。本当、なんて可愛いのかしら。
「しょれとね、アスでんかの、おてがみ、きたのよ」
うふふと笑う天使が、嬉しそうに教えてくれる。
「そうですの。イーニアス殿下からお手紙が届いたのね。良かったわね」
「奥様、それが……」
ノア付きの侍女であるカミラが困ったように、イーニアス殿下からの手紙を差し出してくる。それを受け取り、ノアに見てもいいか確認してから開く。すると、手紙の他にもなにかが出てきた。
「これは……、招待状?」
「アスでんか、ごさいになるのよ!」
「ごさい……」
『イーニアスはもうすぐ誕生日なんだってさ!』
『ゴサーイ!』
『オメデトー!!』
公爵様についていったはずの妖精たちが、いつの間にかベッドのすぐそばにいて声を上げるものだから、肩が大きく跳ねた。
いつからそこにいたのよ!? というか、今、誕生日って言ったわよね? じゃあこの招待状は、イーニアス殿下の誕生パーティーの招待状!?
まだ四歳の息子に、皇子様からの招待状が届いたことに顔が盛大に引き攣る。
それにしても、妖精たちは殿下のことも知っているのね。一体いつから私たちを見ていたのかしら。
「はやく、おたんじょおび、きてほちぃの」
ノアは、イーニアス殿下の誕生パーティーを心待ちにしているようだ。
でも、皇族の誕生パーティーに幼い子供が参加して、大丈夫なのかしら? これは、公爵様に相談した方がいいわよね……。そういえば、公爵様はさっき妖精に聞きたいことがあるって言っていたけれど、結局妖精たちとなにを話したのかしら?
「ねぇ、旦那様とのお話って一体なんでしたの?」
「え? 旦那様とのお話ですか?」
あ、しまった。また声に出してしまったわ。カミラには妖精が見えていないのに。
『ナイショだよ。テオバルドとボクらの秘密さ! スフレパンケーキはテオバルドからもらったしね』
『トケター!』
『キエター!!』
そう。それは良かったわね……
「奥様?」
「あ、ごめんなさい。勘違いしてしまったわ。この招待状の件は旦那様にも伝えておきますわね」
「はい。よろしくお願いします!」
第一章 祝福の儀
翌日、医師にもう一度診察されたあと、問題ないと太鼓判を押され(仮病なので当たり前なのだけど)、やっと自由に邸内を動けるようになった。早速、朝食時、公爵様にイーニアス殿下の誕生パーティーについて聞いてみたのだけど……
「イーニアス殿下は誕生パーティーの前に、まず教会で『祝福の儀』をおこなう。それが皇族の慣例だ。パーティーはそのあと皇城でおこなわれることになっている」
「それには、旦那様も参加されるのですよね?」
「無論だ。当然、私の妻である君も招待されている」
最近習慣になってきた家族三人での朝食のおかげか、それとも一年一緒に暮らしてきて慣れたのか、公爵様から嘘のように殺伐とした雰囲気が消え、私との会話が成り立つようになってきた。
「どうやら、ノアがパーティーに招待されているようなのです」
「アスでんかから、ごしょおたい、されまちた」
隣でフレンチトーストを食べていたノアが顔を上げ、公爵様に自分で報告する。
「イーニアス殿下から直接か」
「はい! おてがみ、いちゃ、だきまちた」
「そうか……」
まぁっ、公爵様がノアと普通にお話ししているわ! ちょっと前まで、あんなに蔑ろにしていたのに……!
『連れていってやりなよ。ノアは小さいけど、賢い子だよ』
『マナー!』
『カンペキ!!』
なんでか一緒に朝食を食べている妖精たちが声を上げる。一方、公爵様の眉間には皺が寄っていた。
「通常、五歳未満……祝福を受ける前の子供は、皇城で開かれるパーティーには参加しないのだが……」
『ん~。それ、問題ないと思うなぁ』
『モンダイナーイ!』
『シンパイナーイ!!』
どういうこと?
