第7回ファンタジー小説大賞
選考概要
編集部内で一次選考において大賞候補作としたのは、「おとぎ話の、その後で」「効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める」「ゴブリンに転生したので、畑作することにした」「異世界を制御魔法で切り開け!」「異世界のTCG ~剣と魔法の世界をカードゲームで無双する~」「魔法学校の落ちこぼれ」「異世界コンビニ」「清純派魔導書と行く異世界旅行」「戦場のフロンティア ~気がついたら銃と兵器のゲーム世界に生産職で転生してた~」「転生しちゃったよ(いや、ごめん)」「黒の創造召喚師」「グランドアース戦記~月霜銃士隊疾風録~」「本一冊で事足りる異世界流浪物語」「竜に生まれまして」「勇者でも剣聖でも魔王でも俺様には勝てない」「サトコのパン屋、異世界へ行く」「迷宮と精霊の王国」「王立辺境警備隊宿舎前、似顔絵屋へようこそ」「辺境護民官ハル・アキルシウス(改訂版)」「異世界とチートな農園主」「ガシュアード王国王都南区にこにこ商店街」「のんびりVRMMO記」「魔王の村長さん」「アルゲートオンライン~侍が参る異世界道中~」「もしも剣と魔法の世界に日本の神社が出現したら」の25作品。
最近のウェブ小説の潮流であるほのぼの日常系や職業・生産系はじめ、王道の転生ものや学園もの、いまだ根強いVRMMOもの、さらに既存の枠に捉われないユニークな物語まで、幅広いジャンルの大賞候補作が選出された。
その後、最終選考で大賞候補として残ったのは、「おとぎ話の、その後で」「効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める」「ゴブリンに転生したので、畑作することにした」「異世界を制御魔法で切り開け!」「異世界コンビニ」「転生しちゃったよ(いや、ごめん)」「黒の創造召喚師」「のんびりVRMMO記」の8作品。
その中でとくに評価の高かった「効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める」を満場一致で大賞とした。また、大賞には届かないものの非常に優れた作品であった「ゴブリンに転生したので、畑作することにした」「のんびりVRMMO記」の2作を、新たに優秀賞という枠を設けて選出し、残りの作品を特別賞とした。すでに読者賞受賞が決まっていた「おとぎ話の、その後で」も、優秀賞に相応しいレベルの作品だった。
「効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める」は、魔導師が自分自身の過去に転生するというありそうでなかった設定のインパクトと、「効率的な修業」にこだわる主人公やヒロイン達のキャラの立て方など、総じてひとつとびぬけたレベルにあると支持を集めた。物語全体に漂うユルさも昨今のニーズに合致しており、ネットでの人気も頷ける作品であった。
「おとぎ話の、その後で」は、女性主人公による王道の学園ラブコメもの。とにかく文章が読みやすく、読者を一気に物語に引き込む力があると評価が高かった。王道のストーリー展開ではあるものの、目立ちたくなくとも意図せず目立ってしまう抜けた言動のヒロインに好感が持て、飽きずに楽しく読むことができた。
「ゴブリンに転生したので、畑作することにした」は、ゴブリンに転生した主人公のサバイバルな日常がほのぼのとした空気感で描かれたユニークな作品。前世の知能を生かして料理や畑作をしながら、ゴブリンの群れの中で何とか生き伸びようと四苦八苦する主人公の様子が非常に面白く、親しみの持てる作品だった。
「のんびりVRMMO記」は、細部までよく練られた設定と、ほのぼのとした牧歌的な雰囲気が魅力的な兄妹VRMMOもの。主夫的な兄と運動神経抜群のブラコン姉妹の掛け合いや、彼らがスキルアップに励みながら狩りや料理をプレイする様子がとても楽しそうに描かれており、読んでいて思わずゲームがやりたくなると好評だった。
「異世界を制御魔法で切り開け!」は、魔法に「制御工学」という要素を取り入れた、かつてないオリジナルな設定に加え、その特異な設定に負けないだけの起伏あるストーリー性が評価された。戦闘シーンなどでの盛り上げ方など、確かな筆力、構成力が窺える作品だった。
「異世界コンビニ」は、現代のコンビニが異世界に通じているという斬新な設定の作品。ヒロインやコンビニの店長、来店客にいたるまで、キャラクター一人ひとりが個性に溢れ好感が持て、彼らのコミカルな会話劇だけでも十分に楽しめると支持された。
