第20回漫画大賞 春の陣
選考概要
今回、編集部内で大賞候補作としたのは「イケメンなαに狙われています」「保護者トリオに見守られて恋するDKの話」「大量殺人鬼になった魔法少女が仲間に殺される話」「バケモノのワスレモノ」「私が騎士を目指すまで」「エリア404」「神域のアンダーグラウンド」「AIペンギン アイちゃん」「お花屋さんと花を食べる吸血鬼のお話」「神クジ当選第1538回」「僕達のシン世界」「ねる」「リトル・シャノワール ねこがにんげんになっちゃった」「HARDLUCK CLIMBERS!!」「おともだちドール」「穴の行き先」の16作品。
個性が光る魅力的な候補作の中から、編集部内で広く支持を得た「お花屋さんと花を食べる吸血鬼のお話」を大賞(賞金50万円)に選出した。「大賞」作の選出はこれで8大会連続となり、投稿作品のさらなるレベルアップを感じさせる結果となった。
続く各賞の選考では、次いで支持を集めた「エリア404」を編集長賞(賞金10万円)に、「僕達のシン世界」をネコ部長賞(賞金10万円)に、「保護者トリオに見守られて恋するDKの話」をBL賞(賞金10万円)に選出した。
さらに今後の活躍への期待感から、「リトル・シャノワール ねこがにんげんになっちゃった」と「私が騎士を目指すまで」を特別賞(賞金各5万円)に選出する結果となった。
「お花屋さんと花を食べる吸血鬼のお話」は、花を食べる吸血鬼の少女と花屋の店主の日常を描いたファンタジー作品。短いページ数ながら物語をしっかりとまとめる力量と華やかな絵柄が高い評価を得た。また、キャラクターの表情が豊かに描かれており、魅力をしっかりと伝えることが出来ている点も好印象。画面の作り方やコマ割りに関しては細かい絵が多く見受けられるため、見せ場では大胆な構成に挑戦することで更に高いレベルに昇華していってほしい。
「エリア404」は、とある囚人が監獄に収監されることから始まる、キャラクターの思惑が複雑に交錯する復讐劇。監獄という限定された状況の中で主人公や周囲の人間の過去について解明される過程が興味をそそり、シビアな内容を最終話まで読ませる力量が評価を集めた。顔や表情の描き方が硬めなのでもっとバリエーションをつけられれば、絵からも情報を伝えやすくなるだろう。
「僕達のシン世界」は、獣人たちが暮らす世界を舞台に「マモノ化」の謎に挑む兄弟の冒険を描いたファンタジー作品。圧倒的な描き込みと先が気になるストーリー展開で、読者を掴んで離さない作品性が評価された。今後は画面全体の構成を整理して読みやすさやメリハリを意識できるようになると、さらに飛躍が期待できる。
「保護者トリオに見守られて恋するDKの話」は、友人たちに見守られながら一途に恋する“先輩”と、その先輩からの告白を「罰ゲーム」だと勘違いする“後輩男子“の噛み合わない恋の物語。ギャップのある人物像や脇を固める個性的な友人達の掛け合いから、2人のすれ違いや甘酸っぱい関係性などラブコメとしての面白さを確立できている。上半身の構図がやや多めなので引きの構図を意識して取り入れると、より効果的な演出が可能になるだろう。
「リトル・シャノワール ねこがにんげんになっちゃった」は、いなくなったご主人さまを探すためネコだった主人公が人間に変身して旅をするファンタジー作品。整った見やすい線に丁寧な仕上げ、生き生きとしたヒロインが目を引く作品になっていた。一方で、やや行き当たりばったり感が否めないストーリー展開となっている点が惜しい。伏線や結末までの道のりを意識した物語構成を心がけてほしい。
「私が騎士を目指すまで」は、とある王国の地方に住む少女が騎士を目指し奮闘する物語。主人公の設定と目的がはっきりしているため読みやすく、感情移入しながら世界観を楽しむことができた。ただ1話の掴みが弱く、勢いと出来事のみで展開をゴリ押ししているように見えるため、各シーンを掘り下げて描くことができればさらにブラッシュアップできるだろう。