「問題ないだと……?」
「旦那様」
妖精は私たちにしか見えない。それ以上話したら、使用人におかしな目で見られると思い、急いで止めに入る。その意図がわかったのだろう、公爵様は話すのをやめ、私を見て頷くと、ノアに言った。
「イーニアス殿下自らが公子……、ノアを招待したのだ。参加させぬわけにはいかないだろう」
「おとぅさま、わたち、さんかできましゅか?」
「ああ。だが、いつものように殿下に接してはならない。皇室のパーティーに参加するのならば、マナーをきちんと学ぶのだ」
「はい!」
公爵様が、父親らしいことを言っているわ……
「出発は、イザベルの体調を考慮し、一週間後とする」
『帝都に行くの? じゃあボクらのフローレンスにも会えるね!』
『フロ、イザベルスキー!』
『フロ、カワイー!!』
妖精たちの反応に、公爵様が、お前たちには言ってないというお顔をする。それを見て、つい笑ってしまい、今度は私が使用人たちにおかしな目で見られた。慌てて咳をして誤魔化す。
『帝都っていえば、テオバルドが昨日言っていた「悪魔」も帝都にいるんだよね』
『アクマー!』
『コワーイ!!』
横目でチラリと妖精たちを見つつも、なにも答えず朝食を再開する公爵様。
妖精たちが悪魔のことを知っているということは、昨日公爵様が彼らとしたお話は悪魔のことだったのかしら?
『祝福の儀』は聖なる場所である教会でおこなわれるため、悪魔は参加できないはず。順調に祝福の儀が終われば、イーニアス殿下は魔法が使えるようになるわ。ノアとは正反対の、炎の攻撃魔法を。
確か『氷雪の英雄と聖光の宝玉』では、代々グランニッシュ帝国の皇帝は炎の攻撃魔法の使い手だったはず。イーニアス殿下も例に漏れず、五歳の祝福の儀でそれが発現するのよ。しかも、歴代最強といわれる火魔法の使い手なのよね。将来有望なイーニアス殿下を見て、皇帝陛下がこの上なく上機嫌にしている描写があったっけ……あら? 今更だけれど、陛下って皇后様が産んだイーニアス殿下の他に、愛妾との間に十人も子供がいるけれど、その中で特にイーニアス殿下を可愛がっているというわけではないわよね。それなのに何故、祝福の儀でイーニアス殿下に炎の攻撃魔法が発現したからって、そこまで上機嫌になるのかしら? 他の子にも炎の攻撃魔法が発現する可能性はあるだろうに……
「イザベル、なにか気になることでもあるのか」
「え……あ、なんでもございませんわ。旦那様」
いけない。考え事に没頭していたわ。
「……君を悩ますものは全て取り除いてやりたいのだ。どうか、一人で苦しまないでほしい」
「だ、旦那様……っ」
ヒェェ!! ただでさえイケメンの公爵様が、イケメンなことを言っている!!
『テオバルドはイザベルのことが大好きなんだね!』
『ヒューヒュー!』
『アツアツ!!』
妖精たち! からかわないでちょうだい!!
「そうだな」
「へぇ!?」
な、な、な、なに言ってますのォォ!?
◇ ◇ ◇
『うわぁ! 変形だ!!』
『ヘンケー!』
『フラット!!』
一週間後、帝都に向かった私たち三人……と、何故か当然のようにいる妖精三人は、新型馬車に揺られていた。
広いはずの馬車が狭く感じるわ。
ノアが眠りについたので、座席をベッドに変形させると、妖精たちがここぞとばかりに騒ぎ出す。
「お前たちは一瞬で帝都に行けるのだろう。何故そうしない」
公爵様が眉をひそめ、溜め息を吐いた。
『え~。そんなの楽しくないよ。旅は道連れっていうじゃないか。皆で楽しく旅をしよう!』
『タビハミチヅレ、ヨハ』
『ナサケー!!』
私としては、なんだか最近公爵様と二人きりになると動悸がするので、妖精たちがいてくれてホッとしているのだけど。
『ノアは完全に眠っちゃったね。可愛いね』
『ノアカワイー!』
『ノアテンシー!!』
キノコたちが大きい妖精の肩から降りて、ノアの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。
どうやら妖精は子供好きみたい。
「そうでしょう。ノアは、世界一可愛い子ですもの」
鼻高々に自慢すると、公爵様がゴホンッとわざとらしく咳をした。
どうしたのかしら、と首を傾げて公爵様を見る。
「イザベル、その、君と交わした『魔法契約』のことだが……」
「はい。なにか問題がございましたか?」
「そろそろ、君からは触れない、という一文を変更しないか……」
公爵様がおずおずと、こちらを窺うようにして提案してきた。その様子が、お見舞いに来てくれた時のノアにそっくりで、やっぱり親子なのだわ、と妙に納得する。
「変更ですか? あの、どのように変更なさりたいのでしょうか?」
公爵様は女性嫌いだから、その一文が一番大切なはずよ。だってそれと引き換えにわたくしの実家を守ってもらう約束ですもの。……もしかして、最近私がおかしいから、もっと離れてほしいとか?
