第9回ホラー小説大賞
選考概要
編集部内で大賞候補作としたのは、「緩んだ蓋」「サイコさんの噂」「机引き」「輪ゴム」「アクアリウム」「マタウツル」「凍り鬼」「怨思の獄」「白くてつやつやして細長いちいさなつぶつぶ」の9作品。最終検討の結果、編集部満場一致で「サイコさんの噂」を大賞に選んだ。また、今回の審査では短編小説のエントリーが多い傾向にあって、ある程度のボリュームを最後まで書き上げている長編作に一定の評価が集まる結果となった。
「サイコさんの噂」は、ネットで流行する都市伝説が、高校生の少年の日常を侵食していくオカルトホラー。匿名掲示板や通話アプリといった日常的なモチーフを効果的に登場させ、また挿絵機能や背景、文字色など、ウェブコンテンツならではの手法で、視覚的にも楽しませてくれる作品だった。そうしたホラー演出もさることながら、長編をしっかりと書き上げた筆力が特に高く評価された。
「アクアリウム」は、世にも珍しい水生生物を扱う不思議な店舗にまつわる、不条理な物語。ユニークな設定とキャラクターは魅力にあふれていたが、状況描写や展開などに少し粗い印象があった。
「凍り鬼」は、ゆとり刑事と揶揄される主人公が、怪奇事件に立ち向かうストーリー。オカルトとミステリーを上手く組み合わせていたものの、全体を通してキャラクターの魅力を生かしきれていない点が惜しかった。
読者賞受賞作となった「緩んだ蓋」は、ずぼらな女と同棲する几帳面な男を描いた一人称視点の作品。盛り上がりとヒキの構成が巧みで、読者をぐっと引き込む力があり、その見事な文章力に票が集まった。
サイコさんの噂
緩んだ蓋
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。淡々とした語り口が読者の恐怖をうまくあおっていて、筆力の高さがうかがえる作品でした。日常生活におけるカップルの些細なやり取りにもリアリティがあり、その中で漂い始める不穏な空気に、読者もぐんぐん引き込まれていったのではないかと思います。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
現代的なネット文化と、因習や言い伝えなどの普遍的なホラー要素をうまく組み合わせた作品でした。表現や演出も丁寧で、読者を引き込む力のある物語だと感じます。特に、登場人物が悪霊を呼び出すシーンは臨場感に溢れ、挿絵機能も相まって恐怖心を強くあおられました。総合的にクオリティの高い作品だったと思います。