惜しくも受賞を逃した10作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。
「イケメンなαに狙われています」は、オメガバースを題材に訳ありΩの青年が初恋の相手に再会するBL作品。イケメンを描くのが特にお上手で、端整なキャラクターデザインは読者に訴求するものとなっている。しかし、背景の少なさや駆け足な展開、あっさりした心理描写が目立つため、ストーリーを追いにくい。読み手を意識した分かりやすい漫画作りができるとさらに良くなるだろう。
「大量殺人鬼になった魔法少女が仲間に殺される話」は、魔法少女だった女の子が徐々に殺人の快楽に目覚めていく姿を描いたダークファンタジー。美麗なキャラクターデザインで画面に華がある点が高く評価された。一方でストーリーは読者に理解してもらおうとする意識がやや希薄。読者視点でより分かりやすい構成を意識できると良いだろう。
「バケモノのワスレモノ」は、霊体になってしまった主人公が視えるクラスメイトと繰り広げるホラーな日常を描いた作品。見せ場を際立たせる思い切った画面作りができるのは強い武器。一方、絵については線が均一に太めで、雑な印象を読者に与えてしまうので、強弱を意識して描いていってほしい。
「神域のアンダーグラウンド」は、自分のせいで幼馴染が行方不明になってしまった過去をもつ青年がひょんなことから異世界で魔物と戦うことになるバトルファンタジー。キャラクターの性格や関係性に謎めいた要素を入れ込んでおり、読者の好奇心をかきたてるものになっていた。一方、画力についてはまだまだ発展途上な様子。まずは仕上げの精度をアップし画面の密度を上げることを目指していってほしい。
「AIペンギン アイちゃん」は、ある日青年の前に現れた「AI型ペンギン」アイちゃんを取り巻くギャグコメディ。主人公であるアイちゃんが憎らしくも愛らしい、クセになるキャラに仕上げられており、ギャグ漫画らしい個性溢れる作品となっていた。ただ、特に何かが進展する話ではないため、思わず続きが気になってしまうような発展性もしくは意外性、物語全体の主軸作りなど何かフックになる展開を意識できると良いだろう。
「神クジ当選第1538回」は、あずかり知らぬうちに神様の抽選に当たった青年と押し掛けてきた天使との交流を描いた日常作品。テンポよくお話を進めながらも、日常に変化が訪れる過程を細やかに描くことができていた。背景が簡素になりやすくあっさりした印象を与えるため、描き込みや濃淡を強めるなどして印象的にしたい。
「ねる」は、霊が見える少女・ネルがゆく先々で出会う人ならざるものを救うギャグファンタジー。独自のタッチでインパクトのある画面が作り出されており、本作でしか読めない世界観が構築されている。コマ割がやや詰まり気味なのと、文字量が多い箇所があるので、読みやすさを改善していくことが今後の課題だろう。
「HARDLUCK CLIMBERS!!」は、ツイていない高校生男女が友人作りに励む学園物語。可愛らしい絵柄で、登場する高校生たちをしっかりと描きわけられていたのが好印象。キャラクターにフォーカスしたコマが多くなりがちなので、俯瞰のアングルや人物が入らないコマを挟むなど、画面作りは読みやすさを意識していきたい。
「おともだちドール」は、命が宿ったドールとともに友達作りに励む少女の日常を描いたコメディ作品。読みやすいストーリー構成で、起承転結を付けてきちんとまとめられている点を評価した。ただ、キャラクターの表情が固く似通ってしまっている印象。表情パターンを増やし、画でもしっかり心情を表現していってほしい。
「穴の行き先」は、行き過ぎた呪いを払う「呪課」の職員が人々の気持ちを昇華していく物語。見せ場を印象的に演出することができており、お話を最後まで読ませる力があった。ストーリーは粗削りなため、設定や展開にオリジナリティを盛り込むことを追求してほしい。