「君から性的接触はしないという契約だったが、その一文をなくしてしまいたいのだ」
はい?
「私は、君ならば触れられても構わ――」
『あー! ノアってばヨダレ出ちゃってるよ!』
『ヨダレー!』
『ダラダラー!!』
「あらあら、今拭きますわ」
口元を拭くと、ノアがころんと寝返りをうつ。乱れた布団を整えてから、公爵様に視線を戻した。
「わたくしは構いませんが、旦那様は大丈夫ですの? 女性に近付かれるのも、触られるのも苦手なのでしょう?」
「……正直に言えば、女性は今でも苦手だ。香水の匂いも、化粧の匂いも、甲高い声も、なにもかもが気持ち悪い」
「でしたら――」
「だが、イザベル」
公爵様は私をじっと見つめ、言ったのだ。
「君だけは違う」
「え……」
「君だけは、他とは違うんだ」
公爵様の言葉が、頭の中をぐるぐるしている。
口に出した本人はだんまりで、先程とは打って変わり、馬車内は静かだ。こういう時に妖精が騒いで気を紛らわせてくれたらいいのに、その妖精たちも、いつの間にかノアとともに眠っている。
馬車の揺れは心地よく、カッポカッポとリズムよく鳴る馬の蹄の音も、どこか子守歌のようで眠気を誘う。
妖精って眠るのね……なんてことを考えて落ち着かない気持ちを誤魔化しながら公爵様を見る。公爵様は目を閉じたまま動かない。
眠っているのかしら?
〝君だけは違う〟
公爵様は先程そうおっしゃったけれど、それって、女性として見ていないってこと? それとも……
「わたくしのことを……」
「……君を困らせたいわけじゃない」
静かな馬車の中に、公爵様の声が響く。いつの間にか公爵様が目を開けてこちらを見ていた。
「旦那様、起きていらっしゃったの?」
「そのような顔をするな。君が困るのなら、魔法契約の話は聞かなかったことにしてくれればいい」
「そんな……、お困りになるのは、旦那様ではないかと思いましたの」
「困らない」
困らないの? 女性が苦手なのに? 皇后様の話では、過去に酷いことをされたのでしょう?
「……イザベル、触れてもいいだろうか」
「ふ、ぇ? は、はい。構いませんわ」
公爵様は、エスコートする時のように私の手を取ると、そのまま掌と掌を合わせた。
「小さな手だ」
「だ、旦那様の手が大きいのですわっ」
いやだわ。ドキドキしてしまう。やっぱり、前世を含めて男性慣れしていないからかしら……。だって私、喪女のオタクよ。こんなアニメに出てきそうな美形に、こんなことされたら、心臓だって悲鳴をあげるでしょう!? これは、正常な反応なのだわ!
「こうして、君に触れていても……拒絶反応など出ない」
「そう、なのですか?」
私は、ドキドキして死にそうですわ。
「ああ。それどころか……」
公爵様は私の手に指を絡め、ぎゅっと握ったのだ。
「こうして、もっと触れていたくなる」
「ヒェェッ」
ちょっと待って! 手、指っ、絡め……!?
「おかしいだろう。女性など、吐き気がするほど嫌いだというのに……」
辛そうなお顔をされる旦那様に、また、皇后様のお話を思い出す。
……吐き気がするようなことを、されたから、なのでしょう?
「君だけなんだ。考えるだけで胸が痛むのも、こんな風に触れたいと思うのも」
「だ……旦那様、わたくし、このままだと死んでしまいますわ……っ」
そんな風に言われると、男性として意識してしまうもの! でもそうなると、この接触も、魔法契約の『性的接触』に当たるのではないかしら!?