「転生しちゃったよ(いや、ごめん)」は、読者ニーズの高い王道の転生設定ながら、主人公の幼い容姿と大人の精神のギャップがとてもユーモラスに描かれ、終始楽しく読み進められる作品であった。平易でわかりやすい文章も物語にマッチし、その筆力に対する評価も高かった。
「黒の創造召喚師」は、創造召喚というチート設定や少し影のある主人公のキャラクターなど、他とはやや毛色の違う魅力が詰まった点に支持が集まった。主人公が生み出す多彩な召喚獣達も個性に富んでおり、圧倒的な強さで敵を倒すバトルシーンも読み応え十分であった。
また大賞候補作の中には、他にも編集部において是非出版化を進めたい、あるいは出版化の道を探りたい作品が数多くあり、個別に連絡をしていく予定である。同じく大賞候補作以外にもレジーナブックスやノーチェブックスといったレーベルでの出版化を検討したい作品もあり、編集部より個別にオファーあるいは出版化への挑戦の打診をしていきたい。
効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める
おとぎ話の、その後で
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。学院内で目立たないように過ごそうとしているヴィクトリアが、無意識のうちに周りの人たちを次々と惹き付けていってしまう様がとにかく面白く、次は何が起こるのだろうと、ワクワクしながら読み進めました。出自が明らかになってきた彼女が、これからどういった道を歩むのか、今後の更新が楽しみです。
ゴブリンに転生したので、畑作することにした
ゴブリンに転生した主人公の日常が、独特の空気感で描かれている魅力的な作品でした。やや知性に欠けるゴブリン達の群れのなか、主人公であるグオーギガが知能を発揮して必死にサバイバルする姿には、思わずくすりと笑ってしまう楽しさがあります。「マーカー」が浮かぶといったRPG的な要素も、単なる転生モノとは一味違う効果に結びついていると思いました。今後の展開にも非常に期待が持てる作品です。
のんびりVRMMO記
兄妹三人が仲良くVRMMOをプレイする様子がとても楽しそうに、またほのぼのと描かれ、思わずゲームがしたくなるようなワクワク感を楽しめました。合間の掲示板も閑話として効果的で、住人達に温かく見守られている三人に微笑ましくなります。総じて、タイトル通り「のんびり」を地で行くとても魅力ある作品に仕上がっていると思いました。
異世界を制御魔法で切り開け!
「制御工学」を魔法に取り入れるという異色のチート設定に他の作品にはない魅力を感じました。チートである一方で、主人公エヴァンによる単なる無双モノの展開ではなく、きちんと窮地があり、それをさまざまな制御魔法を駆使して切り抜けるという見せ場の作り方も巧みで、読み応えのある作品になっていると感じました。
異世界コンビニ
異世界のコンビニで働くという、ありそうでなかった設定が非常に魅力的だと思います。コンビニという狭い空間が舞台でありながら、各キャラの会話のテンポのよさ、そしてヒロインの冷めたツッコミによって、楽しく読み進めることができました。一方で、異世界と地球との世界の隔たりの描写は深く、ノリの良さだけで終わらない重みもまた感じました。
転生しちゃったよ(いや、ごめん)
始まりから王道の転生チートモノですが、軽快な文体とキャラクターのユニークさで、読者をどんどん物語に引き込んでいく優れた作品だと感じました。とくに地の文における主人公ウィルの思考、コミカルな語り口は秀逸で、一歩間違えれば読者を飽かせてしまう赤ん坊時代からの成長過程も、まったく飽くことなく、おもしろおかしく読み進められました。
黒の創造召喚師
ニーズの高い王道の転生チート展開に加え、「創造召喚魔法」という設定がとても魅力的でした。リルやコクヨウといった実際に召喚する魔獣も、単なる召喚獣ではなく、個性的なキャラとして確立されているため、主人公ツグナと彼らが連携しながら無双するバトルシーンもより楽しく読むことができました。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
魔導を極めきれなかった魔導師が、二度目の人生でさらに効率的に修業して魔導を極めるという設定がとてもユニークでした。老人口調のゼフはもとより、ミリィやレディアといったヒロイン達もどこか抜けた感じの魅力があります。細かな魔法設定も物語の面白さのひとつですが、個性的なキャラ達の存在感、彼らの掛け合いから漂うのんびりとしたユルさこそ、何より本作の魅力なのではないかと感じました。