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第五章 悲恋の章

第十九話 万能治療薬の材料集め

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 私はルーナリア・テールナール…もとい、ルーナリア・バーンシュタット。

 姉のレオナリアからテールナール家は無くなったという事で、姉と同じ姓を名乗っております。

 本日は姉の手伝いでマンドレイクとマンドラゴラの採取に森にやって参りました。

 本来の姉なら1人でも問題は無いのですが…?

 傷心からあまり時間が経っていない姉を1人にするのも如何なものかと思って一応ついて来てはみたのですが…?

 どうやら必要は無かったみたいですね。

 姉は未練は無く吹っ切れた…と言っておりますが、向かって来るモンスターを片っ端から灰か炭に変えている所を見ていると…まだまだ継続中みたいで少し怖いです。

 「お姉ちゃん、やりすぎじゃ無いかな?」

 「そお?」

 確かに植物系の触手モンスターは、なまじ生命力が高いから動けなくなる迄というには分かるけど、流石に…ねぇ?

 ちなみにですが私は姉の事を以前までお姉様と呼んでいましたが、今は貴族では無いので一般の姉妹の様に呼んで欲しいとなってお姉ちゃんになりました。

 そして私の性格も…記憶が戻りつつある所為か、以前の様な口調になりました。

 だけど、男性に媚びる話し方や仕草はもうする気はありません。

 アレは私にとってはもう黒歴史なので。

 「お姉ちゃん、私達はマンドレイクとマンドラゴラを探しに来たんだよね? さっきから何か見当違いの場所を探している様な気がするんだけど…?」

 「この森は私も初めてでね、マンドレイクは独特のアンモニア臭を放つんだけど、それはある一定の距離に近付かないと分からなくて…それなら森の協力者にお願いしようかと思って。」

 「森の協力者?」

 「森の暴食・ワイルドボア」

 「確かにボアって…雑食で何でも食べるけど?」

 ボアは1日に食べる量が多過ぎて、小さな森だったら食べ尽くされる程の勢いで…ついたあだ名が森の暴食という事になっていたらしい。

 「なるほど、ボアにマンドレイクの生息地に案内をさせようというのね?」

 「ううん、幾らボアが暴食でもマンドレイクは食べないよ。 口に加えて引っこ抜いたら叫び声で死ぬかも知れない植物を食べる気は無いでしょうからね。」

 「なら…?」

 「ボアを走らせて、その場所には行かない場所にマンドレイクやマンドラゴラの生息地があるという事。」

 「行かない場所?」

 「火を触れば火傷をする、刃物を触れば怪我をする…という感じに、モンスターでも親なら子供に注意くらいするでしょう。 コレは食べられても、コレは食べられないとかね。」

 「確かに…あるのかなぁ?」

 「じゃなければ、そこら中にボアの死体が横たわっているわよ。 毒草を食べたボアが口から泡吹いたりして…」

 そう言えば私の時も子供の頃に色々注意されたっけ?

 針を触ると怪我をするとか、鋏を使うと手を切るとかで…モンスターの親子もそういった注意ってするのかな?

 私とお姉ちゃんは森の中を散策していると、中型のボアを見つけたのでとっ捕まえた。

 そして魅了魔法で服従させて森の中を歩かせていると…明らかにある場所を避けて歩くボアだった。

 「此処にマンドレイクやマンドラゴラが⁉︎」

 「もしくは、ボアでも勝てない強敵がいるかとかね。」

 お姉ちゃんは周囲を確認しながら私に合図を出して来た。

 私もお姉ちゃんの側によると、お姉ちゃんが指差した方向に大根の様な物が土に埋まっていた。

 「これがマンドラゴラ?」

 「これはマンドレイクね。 マンドレイクは茎が緑で、マンドラゴラは茎が紫だから…」

 「…となると、こっちかな?」

 私は指を刺すと、お姉ちゃんは頷いてみせた。

 「グリモアール!」

 お姉ちゃんは黒のグリモアールを出現させてから私に頷いて見せた。

 「グリモアール!」

 私はブリオッシュから貰った白のグリモアールを出現させた。

 私の白のグリモアールは、お姉ちゃんの黒のグリモアールと書かれている内容は一緒なんだけど…レベルによっては読める項目がまだなのもあり、それ程多くの項目は読めなかった。