「私を、意識してくれていると思ってもいいのか?」
「それは……っ、だってそんな風に言われたら、意識してしまいますでしょう!?」
だから離してください! わたくし、命の危機ですわ!
「そうか」
公爵様は私から手を離し、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「魔法契約の、君からの接触についての一文を変える必要があるとは思わないか?」
帝都に到着してすぐ、私たちは魔法契約の見直しをおこなった。確かこの間見直した時は、私と私の実家、そしてその領地を害する者から守るという内容を、公爵様が把握している危険から守る、という文言に変えたのよね。しかし、こんなに頻繫に見直しをする契約って、魔法契約である意味があるのかしら。
今回、見直しの結果、次の二点は削除されることになった。
●甲は、乙に性的な接触をしてはならない。
●甲は、乙に許可なく触れてはならない。ただし、意図しない接触は除く。
変更後の魔法契約は、こうだ。
●イザベル・ドーラ・ディバイン(以下、甲という)は、テオバルド・アロイス・ディバイン(以下、乙という)に対して、公爵夫人として従事する。
●乙は、甲と離婚してはならない。
●甲は、乙と離婚してはならない。【NEW】
●乙は、甲とシモンズ伯爵家とシモンズ伯爵領を、皇帝陛下、皇族、貴族、その他害をもたらす全ての者から守らなければならない。ただし、乙が認識していない害意による場合はそれに該当しない。
つまり、私からも離婚はできないことになっている。
というかこの契約変更、私にしか旨味がないのだけど。
公爵様にそう伝えると、「君からも離婚ができないということが私の旨味だ」と言い切られてしまった。
公爵様が、いつの間にか私に甘くなっている……!! もぅ……っ、私の心臓、爆発するんじゃないかしら。
「――おかぁさま、『しゅくふく』って、なぁに?」
イーニアス殿下からパーティーの招待状を貰って以降、ノアは皇室のパーティーのことや、作法などを教えてほしいと言うようになった。
わたくしの息子は、勉強熱心ね!
そして今日は、祝福の儀について尋ねられたのだ。
「『祝福』というのはね、教会で、神様に魔法を使わせてくださいってお願いして、いいよっていう許可を貰うことなのよ」
早速、妖精から教えてもらった正しい知識を伝えると、ノアは魔法という言葉に瞳を輝かせる。
「アスでんかは、まほー、ちゅかえる?」
「まだ使えないけれど、祝福を受けたら使えるようになるわ」
「しゅごい! まほー!!」
「ノアも来年、祝福の儀を受けるのよ」
「わたち、まほー、ちゅかえる?」
「教会で、きちんと祝福してもらったらね」
「っ! おかぁさま、わたち、きょおかい、いくのよ!!」
そう言って私の腕を引っ張る。どうやら今から行く気らしい。
「ノア、祝福の儀は五歳にならないと受けられないの。だから、今から行っても魔法は使えないのよ」
「しょぉなの?」
目に見えてしゅんとするので、「来年、お父様とお母様と一緒に教会へ行きましょう」と言い、慰めるように抱っこする。
あら、少し重くなっている……? よく見ると、背も少し伸びているみたい。毎日見ていると、案外気付かないものなのよね。
「はい!」
「さぁ、今日はお作法の勉強をしましょうね」
「おさほぉ!」
そういえば随分静かだけど……妖精たちはどこへ行ったのかしら?
その頃妖精たちは――
『フローレンス!』
『フロ!』
『キタ!!』
「あ~! よーてーたん」
『やっぱりフローレンスが一番可愛いね!』
『フロカワイー!』
『フロダイスキー!!』
「よーてーたん、らっこ!!」
『フローレンス、今は人間がいるから抱っこはできないんだ。人間の目にはフローレンスが消えたように映るから』
『フロキエル!』
『ニンゲン、キャー!!』
「う? らっこ!」
「あら、フローレンスちゃん、抱っこしてほしいの? そっちに手を伸ばしても誰もいないわよ? さ、こっちにおいで」
『あっ、ずるい! ボクだってフローレンスを抱っこしたいのに!』
『アカ、アタマノル!』
『アオ、カタノル!!』
「う~? らっこ、しゅき!!」
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