「第20回漫画大賞 春の陣」は1,261作品という過去最多の応募があり、8回連続の大賞選出という大変喜ばしい結果に。年々作品内容のレベルが上がり、層が厚くなっていくなかで新たな才能の発掘に寄与出来、非常に充実した選考となった。次回以降も、大賞をとるような突出した作品が読めることを期待している。
お花屋さんと花を食べる吸血鬼のお話
異世界公爵様とOL奥さま
ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。美味しそうな料理と異なる世界に住む2人がひと時を分かち合う姿に心が温かくなるお話でした。同時に2人の関係もゆっくりと変化していき、お互いにとってなくてはならない存在である理由がきちんと伝わってきます。しかし、構成面に関しては同じようなアングルが多く、のっぺりした画面になってしまっています。背景の描き込みや小物、身体のパーツなど人物の表情以外でも情報が伝わるよう描いていきましょう。
エリア404
監獄での復讐劇というシリアスなテーマを、複数のキャラクターの思惑を絡めながら描ききっており高い筆力が窺えました。登場人物によって見えている事実が違う様子など心理描写の掘り下げもしっかりとされており、ストーリー展開に深みが生まれています。しかしながら、キャラクターの顔立ちや体格といったビジュアル面の描きわけが弱いため、せっかくの設定を活かすためにも出で立ちでキャラクターの区別をつけましょう。
僕達のシン世界
圧倒的な世界観と作者のこだわりを感じる設定で読んでいて引き込まれるお話になっていました。精緻な描き込みで描かれる獣人たちはそれぞれの動物の特徴が反映されており、キャラクターデザインからも物語世界に浸ることができます。ただ、緻密であるがゆえに見せ場や印象的にしたいシーンが埋もれてしまっている印象を受けるため、読者目線での読みやすさを意識して画面を整理しましょう。
保護者トリオに見守られて恋するDKの話
魅力的なキャラクターにテンポよく進むストーリー展開、ラブコメとして完成度の高い作品となっていました。なかでもキャラクター性は際立っており、読者が保護者トリオと一緒になって応援したくなる主人公像を作りあげられている点が素晴らしいです。ですが、キャラのバストアップや表情、会話で物語が展開されがちなので、俯瞰やあおりなど大胆な構図を取り入れ画面にメリハリをつけましょう。
リトル・シャノワール ねこがにんげんになっちゃった
ストーリー、画面構成、演出ともにしっかりとまとまっており、お話を読ませる力を持った作品となっていました。また、ヒロインを表情豊かに生き生きと描けているだけでなく、背景や小物など描き込みにも手を抜かずファンタジー世界を作りあげている点に画力の高さが見て取れます。ですが、ストーリー展開については王道のため、この作品でしか読めないオリジナリティを突き詰めて他作品との差別化をはかりましょう。
私が騎士を目指すまで
見せ場を意識した紙面構成に今後の展開への期待感をあおるような言葉選びで、読者目線での読み応えを考えた漫画作りができていました。回を追うごとに画力にも成長が見られ、常に試行錯誤している姿勢が素晴らしいです。一方で、主人公の動機付けや世界観の説明がやや言葉足らずで感情移入しづらくなってしまっているため、情報の出し方をもう一息丁寧にしてみましょう。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
安定した画力で描かれる洗練された画面作りに加えて、作り込まれた世界観が読者の興味を惹く全体的にレベルの高い作品となっていました。特に、12ページと短いページ数ながらも、花言葉やおとぎ話の要素を効果的に使って謎が気になる展開になっていた点は秀逸です。花や本のディテールも細やかで舞台設定やシチュエーションを的確に伝える空間描写が、読者を物語に入り込ませる要素となっています。一方で、ほとんどのコマに複数のフキダシが配置されてしまっているので、読者が読み疲れてしまう可能性があります。演出に合わせて文字量やコマのサイズなどメリハリをつけられると、さらに印象的な作品作りができるでしょう。