 「ルーナリア、遮音結界はできる?」

 「お姉ちゃんの様にマンドレイクだけというのは無理かなぁ? まだ縮小は私には出来ないから…」

 「なら、ルーナリアは周りの警戒をお願いね。」

 そう言ってお姉ちゃんは、マンドレイクの周りに遮音結界を張ってから茎の根元を持って勢い良く引っこ抜いた。

 マンドレイクは叫び声を上げている…と思うんだけど、全く聞こえなかった。

 マンドレイクには注意点が幾つかあり、叫び声を聞いたら死ぬ…以外に、マンドラゴラにマンドレイクの叫び声が届いても襲って来るという物だった。

 仲間のピンチを助けるために行動するのかな?

 私はお姉ちゃんの持っているマンドレイクを見ていると、抜いた時に黄色い体だったのが現在では少し萎んで白くなっている。

 「もう少しで終わりなのかな?」

 「終わったら次に行くからね、ここにいる内の5匹くらい回収しましょう。 ルーナリアは鉢に植えておいて。」

 私はお姉ちゃんから受け取ったマンドレイクを鉢に植えた。

 遮音結界に限らず結界魔法は神経を使う。

 私も出来ない事はないんだけど、お姉ちゃんの様に特定の個体のみ縮小に…という風には出来ない。

 なので、お姉ちゃんの警戒を怠らないでというのはそういう意味があった。

 もしも結界がマンドラゴラに触れたりすると、攻撃をされていると錯覚して襲い掛かって来るという話だからだ。

 「マンドレイクって見た目がこんなだけど、マンドラゴラはどんな姿をしているんだろ?」

 …とは言え、興味本位で触ったりするのは危険。

 討伐ランクがDなので、今の私には少し荷が重い。

 なのでお姉ちゃんのマンドレイクの回収が終わってから、次はマンドラゴラ…なんだけど?

 「お姉ちゃん、次はマンドラゴラだよね? 今度はこれを引っこ抜くの?」

 「なんだけどねぇ? 私もマンドラゴラの姿って見た事なくて…」

 お姉ちゃんはマンドラゴラに向かって石を投げて、葉の部分に当てると…土の中から現れたのだった。

 …んだけど?

 何というか…丸っこい人型でヒョコヒョコとした動きをした可愛らしい姿をしていた。

 「マンドラゴラってこんな姿をしていたんだ?」

 「こんな姿をしていて冒険者ランクEが手も足も出ないの?」

 体長はマンドレイクと同じ1m弱くらいの体だった。

 マンドレイクと違い、土の中から出ると活発に動き始めていた…ただし次々と。

 「囲まれたね…私はこっちの4匹を受け持つから、ルーナリアは3匹を受け持って! 魔法は水魔法で溺死させてね。」

 「分かったわ!」

 「「ウォーターボール‼」」

 私とお姉ちゃんは水球の中にマンドラゴラを閉じ込めると、マンドラゴラ達は水球の中で藻掻いている。

 その動きはピョコピョコと可愛らしい動きをしていて…なんか可哀想で魔法を解除したくなった。

 「ルーナリア、考えている事は分かるけど耐えて!」

 「一応モンスターだもんね!」

 私とお姉ちゃんは、マンドラゴラ達が溺死するまで水球の中に閉じ込めていた。

 戦闘はつつがなく勝利を収めたんだけど、何だか罪悪感だけが残った。

 私はマンドラゴラ達を拘束魔法で纏めると、お姉ちゃんが転移魔法で店の前まで転移した。

 一瞬で移動出来る便利な魔法だけど、私は酔ってしまった。

 「何度か経験すれば酔わなくなるわよ。」

 「お姉ちゃんも最初は酔ったんだ?」

 「濃密な魔力に包まれるからね…今はもう平気だけど。」

 私はマンドレイクとマンドラゴラを持って店の中に入った。

 そして待っていたのは…こんなに可愛らしいマンドラゴラを磨り潰す作業と、マンドレイクの体液を絞り出す為に捻じる作業が待っていた。

 正直言って…戦う時より精神的にきつかった。

 こうして万能治療薬の材料は入手できたけど、もう二度と御免だった。

 「これ…精神的にキツいわ。 お姉ちゃんは良く平気な顔で出来るよね?」

 やはり私のお姉ちゃんは凄いと改めて知る事が出来た。
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