第10回ミステリー小説大賞
選考概要
編集部内で大賞候補作としたのは、「縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係」「サイコパスの狂奏曲 -だから僕は考えるのをやめた-」「桜の樹の下に君を埋めるといふこと」「鏡館殺人事件」「『ハレルヤ・ボイス』」「みさきクリーニングで会いましょう」の6作品。
最終選考の結果、満場一致で「サイコパスの狂奏曲 -だから僕は考えるのをやめた-」を大賞に選出することとした。本作は6作の中でも特に完成度が高く、難しいテーマをラストまで描き切った構成力は見事だった。ストーリーに加えてキャラクターもよく作り込まれており、日常シーンでの軽妙な掛け合いと、緊迫感のある事件パートのコントラストも秀逸。読者をぐいぐい引っ張る力のある作品だと高く評価された。
「縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係」は、刑事達が死刑囚の力を借りつつ、凶悪事件を解決していくサイコミステリー。よく書き込まれたレベルの高い力作であったが、設定やキャラクターに既視感があり、全体を通してやや冗長に感じられる点もマイナスとなった。
「鏡館殺人事件」は、外部と隔離された館が舞台の王道ミステリー。推理の過程が丁寧に描かれ、著者の筆力の高さがうかがえる良作だったが、各キャラクターのインパクトが弱く、ストーリーも目新しさに欠ける印象を受けた。
「桜の樹の下に君を埋めるといふこと」は、何気ない日常に差す不穏な影を上手く描いた青春ミステリー。様々な人物の視点で語られながらもよくまとまっていたが、キャラクター、ストーリーともにやや古臭く感じられる点が惜しかった。
「『ハレルヤ・ボイス』」は、奇跡の歌声の謎に迫る雑誌記者が、思いもよらぬ事件に巻き込まれていく物語。主人公の過去がストーリーと複雑に絡み合い、練られた設定ではあったが、全体的に描写が粗く、構成力が不足しているように感じられた。
「みさきクリーニングで会いましょう」は、推理作家を目指す主人公の日常を描いた作品。ほのぼのとした文章が心地よく、登場キャラクター達も魅力的だったが、ミステリー小説として物足りなく感じられる点が残念だった。
サイコパスの狂奏曲 -だから僕は考えるのをやめた-
黒猫堂古書店物語
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。古書店にやってくる様々な事情を抱えた人達と、彼らを取り巻く小さな謎が柔らかな文体で描かれた作品でした。ミステリアスな店主が謎を一つ解くたびに、主人公との関係も少しずつ深まっていき、心がほっこりと温まります。黒猫がいる古書店という設定も非常にキャッチーで、多くの読者が惹きつけられたのではないでしょうか。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
サイコパスと共感覚という難しい題材を扱いながらも、最後まで読者を退屈させずまとめあげた構成力は見事なものでした。物語の随所にちりばめられた伏線やミスリード、テンポの良い文体も、作品の魅力を高めている要素だと思います。また繊細な心理描写と丁寧な情景描写を通して、キャラクター達も生き生きと描かれており、エンターテインメント性に溢れる、完成度の高い小説でした。